元勇者は安らかに眠りたかった

てけと

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最終章 魔王編

VSレイ

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 細くはない木が、バキバキと連続してへし折れる音が聞こえる。それを追うように、ドシンドシンと大きな足音。
 
「オラオラオラオラアアアアアアアアアアははははは!」

 ショルダータックルのような構えでひたすら走っていく大男。そして肩の先にはレイが腕を十字にして防御していた。
 レイをブルドーザーの如く押しながら木々を破壊していく。そして大きな山の様な大岩に突っ込み、大岩がメコっとへこみ、亀裂が走る。そこでようやく大男は止まって、レイから距離をとった。

「死んじまったか・・・なんだつまんねぇ。勇者はもうちょっとましなんだろうな?」

 大男は踵を返し、来た道を戻ろうとする。

「どこに行く?木偶の坊」
「あ?」

 大男が振り返ると、平然と立ち、砂埃を払う小さな青い龍人の女がいた。

「はっ!ちょっとは頑丈なようだな」
「ん?あれが攻撃だった?だったらごめん。移動が楽だったから乗ってただけ。私が本気で暴れると・・・あの辺が消し飛ぶから」
「いいねぇ。俺は百八天王が一人、暴竜のディラだ。がっかりさせんなよ?」
「龍人族のレイ。こちらのセリフ」

 ダンッと地面を踏みしめ、ディラに突っ込み拳を振るうレイ。
 それに負けじとディラも拳を振りかざす。

「ハアアァァァァ!!」
「おらあぁぁぁぁ!!」

 お互いノーガードで、互いの体を殴り続ける。ドッゴッという鈍い打撃音が辺りに響き渡る。
 足を止め、殴り合う二人だったが、徐々にレイが押され始める。
 ズリズリと少しずつレイが後退していく。

「それで本気か!!オラァ!」
「まだ小手調べ・・ハアアアァ!!」

 レイが押し返す。しかしディラも譲らない。
 殴り合いが長引くにつれ、ディラの体が徐々に黒く変色していく。

 そして・・・。

「ギガァァァァ!!!」

 大きな拳がレイの横っ腹を捕らえ・・・。

「ぐっ!」

 思わぬ角度からの攻撃に、踏ん張りがきかず横に吹き飛ばされる。
 木々を2、3本へし折りながら吹き飛び、足を地面につけ、何とか踏みとどまる。

「軽い!!軽いんだよおめぇの攻撃は!!力はある。スピードもある。しかし・・・重さが足りねぇ!!まるで小さな虫に刺されたかのような攻撃だ!」
「・・・」

 レイは静かに構える。最初の攻防で、龍化の一段階は解いている。それでもなお、力負けしてしまう。二段階目を解いてしまえば、多分一瞬で勝負はつくだろう。
 しかしあれはまだ制御できない。解いてしまえば・・・自分の力で元に戻れるかは不明だ。だからこそあの力を使うのは最後の手段だ。
 最悪・・・もう二度とカイに会えなくなってしまう可能性もあるから・・・。

「俺を楽しませろよ!龍人!!」

 ドッドッドッとレイに突っ込んでいくディラ。レイも自分の理性のタガを少し外し、咆哮をあげながら突っ込む。
 再び殴り合う両者。ディラの黒く変色した皮膚は固く、殴り合うにつれてどんどん力を増していく。

「やっと体が温まってきたとこだな!!もう一段上げるぞ!!オラァ!」

 振り下ろされる拳を、すんでで躱し始めるレイ。まともに受けるとまずいと判断したのだろう。

「あぁん?つまんねぇぞお前。もういい、さっさと死ね」

 ドォン!とディラが大地を踏みしめ、レイの体が少し浮いてしまう。

「死ね!!」

 ブンッとアッパー気味に放たれた大きな拳は、レイの顔面を捕らえ―――。

 ドゴォ!!と大きな音を響かせ、レイの体が空中で縦に回転しながら吹き飛び・・・。
 ドサァと地面に仰向けに倒れ、血がどくどくと地面を伝う。

「チッ!所詮はガキか・・・あとは勇者は殺すだけだな」

 ドシンドシンとレイの元を去っていくディラ。欠伸なんかしながらめんどくさそうに歩く。







「ッ!?」

 バッとディラはレイの方を振り向く。ただならぬ冷たい殺気を感じたからだ。

 レイは鼻から出た血を乱暴に拭い、ダランと腕を脱力させ立っていた。
 あたりの空気が冷えていき、レイの周りは白い霜で覆われ始める。

「ガアアァァァァァァァァァァ!!!!」

 レイの咆哮で、びりびりとあたりの空気が震える。

「なんだ。やりゃできんじゃねえか!!来いよ!!」

 ディラは構える。いきなり豹変したレイを警戒しつつ・・・。しかしレイは動かなかった。

「フゥー!フゥー!」

 まるで無理やり落ち着こうとしているかのように、息を荒げていた。

「なんだつまんねぇ。本能のままに来いよ!!押さえつけてんじゃねえよ!!龍って言うのは本能のままに暴虐をつくす生き物だろうが!!」
「だ・まれ・・・」

 ギラギラと殺意に光っていた目が次第に落ち着き、辺りを覆っていた霜も晴れていく。
 レイの容姿は、前回の大会の様な姿ではなく、龍燐は全身を覆うほどでもなく、ツバサも小さなものが背中に生えている。
 龍化の1.5段階と言ったところだろうか。

「期待外れだなぁお前は」

 明らかに落胆するディラ。興味を失ったおもちゃを見るような、失望した目でレイを見る。

「一撃で終わらせる」
「ふん!それは俺のセリフだぁぁぁ!!」

 ドドドとレイに向かって走るディラ。そしてレイは・・・。

「この手に握るは力。振りぬく速度は光をも超え・・・」

 タンッと軽い足取りでディラとの間合いを詰める。

 両者の距離が近づき、お互い間合に入る。

「踏み砕くは星!!その拳は全てを破壊する・・・」

 ディラ大きく振りかぶり、上からレイを押し潰す様に拳を振り下ろす。


「ここに神龍の一撃を!!」

 迎え撃つレイは真っすぐ、下から上に振りぬくように―――。

「ガアアアアアアアアア!!」
      
「神龍拳!!」
 
 ガァン!とレイの踏み込んだ地面が割れ、亀裂が走る。
 ディラの左拳と、レイの右拳が重なる―――。






 全身全ての力を込められたレイの拳が、ディラの拳を砕き、そのまま腕をへし折り・・・。

 ディラのの右上半身が消し飛んだ。

「ぐっ・・・チッ・・・いい一撃だったぜ・・・・」

 そしてそのまま少し満足そうに、ディラは黒い霧となって消えて行った。

 神龍の一撃。かつてこの世界に生きていた神龍の伝説の一つである。その一撃は星を砕き、神をも屠ったとされる。

 力の限り踏み込み、その力を余すことなく拳へ伝える。理性を無くした獣には無理な一撃であった。

「まだ未完成・・・これじゃあ名前負け・・・」

 ありえない速度と力で振るわれた拳は傷つき、腕もダランと垂れたまま動かなかった。

「こっちだっけ?」

 傷ついた腕を抱えながら、折れた木を目印にカイたちの元へと歩きはじめる。

「帰ったらカイにギュッとしてもらお」

 レイは少し頬を緩めながらそう言った。
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