元勇者は安らかに眠りたかった

てけと

文字の大きさ
11 / 30
第二章 闘技大会編

2日目3日目ハイライト

しおりを挟む
 予選を終えた日、最期に8名によるトーナメントの抽選が行われた。メリーとは決勝で当たる事になった。
 明日4戦を行い4人が勝ち上がる。そしてその次の日に2戦行い2名が勝ち上がる。そして最終日に決勝戦が行われる。勝ち上がった一名が魔王討伐メンバー候補として名を連ねるわけだ。
 とは言え、近接部門は勇者の俺が出ているわけだから、決勝に上がったやつ。もしくは俺が初戦敗退して優勝したやつって感じか。

 まあ負ける気はさらさらないがな。

 二日目、俺の相手は盗賊風の男だった。がりっがりに痩せた体に、手に持ったナイフをアイスクリームかのように舐めている。
 確かに滑らかな鉄の感触って触ってて気持ちいいよな。舐めたいとは思わないが・・・。

「なぁ・・・そのナイフっておいしいのか?」
「ああ!ウマイぜぇ~!それにこの鉄の感触がたまらん!!」
「さいですか・・・」

 唾液でベタベタのナイフを攻撃で当てられるの嫌だし、打ち合うのも嫌だった。

「それじゃあ勇者様よ!いくぜぇ!!」

 そう言うや否や、舐めていたナイフを投擲する。
 顔に向かって飛んでくるナイフを大げさに避ける。汚ねぇ!

「まだまだ!いくぜぇ~!」

 数十本の唾液付きナイフがあらゆる角度で飛んでくる。汚ねぇ!
 フードを脱ぎ捨て、盾にしナイフを吹き飛ばす。

「ヒッヒッヒッヒ!こいつはどうかなー!」

 頭上から唾液付きのナイフがさらに降ってくる。なんで全部唾液ついてんの!?汚ねぇ!

 さっさと勝負をつけるために、降ってくるナイフを避けつつ距離を詰め、剣を横薙ぎに振る。
 しかし男はすれすれで体を逸らして避けつつ、俺の大剣をなめる。汚ねぇ!

「舐めるな!!」「いい味だヒッヒ」

 一刻も早くこいつを倒さないと、俺の大剣も唾液でヌメヌメになる。
 横薙ぎにした勢いそのまま蹴りを放ち、相手の体勢を崩すを即座に剣の側面を上段から振り下ろす。

 ガァン!と言う音が響き、男の顔に直撃し、そのまま男は気を失い倒れる。
 上から振り下ろしたのに、顔に当たるという事は・・・。

 俺の大剣には少し粘り気のある液体が滴っていた。

 汚ねぇ・・・。




 メリーは居合の達人との戦いで苦戦を強いられていた。
 間合に入るや否や、目に留まらぬ速度で放たれる剣線。攻めあぐねるメリーと完全に待ちに入っている相手。
 完全な膠着状態で、メリーが勝負に出る。メリーも剣を納め、居合の構えをとる。
 じりじりと間合いを詰め、両者必殺の間合になった瞬間。両者が動く。
 抜きの速さはわずかに対戦相手。このままだとメリーの首が先に飛ぶだろう。
 しかし、負けを悟ったメリーは即座に体を前に倒し、刀は髪をわずかり切り裂き、メリーはそのまま前傾姿勢のまま、居合抜きを下から上に切り上げる様に放つ。

 ザンッと相手の鎖骨あたりをきれいに切り裂き、メリーは残心し、納刀した。
 対戦相手のの男は笑みを浮かべ、見事。と言い放ち地面に伏した。

 とてもいい試合だった。どちらが勝ってもおかしくない、実力伯仲の戦いであった。





 三日目。準決勝の相手は、黒光りした体のマッチョだった。身長は2mほどあり、胴回りは俺の二回りはデカい禿の男だった。
 ナックルガードを付けていることから、多分拳闘士だろう。超接近戦に大剣は向かない。なので相性はかなり悪いだろう。

「ウフフ。勇者様とヤリ会える日を楽しみにしてたわ。今日は存分に語り合いましょう!!」

 オカマだった。なんで俺の相手は色物ばっかなの?

「どう?勇者様。お互い拳で愛を語り合うというのは?」

 煽情的なポーズ(サイドチェスト)でそう提案するマッチョ。

「いいだろう。愛を語り合う気はないが、拳で戦うのも嫌いじゃない」

 大剣を外し、舞台外に置く。拳にバンテージを巻き、シュッシュと軽く拳を振るう。

「さぁ来い!!」
「イクわよー!!」

 お互い超接近で足を止めての殴り合いが始まる。
 レバーを殴られ、フックで顔面を殴り、アッパーで顎を揺さぶられ、お返しに鳩尾に拳を叩きこむ。

 しばし、殴り、殴られ、鈍い音が会場に響く。しかし、明らかに体格が劣る俺が次第に押していく。
 不屈。精神力が俺の力を底上げする。俺ができると思い込んだことは絶対できる。だ。

「っ!?」
「うおおおぉぉぉ!」

 とどめと言わんばかりにラッシュを叩きこむ。
 ドドドドドッと拳が肉を打つ音響き、とどめにアッパーを飛び上がりつつ顎に放つ。
 
 グラリと男は傾き、地面に倒れ・・・

 るときに俺の体を抱き寄せ。二人同時に倒れる。
 そのまま足を絡められ、頬にキスをされまくる。

「ん~好き好き!勇者ちゃんいいわ~私とこのままもう一ラウンドっちゃう?」
「や・・・やめ・・・俺はノンケだー!レフェリー!」

 疲れた体では、がっちりホールドされた拘束を解くことが出来ず。しばしその場でジタバタするのだった。
 
 なお観戦席から差すような殺気をいくつか感じ、軽く死を感じた一戦になってしまった・・・。




 メリーの対戦相手は、短剣二振りを自在に操る小柄な女性だった。
 奇しくもスピードに重きを置いた二人の対戦となった。
 太刀と小太刀の二刀流で手数の多いメリーと、小ぶりなタガーで敵を翻弄するトリッキーな動きをする対戦相手。
 メリーあらゆる角度からの攻撃に対応はできるものの、どうしても一撃が入れられない。敵の動きが早すぎて、攻撃を防いでも、反撃するころにはそこにはいないのだ。 
 ジリ貧になり、少しづつ削られ、体から血が滴っていく。そんな最中、メリーは突如目を閉じる。

 勝負を捨てたか!と叫びメリーの首に向かってタガーと振るう。
 しかしそのタガーは、すれすれで届かなかった。メリーが柄で相手の鳩尾を殴打したからだ。
 そして目を開き、そのまま返す刀で敵の体を袈裟斬り、決着がついた。

 憶測だが、彼女は視界を閉じ、聴覚に集中した。なぜなら相手が攻撃を行うときだけ、力強く踏み込んでいたからだ。見ただけではわからないが、音ならば確実に違いが出る。それにカウンターを合わせる為だけに、無防備に首をさらしたのだろう。


 これで決勝戦は俺とメリーの対戦になったわけだ。相手にとって不足はなし・・・。ってわけでもないな。まだまだ未熟だし、彼女はもっと強くなるだろう。今は自分の身を削って、何とかここまで来たという所だろう。
 メリーは余裕が全くない。前の試合で限界が見えたと思ったが、この試合でさらに限界を超えた。末恐ろしい才能である。
 願わくば俺を踏み台にして、さらなる高みに至ってほしいものだ。

 まあ易々とはさせないが。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...