元勇者は安らかに眠りたかった

てけと

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第二章 闘技大会編

近接戦闘大会予選

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 半径200メートルほどの円形の闘技場。そこに直径100メートルほどの石畳がひかれている。
 そこに佇む数十名の人。各々武器を抜き、臨戦態勢。

 殺気でピリピリした空気の中に、一人緩い空気を醸し出した男がいた。

 大きな大剣を背負い、屈伸しつつ、その顔は緩み、笑みを浮かべていた。

『それではっ!魔法禁止の近接部門の予選を始める!ルールーは簡単。その舞台から落ちると失格。降参する際は素早く舞台から降りる事!大多数の回復職が控えている。思う存分己の力を示すがいい!予選を突破できるのは最後まで立っていた一人のみ!準備はいいか?・・・それではっ!始め!!』

 号令がかかり、怒号が会場を埋め尽くす。

 カァンカァン!と金属がぶつかり合う音。ある物は斧を振り回し、ある物は盾で敵を場外に飛ばす。
 怪我をしたり、場外に出たものは、即座に係員に引きづられ、回復魔法士の所に連れていかれる。


「弱い!弱すぎるぞお前らぁぁ!!」

 ロングソードを振り回し、迫ってくる男を一蹴する妙齢の男性。Aランク冒険者のラングと言う男だ。
 突き出される槍をギリギリで躱し、懐に入るや否や即座に斬り捨てる。

「この程度で魔王討伐など片腹痛いぞ!」

「なら俺の相手でもしてもらおうかな」

 かすかに笑みを浮かべた大剣を背負った男が話しかける。
 フードを深く被り、顔はよく見えない。しかし纏っている空気は歴戦のそれだった。

「ほう・・・なかなかやるようだな。獲物はそのデカい大剣か」
「おう!男はでっかく無粋なくらいがちょうどいい。だろ?」
「いや・・・俺はそうは思わんが」
「・・・そこは同意しとけよ・・・」

 大剣を正面に構えるフードの男。ロングソードを下段に構えるラング。双方少しの間睨み合う。
 
 最初に動いたのは大剣の男。即座に間合いを詰め、大きく振りかぶり、振り下ろす。
 半身ですれすれを避けようとした男は目を見開き、即座に横に飛ぶ。

 振り下ろされた大剣は石畳を砕き、その衝撃波で砕けた石畳が四方八方に飛ぶ。

「チッ・・・馬鹿力だけが自慢か」
「よく避けたじゃねえか。一撃で倒せなかったのは久々だ」
「抜かせっ!」

 ラングがフードの男の懐に飛び込む。あの大きな大剣のデメリットは超接近戦だと見抜いたからだ。
 腕と体を極限まで引き絞り、必殺の突きを鳩尾に放つ。

 しかしその剣は刺さらず、大剣を器用にクルっと回し、その突きを弾く。
 その隙を逃さず、即座にフードの男は膝蹴りをラングの鳩尾に放つ。

「ぐぁっ!」

 直撃を食らい、少し宙に浮いたラングを回し蹴りで飛ばし、即座にそれを追い、大剣を横になぐ。
 ガンッ!と大きな音を立て、ラングの体に大剣の側面が叩き込まれ、その勢いのまま、ラングは舞台の上から弾き飛ばされてしまった。

「くっそ・・・ツええ・・・最後のチャンスが予選落ちか・・・さすがに隠居すっかなぁ・・・」

 ラングは悔しそうに舞台の上を注視する。自分を運びにきた係員を下がらせ、観戦することにする。
 前回の討伐軍の時は若すぎた。今回は逆に年老い過ぎた。
 悔しかった。自分もこの世界の為に戦いたかった。その為に老いた体に鞭を打ち、ひたすら技術を磨いた。

「しっかし何者なんだあのフードの男は・・・底が見えん」

 大剣の男は苦も無くどんどん参加者を、舞台の上から叩きだしている。
 片手で軽々と振るわれる大きすぎる剣。しかしその動きは鈍重でなく軽やか。

 そうして間もなくして、彼以外の人はいなくなり、予選突破を果たした。
 ふぅ。と一息つくと、彼はフードをとる。

 それと同時になぜか安心してしまった。あぁ・・・この世界はもう大丈夫だなっと。

「あれが今回の勇者様かよ。強すぎんだろ・・・」

 ワアアアアアアアと上がる歓声に、勇者は片手をあげて応え、二カッと笑うのだった。











「あぁ~楽しかった」

 歓声を浴びつつ、舞台から降り、出口に向かう。出口には次の予選出場者が待っており、彼らから拍手を受ける。

 流石勇者様!とかやりますね!本選で是非一戦ご教授を!とかやんややんや言われる。
 しかし最後尾あたりで一人、俺の事をじっと睨んでいる人がいた。

 メリーだ。

「首を洗って待ってなさい。調子に乗れるのもあと数日よ」

 そう言われ、俺は気分をよくする。強くなったんだろうなー!

