【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。

第8話「これはもう“ぽんこつ甘やかし枠”なのかもしれない」

「よしっ……今日は、完璧にする……！」

早朝。まだ誰も起きていないキッチンに、そわそわと小さな足音が響いた。

ノアはエプロン姿で背伸びしながら、調味料棚から塩を取り出す。

「昨日、ミーナさんに教えてもらった通りに……目玉焼き、パン、サラダ……うん、大丈夫……！」

たぶん、大丈夫。

火加減を間違えなければ、煙も出ないし――

――ボフッ。

数分後、厨房は白い煙に包まれていた。

「わあああああああ！！？ごめんなさいっごめんなさいっ！」

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「火災未遂で済んでよかったな」

ヴェラが顔をしかめながら言うと、ルーシャとミーナはノアの背中をさすっていた。

「ノア様、やけどはありませんか！？氷持ってきますね！」

「わ、わたしは無事です……でも、鍋が……」

その場に現れたイツキは、黒こげになった目玉焼きと炭化したトーストを見て、ため息をつく。

「……朝から騒がしいと思ったら、あなたね」

「ご、ごめんなさい……！」

「失敗は構わない。でも、“準備不足”はいただけないわ」

その声は淡々としていて、怒っているようには見えなかった。

でも――ノアは、その目の鋭さにビクリと背筋を伸ばした。

「次は、しっかり覚えてから挑戦なさい」

「……はいっ！」

涙目になりながらも、ノアはまっすぐにうなずいた。

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政務会議、休憩時間。

レオンは廊下のベンチに座り、資料を整理するイツキに声をかけた。

「最近、君の評判が高い」

「評価には興味ないわ。数字で見せてくれるなら聞くけど」

「……うん、だと思った」

笑って、レオンは赤くなってそっぽを向く。


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その少し後、別の廊下。

「おや、撃沈して帰るところ？」

ユージンが口元に指を当ててにやりと笑う。

「……君には関係ないだろう」

「ないけど興味はある。“刺されに行く人”って、そうそういないからね」

「彼女は……面倒だけど、信頼できる」

「“恋愛対象になるタイプじゃない”って、君、気づいてないの？」

レオンは黙ったまま、ユージンを睨んだ。

「……言っておくけど、あれは落ちないよ。ちゃんと落とさないと、落ちない」

「……だからこそ、いい」

「うわぁ。病気だ」

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夜。

イツキの書斎の隅に、資料を積み上げていたノアの姿があった。
一枚一枚、大事そうに並べている。

「……ほんとに頑張るのね」

そっと近づいてきたイツキが言うと、ノアはふにゃ、と笑って、

「……がんばってる姿、見てもらえたら、それでいいです……」

そのままうとうとと、机に突っ伏すノア。

イツキは黙ってブランケットを肩にかけ、そっと頭に手を置いた。

「……ほんと、ぽんこつ」

その手が離れる直前、ノアが小さく寝言を漏らす。

「……ご主人様、見ててくれた……」

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その夜。バルコニー。

イツキは夜風にあたりながら、紅茶を一口飲んだ。

「役に立たなくてもいいって、思ってたけど……」

「……あの子が、そばにいて、何かを覚えて、笑えるなら――」

「……それも、悪くないかも」

月の光が、カップの縁を静かに照らしていた。