元勇者は安らかに眠りたかった

てけと

文字の大きさ
23 / 30
最終章 魔王編

VSメリー

しおりを挟む
 探索もとうとう終わりを迎えた。なぜなら・・・遠くに大きな建物が見える。まだ幽かにしか見えないが、城のように見える。あれが魔王城で間違いないだろう。

 目の前には城まで続く平原。足首程度まで伸びた草が延々と続いている。そして・・・。

 俺たちを待ち構えていたかのように立ち塞がる敵。両腰には三本づつ、計6本の剣を佩いていた。
 真っ黒い肌に、大きな角。筋骨隆々な体には、腕が六本生えていた。目は両目と額にも目があり、唇から覗く大きな牙が禍々しく光る。

「ここまで来てしまったか勇者一行。引き返すなら見逃してやろうと思ったが・・・そうは出来ないようだな」
「まぁな」
「私は百八天王が一人、百足のムデ。残念ながらお前たちの旅はここで終わ・・・名乗りも終わらんのに無礼な娘だ」

 すでにメリーが突っ込んでおり、居合抜きで斬り捨てたかに思ったが・・・。相手は腰の剣を抜かずに、鞘ごと剣を前に出し、居合を防いでいた。

「ちょっとは出来るみたいね」
「ふん!今までのやつらは所詮前座よ。同じにしてもらっては困るっ!!」

 ブンッとメリーの剣を受け止めていた剣を乱暴に振り、メリーを吹き飛ばす。吹き飛ばされたメリーはクルっと一回転し、華麗に着地する。

「援護しますよメリー」

 手を前に出し魔力を練るエル。魔法が発動する寸前に・・・。

 カァン!!と大きな金属音が響く。

「あっぶね・・・狙いはシノか?」

 かなり遠くから飛んできた何かを大剣で弾く。シノの頭を正確に狙った攻撃だった。
 周りは遮蔽物のまったくない平原。狙撃してくださいと言わんばかりのロケーションだ。

「エル」
「はい。私はあちらの敵を担当しましょう。シノがやられるのはまずいですし」

 狙撃位置であろう場所に向けて転移していくエル。俺がシノ守るのは簡単だが、基本的に俺を魔王以外で戦闘させたくないエルは、即座に敵を排除しに行った。

 さらに敵が現れる。空から落ちてきたそいつは、ズドーッンと大きな落下音を響かせて現れる。
 身長は4メートルほどだろうか?四肢の太さが丸太二つ分はあるような太さに、大きな尻尾。開いた口は尖った刃が並んでおり、まるで古代の肉食恐竜の様な出で立ちだった。

「ギガアアアアアアアアアアアァァァァァァァ!!」
「うるせぇ・・・」

 大男は威嚇するように大きな咆哮をあげ、こちらを睨む。
 近くで咆哮を聞いていたムデは耳をふさぐ。

「俺の敵はどれだ!!」
「あっちの青いのだ。そっちの剣士は俺がもらう」
「あ?こんなちびが?はっ!こいつを一飲みしたら、勇者を喰ってもいいんだよなぁ?」
「好きにしろ」
「がっはっは!!ほらさっさと来いよちび!一捻りにしてやるよ!それとも怖いか?しょんべんちびりながら逃げてもいいんだぜ?まだママのおっぱいが恋しい年だろうがっ!」
「チッ」

 レイは既に突っ込んでいた。龍族の膂力に任せた拳を放つ。
 しかし攻撃は大男の手の平で攻撃を止められる。

「ふん!まぁまぁ力はあるようだな。いいだろう。遊んでやらぁ!!」

 レイの拳をガシッとつかみ、遠くへ放り投げる。みるみる遠くへ飛んでいくレイを、轟音を響かせながら追って行く大男。

 これでここに残されたのは、俺、シノ、メリーと六腕の男。

「強そうな相手だな・・・いいなぁ・・・」

 ボソッと俺はつぶやく。俺だって戦いたいのに・・・。
 ギュッと俺の服の裾を掴むシノ。みんなが戦っているなら、俺もシノを守るくらいはしないとな。

「大丈夫だぞー俺がちゃんとシノを守るからな」
「うん・・・」

 そして目の前では、メリーとムデという剣士の戦いが始まっていた。


  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「二刀流。俺の六刀を受けるには全然足りないが大丈夫か?」
「多ければいいというものでもないと思うけど?」
「ふっ・・・では行くぞ!!」

 ムデは真っすぐ突っ込み、6刀を操り縦横無尽にメリーに切り込む。それを難なくさばいていくメリー。
 最小限の動きで躱し、躱し切れないものはいなす。連続した金属音が鳴り響く。

「ほう?さばききるか?」
「6本あろうが、100本あろうが、本筋の太刀は多くても3本。ならば防げぬ道理はないわ」

 6本同時に敵を切ろうとしても、自らの剣に当たって致命傷たり得る力を込められない。右の袈裟斬りと左の袈裟斬りは同時たりえない。
 力のない攻撃はわざと切られても死には至らない。ならばその一太刀を受け、必殺の剣を叩きこめば勝ちだ。
 ムデはそれをわかっているのだろう。力ないフェイントは有れど、本筋の太刀からは必殺の力が込められている。これを無視するわけにはいかず、メリーは防戦一方となっていた。

