元勇者は安らかに眠りたかった

てけと

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第二章 闘技大会編

近接部門決勝戦

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 控室にてストレッチを始める。相棒である大剣は、刃は落としてあるものの、しっかり手入れしてある。
 コンディションは上々。テンションは最高潮。人族で最強を決める戦いだ。上がらない訳がない。

 大歓声が、控室からでも聞こえる。係員が扉を開ける。

 
 さて・・・行こうか!!







『紳士淑女の皆様!これより始まりますは、世界最強の人を決める戦いです。近接魔法なしと言う縛りはありますが、逆に言えばそれこそ技巧の極致。ここに立ち会えたことを、私は感謝しております。
 それでは選手入場だ!!まずはこの方。
 二刀の刀を変幻自在に操り、その美しき剣はまさに芸術!彼女の舞うような剣技には、誰もが魅了されてしまうでしょう!今日はどんな美しい剣を魅せてくれるのでしょうか!!
 剣姫!メルティィィィー!アルバァァァトス!!!』

 割れる様な歓声と共に、メリーが姿を現す。
 凛とした目に、緊張などとは無縁かのように足取り軽く。舞台の上に立つ。


『続いて選手の入場だ!!ある意味一番有名で、そしてこの世界の救世主!
 歴史上、召喚されて1年で、ここまで戦える勇者がいただろうか!豪快な剣捌き、あの大きな剣を易々と振る腕力。まさに剛健!自らを剣の神と称するだけの事はある!!今日も相手を寄せ付けず、一刀両断してしまうのでしょうか!!
 剣豪!勇ウウウウ者ケンンンンンンンシン!!』

「剣の神なんか自称してねぇし、一刀両断もしてねえ・・・」

 文句を言いつつも、片手をあげ、歓声にこたえるケンシン。
 その顔には笑みを浮かべ、相手を見据える。

「ようやく相まみえましたね・・・一年前の屈辱、晴らさせていただきます!」
「よく一年でここまで強くなったな!おしゃべりはいらねぇ。剣で語りな」

 背中から大剣を抜き、正眼に構えるケンシン。
 両刀を腰から抜き、だらりと両腕を降ろし構えるメリー。

「二天一流・・・宮本武蔵かよ」
「その大きな剣、構え、まるで伝承で聞いた、かの勇者様・・・」

 先手はケンシンだった。正眼に構えた大剣を持ち上げ、一気に振り下ろす。
 メリーは左手に持った小刀の方で大剣を側面から弾き、右手に持った大刀をケンシンの喉に向かって突きを放つ。
 それを首をひねってよけるケンシン。
 ケンシンは大剣を振り下ろした勢いで、大剣を棒高跳びさながら、大剣を使って前方に飛ぶ。
 着地するや否や、メリーに肉薄する。
 右片手に大剣を持ち、左手を沿え、左手で右手を弾くようにし、剣を横薙ぎをする。
 突如ありえない速度で迫る剣を、背面飛びをするように飛んで躱すメリー。
 躱すだけでなく、右手に持った大刀をケンシンの首に向けて振るう。

「あぶねぇ!」

 ケンシンはその剣をスウェーして躱す。

 クルっと後転し、再び構えるメリー。その目は何処かに焦点を当てることはなく、ぼーっとケンシンの全体を見ているように見える。
 ケンシンは攻撃の手を緩めることなく、剣を振るう。ありえない速度で振るわれる大剣を、メリーは躱し、弾き、反撃する。
 お互い決定打に欠け、戦闘は膠着状態に移行する。
 数十分もの間、息も詰まる攻防が続く。

 お互い初期位置で向き合うと・・・。

「そろそろウォーミングアップも終わったか?小手調べは終わりだ。本気で行くぞ」
「・・・・」

 度々反撃され、ぎりぎり躱して、押されている様にに見えたケンシンは余裕綽々の顔で、メリーは汗を垂らし、息も若干乱れていた。

 ドンッ!っと大きな踏む込み音。踏み抜かれた石畳は砕け、ケンシンの姿が消える。

「くっ!」

 胴体に放たれた斬撃を、辛うじて二刀で防ぐメリー。しかしそのまま後ろに吹き飛ばされる。
 両足を踏ん張り、舞台から弾き飛ばされないように耐える。しかし、今しがた攻撃を放っていたケンシンの姿が見えない。

「上だぞー!」

 上を見上げると、上空に剣を振り下ろそうとしているケンシンを目視、即座に前方に転がり、剣を避ける。
 しかし、再びドンッという踏み込み音と共に姿を見失う。

「後ろだぞー」

 聞こえた声を反応し、即座にメリーは刀を後ろに向かって振るう。
 しかし腕だけで振るった刀は、ケンシンに弾かれ、手から離れて舞台外に飛んでいく。

「・・・殺せ・・・」

 メリーがそう呟く。

「いやいや!殺さねぇよ!負けを認めるか?」
「何で勝てない・・・頑張ったのに・・・この一年必死に・・・」

 グスッっと鼻をすする音が聞こえる。
 悔しさで涙の止まらない彼女の頭を撫でながら、ケンシン・・・いや、カイは言う。

「そりゃー儂は40年も鍛え続けて、さらに全盛期の体まで手に入れたんじゃ。まだ18そこらの子に負けるわけないじゃろ?」

 メリーにだけ聞こえる様にボソッとそう言う。
 メリーはハッとした顔で、カイの顔を見る。

「やっぱり・・・」

 カイに手を引っ張られ、立ち上がるや否や、即座にカイに抱き着くメリー。

「やっぱりカイ様だったのですね・・・。良かった・・・」


『おーっと!メルティーが降参!!勝負は決したあああああ!近接部門優勝はーーー!
 勇者!ケンシン!!!!
 そして戦いが終わった後に熱い抱擁だああああああああああああ!うらやまけしからんぞケンシン!!
 結婚式にはぜひ!司会進行を俺に任せろ!!!皆様!盛大な拍手を――――――なんだ君は!っあっちょっやめ――――――――』

 どことなく爆発音が聞こえる。そんな爆発を気にすることなく、ギュッとカイを抱きしめるメリー。もう決して離さないという意志と共に。
 苦笑いで空をあえぎ見るカイ。

「魔王倒したら、またひっそり隠居しようかな・・・」

 そう呟き、大歓声の中、離れないメリーを抱きかかえ、舞台を後にするのだった。
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