「おう!頑張れよ。先に本選で待たせてもらうぜ!」

 そう言ってメリーの頭をくしゃくしゃと撫でる。

「・・・っ!気やすく触らないでっ!」

 少し呆然として、すぐに手を払われる。なぜか顔が真っ赤になっている。

「悪い。癖なんだよ」

 そう言ってその場を後にする。
 


 次の予選を観戦するために、フードを深く被りなおし、観戦席に向かって歩き、適当な席に座る。

「お疲れ様ですカ・・・ケシン様」
「ケンシンだ。ってなんでここにエルが?」
「たまたまです。偶然です」
「そ・・・そうか。そこで倒れてるおじさんは?」

 エルの横に気絶して倒れている中年の男性がいた。まるでさっきまでここに座っていたかのようだが・・・。

「興奮しすぎて倒れたのでしょう。確かにあのようなカッコいい雄姿を見てしまっては、興奮して倒れてしまいますよね」

 そして倒れていたおじさんは、係員の方にそそくさと運ばれていった。
 自然と腕を絡め、頭を俺の方に預けるエル。

「あの~エルさん?」
「なんでしょうか。あ な た」
「この際俺がカイだと何でばれてるのかは問わないけど・・・エルも出場するのか?」
「もちろんです。一年カイ様と会えないのを我慢しました。もう一日たりとも我慢できません。その為なら有象無象を塵にするくらいやりしょう」
「塵にしたら駄目だからな!?ってことは総合戦闘の部門か?」

 エルはオールレンジで戦える。リーディアの弓術と魔法技術。リュウコの超近接の拳闘術。そして俺の剣術の全てを受け継いだ、いわば超エリート戦士だ。

 正直俺が本気で戦ってもいい勝負をするだろう。

「いえ、魔法有の遠距離戦闘戦にでます」
「ほう・・・意外だな」
「総合戦闘はレイちゃんに譲りました。どうしてもっていうので・・・リーディア様とお母様は嫌そうな顔をしていましたが・・・」
「レイちゃん?」
「リュウコ様の一番弟子で、現在龍人族で一・二を争う人ですよ」
「ほー!そりゃ強そうだな。戦闘を見るのが楽しみだな」
「浮気ですか?浮気ですね。レイちゃん・・・ごめんね・・・仲良くなったけど・・・カイ様を誘惑するメスは消さないといけないの・・・」

 ブワッと殺気が充満する。周りにいた人がまるで窒息しそうなほど顔を青くして息を止める。
 
「ストップストップ!・・・エルは可愛いな~俺にとってエルが一番かわいいよ」

 彼女を引き寄せ、ギュッと抱きしめる。すると荒々しかった殺気はスッと消える。

「えへへ~・・・カイ様の匂い・・・」

 舞台の修繕が終わったようで、予選第二組目の闘士たちが入場する。
 エルはいつの間にか俺の膝の上に座り、俺の背に手を回しぎゅっと抱き着いていた。

 寂しかったのかなぁ。。。なんだかんだ俺が父親の代わりの様なもんだったし・・・まあ爺だったけど・・・。 
 エルの好きにさせておこうと、臭いものに蓋をしつつ、開始された予選を見る。

 メリーはロングソードをやめ、二刀流の剣士になっていた。この世界にも勇者の知恵により刀を言う概念はある。
 それを打つ刀匠はかなり少ない。なにせ普通の武器を造るより、手間も素材もかかるからな・・・。
 
 メリーは危なげなく、敵の攻撃を弾き、躱し、切り刻む。どちらかと言うと速度に特化した剣士になっていた。二刀流を使いこなすだけの腕力と、理論がしっかりとしている。
 
 それに刀もかなりの業物だろう。今はかなり力を抜いているにもかかわらず、敵の武器をたまに切り飛ばしている。これは本選で当たるのが楽しみだな。それに・・・。

「まるで舞いだな。洗練された動作は美しいものだな」
「そんな・・・カイ様・・・私が美しいだなんて・・・」
「ああ~はいはい。エルは美しいし可愛いし、自慢の娘だよ」

 よしよしと頭を撫でる。

「娘?もう同い年くらいですよ?こ い び と ですよね?」
「え?」
「え?」

 はははは・・・エルは冗談がうまいなぁ~。もうお父さんと結婚する!とかいう年でもないだろうに・・・。

「失礼しました。間違えました」
「だよな!?あー焦った。危うくペド警察に連行されるところだったぜ」

 歳の差40はやばい。40歳のおじさんが生まれたての赤ん坊を愛するとか。さすがにダメでしょ。

「ふ う ふ でしたね!数年も毎日寝床を同じにした男女は既に夫婦ですよねー」
「あは・・・ははは・・・」

 俺が苦笑いをしている間に、無事メリーは予選を通過しているのであった。
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