「ふっ!」

 カァンとメリーは攻撃を上に弾き前蹴りでムデを蹴り飛ばし、一度距離を空けることにした。

「ふん。どうした?勝てぬと絶望したか?攻めてはこないのか?」
「よく言うよ。それが狙いの癖に・・・」
「ふはは。そこまで読めたか。其方一流の剣士と見える」

 6刀の神髄はカウンターにあった。二刀を弾き、残りの4刀刺し殺す。力を入れれないなら、相手の力を利用すればいい。
 攻撃を誘っている。そこまで読んで、メリーはこの戦いが膠着すると思った。確かに二刀では足りない。相手の命に届かない。

「私は別にいくらでも時間がかかっても構わない。なんなら共に何年、何十、いや、何百年と踊ろうではないか!!」
「え?お断りだけど・・・」
「メリー!手伝うか?」

 少し離れたところからワクワクした様子で声をかけてくるのはカイ。どうやらうずうずしている様子。

 あの戦闘狂は何かにつけて戦おうとする。まあそのおかげで・・・私も少しは強くなったわけだけど・・・。

「大丈夫。シノの傍に居てあげて」
「えー・・・言っとくがそいつの狙いは時間稼ぎだぞ。あのでっかいのが合流するのを待ってるんだろ」
「分かってる」

 わざわざ各個撃破を相手が選んだのも、エルとレイを勇者であるカイから離したのも、全ては作戦なのだろう。
 要はメリーは舐められていたのだ。簡単に時間を稼げる相手として、シノを狙うことで勇者の動きを止め、勇者の護衛を各個撃破し、万全な状態で戦うために。
 時間稼ぎしている間、勇者は手を出してこないことも織り込み済みで。
 
「作戦会議は終わりか?ならどうする?」
「もちろんあなたをすぐ倒して終わり」

 スッと二本の刀を降ろしメリーは集中する。

「フゥ―――」
 
 息を吐く、静かに深く・・・そして。
 トンという軽い音がし、メリーの姿が消える。

「・・・上か!!」

 上に飛びあがり、クルっと一回転し、二刀の刀を相手の頭上に振り下ろす。

「羊流剣術、二の太刀『剛』」

 自らの体重、回転するスピード、自分の持てる全てを2本の刀に乗せた刀は、迎え撃ったムデの剣が粉々を砕く。

「グッ!」
「ハァアア!!」

 着地からの二の太刀目。剣を砕き、そのまま首に向かって剣を振るう。危険と感じたムデは後ろに大きく後退し避ける。
 剣が砕かれた瞬間に即座に逃げに徹するのも、ムデが一流の剣士ゆえの判断だろう。

 たった一撃の攻撃が勝敗を分ける。それこそが剣士の戦い。それをしっかりと理解しているのだ。

「私の剣が・・・しかしてまだ4本。同じ手は喰らわぬ」
「あなたの力量はわかった。次の一合で終わらせる」
「ふっ抜かせ。捌ききって逆に殺してやろう」

 4本の剣を持ち直し、中央の腕を素手にしたムデ。

(予想以上に強かった。ならばせめてこの命と引き換えに、せめて一人消えてもらおう)

 ムデはそう考える。勝ち筋は見えない。しかし・・・相打ちには持ち込めるはず。
 首でも胴でも斬り飛ばすがいい。絶命するまでの一瞬に必ずや刺し殺して見せる。

 メリーは刀を鞘に納め、居合抜きの構えに入る。

「相打ち狙いだろうけど、私は死ぬわけにはいかないから」
「・・・来い!!」

 思考を読まれたことに動揺するが、しかしやることは変わらない。グッと構えるムデ。
 タンッと軽快な踏み込み音を響かせ、メリーは突っ込んでいく。二歩、三歩と加速していく。

「うおおおおおお!」

 ムデは雄たけびを上げ、向かってくるメリーに剣を振り下ろす。自らの防御をすべて捨て、敵を殺す為だけに・・・。
 突っ込んでくるメリーの頭部に向かって、完璧なタイミングで振りおろした剣は・・・。
 メリーの頭部を捕らえることはなく。

「羊流剣術一の太刀『転』」

 超加速した速度を、敵の少し前で急停止。ムデの剣がメリーの顔を薄皮一枚切り刻み・・・。
 超加速したを殺すことなく回転、再び踏み込み剣を抜く。

 スパッっと小気味いい音がし、ムデの背後まで切り抜け、刀を鞘に収める。

「・・・魔王様バンザ・・・イ・・・」

 そう言ってムデは黒い霧となり、霧散した。

 超スピードからの急停止。ムデにとってはまるでメリーが消えたかのように見えただろう。
 
「くっ・・・まだ改良の余地はあるかな・・・」

 とは言えメリーも無傷とはいかず、急停止による筋肉の断裂と、ムデの最後の攻撃で受けた傷が思ったより深かったようで・・・血まみれになった顔を庇うように仰向けに倒れる。

「メリー!!」

 すぐさまシノが駆け寄り、治療を開始する。

「俺の思い付きで教えた剣術を、よくぞここまで練り上げたものだ」
「ふふふ。いつかこの剣術・・・羊流を極めて、あなたに勝つからね・・・シノ?顔の傷ちゃんと綺麗に治る?」
「治るよ!治して見せる!まぁ治らなかったらカイに責任を取って貰えばいいかな?」
「それもいいかも・・・でもちゃんと綺麗に治してね?」
「分かってるって!」
「しっかし、なかなか強い相手だったな・・・」

(今までと違う、ちゃんと敵たりえる敵。レイとエルなら大丈夫だと思うが・・・メリーの治療が終わったら見に行った方がいいのかな?)

 メリーの治療が終わるのを待ちつつ、カイは狙撃に警戒し、レイとエルを少しだけ心配したのだった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...