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第9話:恋と迷いと、名もなき朝
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静かな朝だった。
目が覚めても、体の奥が少し重くて、頭の中がふわふわする。
それでも、風の音と布の擦れる音で、今が朝だと分かった。
ベッドの端に誰かがいる気配がする。
ゆっくり手を伸ばすと、すぐにその手を取られた。
「……起きたか」
落ち着いた、低い声。
ユリシス様だ。
その指は、いつも通り手袋越しで。
けれど、どこか震えていた。
「……ごめんなさい、心配……かけて」
「いい。謝るな。無事でよかった」
ユリシス様はそう言って、少しだけ僕の指を強く握った。
それが、やさしくて、苦しかった。
◇
あの夜のことは、夢のようだった。
水音、袋の中、誰にも届かない声。
そして、強くて優しい手が、僕を引き寄せた。
――助けてくれたのは、ユリシス様。
でも、あのときの息づかいも、頬をなぞる手の動きも。
どこか、あの人に似ていた。
「……まさか、ね」
小さくつぶやいて、自分でかぶりを振った。
ユリスは、喋れなかった。
ユリシス様は、こんなふうに流暢に話す。
別人だ、きっと。
でも、似ている。少し、苦しいほどに。
◇
「どうして、あの夜……すぐに来てくれたんですか?」
それは、ふいに口からこぼれた言葉だった。
ユリシス様は一瞬だけ黙った。
そして、少し遅れて、低い声で答えた。
「……偶然、気づいただけだ」
僕は首を横に振る。
「……ユリシス様は、嘘が下手ですね」
何かを隠している。
でもそれは、きっと僕のためだ。
そう思って、もうそれ以上は聞かなかった。
◇
レオの言葉が、胸の奥に刺さっていた。
嘘が下手だと言われて――反論できなかった。
本当は、全部話したい。
でも、彼があの“ユリス”をどう思っていたのか、確かめるのが怖かった。
夜が来ても、僕は彼の隣に座っていた。
寝息を立てているのを確認しながら、そっと額の汗を拭う。
細い指を取って、薬草の香りのオイルをすりこむ。
盲目である彼は、きっと気づかない。
でも僕は、気づいていた。
彼の指が、少しだけ僕の指を探るように動くことに。
その小さな仕草に、何度心臓が跳ねたか分からない。
どうしようもなく――愛おしかった。
「……君が音をやめたら、僕はどうやって生きていけばいいんだろう」
聞かれることのない問いを、誰にも届かないように呟く。
レオが小さく身を寄せてきた。
この夜の静けさが、永遠に続けばいい。
そう願った。
目が覚めても、体の奥が少し重くて、頭の中がふわふわする。
それでも、風の音と布の擦れる音で、今が朝だと分かった。
ベッドの端に誰かがいる気配がする。
ゆっくり手を伸ばすと、すぐにその手を取られた。
「……起きたか」
落ち着いた、低い声。
ユリシス様だ。
その指は、いつも通り手袋越しで。
けれど、どこか震えていた。
「……ごめんなさい、心配……かけて」
「いい。謝るな。無事でよかった」
ユリシス様はそう言って、少しだけ僕の指を強く握った。
それが、やさしくて、苦しかった。
◇
あの夜のことは、夢のようだった。
水音、袋の中、誰にも届かない声。
そして、強くて優しい手が、僕を引き寄せた。
――助けてくれたのは、ユリシス様。
でも、あのときの息づかいも、頬をなぞる手の動きも。
どこか、あの人に似ていた。
「……まさか、ね」
小さくつぶやいて、自分でかぶりを振った。
ユリスは、喋れなかった。
ユリシス様は、こんなふうに流暢に話す。
別人だ、きっと。
でも、似ている。少し、苦しいほどに。
◇
「どうして、あの夜……すぐに来てくれたんですか?」
それは、ふいに口からこぼれた言葉だった。
ユリシス様は一瞬だけ黙った。
そして、少し遅れて、低い声で答えた。
「……偶然、気づいただけだ」
僕は首を横に振る。
「……ユリシス様は、嘘が下手ですね」
何かを隠している。
でもそれは、きっと僕のためだ。
そう思って、もうそれ以上は聞かなかった。
◇
レオの言葉が、胸の奥に刺さっていた。
嘘が下手だと言われて――反論できなかった。
本当は、全部話したい。
でも、彼があの“ユリス”をどう思っていたのか、確かめるのが怖かった。
夜が来ても、僕は彼の隣に座っていた。
寝息を立てているのを確認しながら、そっと額の汗を拭う。
細い指を取って、薬草の香りのオイルをすりこむ。
盲目である彼は、きっと気づかない。
でも僕は、気づいていた。
彼の指が、少しだけ僕の指を探るように動くことに。
その小さな仕草に、何度心臓が跳ねたか分からない。
どうしようもなく――愛おしかった。
「……君が音をやめたら、僕はどうやって生きていけばいいんだろう」
聞かれることのない問いを、誰にも届かないように呟く。
レオが小さく身を寄せてきた。
この夜の静けさが、永遠に続けばいい。
そう願った。
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