元勇者は安らかに眠りたかった

てけと

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最終章 魔王編

VSエル

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 エルはおおよその敵の位置を、狙撃された角度から割り出し、その方向へ転移魔法で跳んでいた。
 数回の跳躍を終えると、そこは日の光も届かぬ真っ暗な森の中だった。

 木々が生い茂り、伸びた枝葉が光を遮り、周りが視認できないほどの闇の中、エルは立ち尽くしていた。

「おかしいですね。多分この辺りなんですが・・・」

 エルは光源を発生させる魔法を使い、辺り一面を照らす。

『まんまと罠にかかったね。エルフの少女。ここは私の管理する深き森。一度入れば、私の許可なく出ることのできない森。あなたはここで死ぬのよ』

 突如聞こえた声は、辺りを反響して何重にも聞こえる。声の発生源がばれないように細工してあるのだろう。

「はぁ・・・あまり時間をかけたくないので、名乗りがあるならさっさとどうぞ」

『冥途の土産に教えてあげるわ!!私は百八天王の一人、闇鳥のロウ。暗闇の恐怖におびえながら死ぬがいい』

 ヒュンヒュンヒュンと風切り音がしたかと思うと、エルに向けて針のようなものがあらゆる方向から飛んでくる。

「飛び道具は無駄ですし・・・名乗りが終わったのでもう倒していいですね」

 事前に発動していた魔法により、全ての針はエルの体に触れることなく地面に刺さっていた。

『これならどうかしらね!!』

 ポッポッと水滴が葉を打つ音が聞こえ、やがて水滴は滴り、雨となる。
 
『猛毒の雨よ。一滴でも肌に触れれば死に至る。これを防ぎきれるかしらね?』

 毒々しい紫色の雨が、辺り一面に降り注ぐ。ジュジュジュという音が辺りを埋め尽くし、全てを溶かしつくす。

『あははははは!!あっけない最後だったね!!』

 エルは毒の雨に晒され、髪の毛の一本も残さず毒の雨で溶けて消えていた。





 ロウはそう思っていた。






「見つけました。それではさようなら」
「!?」

 両腕が翼になっっている、高笑いをしていた女の後ろにエルがいつの間にか立っていた。まるで鳥のような姿をした人物。これがロウだった。
 エルは片手を突き出し魔法を紡ぐ。

 ロウは即座に飛び出し、森の中に身を隠す。

「なんでなんでなんで?」

 居場所を悟られない様に何重も対策した。囮を森のあらゆる場所に何十と置いてあるし、そもそもエルが森に転移した場所から数㎞離れていたのだ。

 それなのに一瞬でロウの居場所を看破し、背後に立っていたのだ。ロウはかなり動揺した。

 真っ暗な森の中を、夜目が利くロウはかなりの速度で森を飛び進む。

「こうなったらせめて勇者たちの回復役だけでも狙撃しないと・・・」

 位置がばれただけでも不利なのに、一瞬で間合いを詰められるとなると勝ち目がない。

 ならばせめて・・・自分の仕事だけは完遂しないと・・・。

 後ろを振り返り、追ってきていないかを確認しつつ、ロウは狙撃ポイントへ到着する。

「ムデのやつ・・・もうやられてるじゃないっ!でも今なら・・・」

 どうやらさすがに無傷とはいかなかったようで、現在剣士の治療に集中している。
 
 すぐに長い筒状の金属に、自分が作りだした狙撃用の針を入れ、あらかじめ掘っておいた点火魔法陣に魔力を―――。




 そう思った瞬間に筒は粉々に砕ける。

「はー―――?」
「させるわけないです。まったく・・・逃げ回るなら最初から敵対しないでほしいですね」

 ゆっくりと後ろを振り返ると、先ほどのエルフの少女が涼しい顔をして立っていた。

「どうせ負けるのですから、おとなしく静かに暮らしていればいいものを・・・迷惑ですよ。あなた達も、魔王も・・・」
「くッ!」

 すぐさま離脱しようとするロウだが、体が重くてまったく動けなくなっていた。

「逃げても無駄です、あなたにはマーキングを仕込んでいますし・・・それでも逃げられるのはめんどくさいので・・・」

 ここで終わりです。とエルは魔法を発動し、ロウの体を一瞬で細切れにした。
 悲鳴を上げる暇もなく、一瞬で黒い霧となって消える。

「最初の一撃を失敗した時点で、あなたの負けだったんですよ」

 エルは狙撃された瞬間、弾道を逆算し、即座に一つの魔法を放っていた。
 それがマーキング、相手に特殊な魔力をくっつけることで相手の場所を瞬時に知ることができる魔法。
 射出速度は光の速さ、相手が避けることは不可能。


 もちろんカイにもつけている。カイの存在が消滅しない限り、エルはカイの居場所を知ることができる。

「さて・・・これで百八体目ですか。そろそろこの旅も終わりですかね」

 エルだけは敵の数を数えており、今回現れた敵で百八体・・・つまり百八天王をすべて倒したことになる。

「魔王とやらもこの程度なら・・・私が瞬殺するのですけどね・・・」

 そう呟いてエルは転移魔法を起動して姿を消すのだった。




  ~~~~~~~~~~~~~~~~~


「で?これはどう言う事ですかシノ」
「いや・・・私的にも降りてほしいんだけどな~レイ?」
「や」

 レイちゃんは俺の首に片手を回して、ぶら下がりながらシノの治療を受けていた。
 
 エルが転移して、メリーが勝利した時点でレイちゃんを迎えに森に走った。倒れた木を目印に走っていると傷ついたレイを発見。
 俺を見て安心したのか、そのままうつぶせに倒れたので、俺はレイちゃんをお姫様抱っこして連れて行くことにした。
 そしてレイちゃんは俺の首に傷ついてない方の手を回してご満悦。

 そして全然放してくれない。ずっと顔を俺の胸に押しつけたまま動かない。

「レイ~?腕は治ったけどほら、お腹とか顔とか治さないと・・・カイに嫌われるかもよ?」
「いや・・・俺はそんなことで嫌―――」
「カイ様は黙っててください!!」
「あっはい」

 エルにギロリと睨まれ黙る。えげつない殺気が出てるんだが・・・。

「カイに嫌われる?」
「そうだよレイ。綺麗なお顔をちゃんと治さないとね」

 シノが諭す様にレイちゃんに語り掛ける。

「カイは私の事嫌いになるの?」
「ソ。。ソウダナーちゃんと治療を受けないとキライニナルカモシレナイナー」
「じゃあ最後にギュってして」
「ええ・・・」

 甘えたいお年頃なのか?仕方ないので両手でギュッと数秒抱きしめると、レイちゃんは満足したのか俺から手を放してくれた。

「レイだけズルイです。私もちゃんと仕事をしたので抱きしめてくれてもいいのではないんですか?」
「いや・・・まあいいけど・・・」
「いいんですか!?」

 そう言うや否やエルが飛びついてくる。仕方ないのでそのまま両手を背中に回してギュッと抱きしめる。

「ふへへへ・・・カイ様カイ様カイ様」
「はいはい。よく頑張ったなーエル」

 背中に回した手をエルの後頭部にやり、頭を撫でる。エルと暮らしていたときによくやっていた事なので今更恥ずかしいとかはない。

「エル次は私なので、早く変わってください」
「うえ・・・メリーも?」
「レイの治療が終わったら私の番ですからねー!」
「えええ・・・」
「カイ様カイ様カイ様カイ様!!」
「その次は私の番」

 ああ・・・もうどうにでもなれ・・・。





 このあとめっちゃナデナデした。
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