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第15話:唇と、決意の火花
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あの瞬間のことを、ずっと考えていた。
唇に触れた、やさしいぬくもり。
心臓の音が、まるで掌から伝わってくるみたいに、ずっと耳の奥で響いていた。
――ユリシス様となら、大丈夫です。
そう言ったのは、たぶん僕自身の本心だった。
でも、それが“恋”だという言葉に繋がっているのかどうかは、まだ分からない。
ただ、彼の手のあたたかさも、胸に寄せられた鼓動も、すべてが――僕の“知らなかった何か”だった。
◇
その日、姉が訪ねてきた。
ユリシス様が部屋を空けていた隙に、そっと肩を抱かれる。
「レオ。驚かないで聞いてね」
「王太子殿下と相談して、演奏会を開くことにしたの」
「革命の声明を届ける場所で……君に、演奏してもらいたいの」
姉の声はやさしくて、強かった。
でも、僕の中の何かがざわついた。
革命。声明。舞台。
そこには、たくさんの視線があって、声があって、僕が死んだ“あの未来”と似た空気があって――
「……すぐには、返事できません」
そう言うのが、精いっぱいだった。
姉は黙って、僕の手を包んでくれた。
「うん。レオが、自分で決めてくれればいいのよ」
◇
夜。
扉がノックされる音と、すぐにわかる足音。
「……ユリシス様」
彼は入ってきて、僕の前に座った。
いつも通りの距離感。でも、それが昨日とは違って感じられるのは――きっと、キスを知ってしまったせい。
しばらく黙っていたけれど、僕の方から切り出した。
「……ユリシス様は、怖くなかったんですか? 僕が……人前に立つの」
ユリシス様は、少しだけ眉を動かして、それから低く答えた。
「怖かったよ」
「……君の音が、また誰かに奪われるんじゃないかって思ってた」
その声が、本当に苦しそうで――僕の胸が、きゅっとなった。
「でも」
彼は続けた。
「君が、自分の意思で立つなら。俺は、それを止めない」
僕は、息をのんだ。
守られるだけじゃない。
選ばされるだけじゃない。
“選んでもいい”って――初めて、そう言ってもらえた気がした。
◇
夜更け、誰もいない部屋のピアノの前に座る。
手探りで椅子を引き、鍵盤に指を置く。
音が出る前の、静かな世界。
こわい。
こわいけど――
「……もう一度だけ、弾いてみたいと思った」
それは、誰かのためじゃなくて。
自分のためでもなくて。
“彼”の隣に立ちたいと思ったから。
恋と恐れが、火花みたいに胸の中でぶつかっている。
唇に触れた、やさしいぬくもり。
心臓の音が、まるで掌から伝わってくるみたいに、ずっと耳の奥で響いていた。
――ユリシス様となら、大丈夫です。
そう言ったのは、たぶん僕自身の本心だった。
でも、それが“恋”だという言葉に繋がっているのかどうかは、まだ分からない。
ただ、彼の手のあたたかさも、胸に寄せられた鼓動も、すべてが――僕の“知らなかった何か”だった。
◇
その日、姉が訪ねてきた。
ユリシス様が部屋を空けていた隙に、そっと肩を抱かれる。
「レオ。驚かないで聞いてね」
「王太子殿下と相談して、演奏会を開くことにしたの」
「革命の声明を届ける場所で……君に、演奏してもらいたいの」
姉の声はやさしくて、強かった。
でも、僕の中の何かがざわついた。
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そこには、たくさんの視線があって、声があって、僕が死んだ“あの未来”と似た空気があって――
「……すぐには、返事できません」
そう言うのが、精いっぱいだった。
姉は黙って、僕の手を包んでくれた。
「うん。レオが、自分で決めてくれればいいのよ」
◇
夜。
扉がノックされる音と、すぐにわかる足音。
「……ユリシス様」
彼は入ってきて、僕の前に座った。
いつも通りの距離感。でも、それが昨日とは違って感じられるのは――きっと、キスを知ってしまったせい。
しばらく黙っていたけれど、僕の方から切り出した。
「……ユリシス様は、怖くなかったんですか? 僕が……人前に立つの」
ユリシス様は、少しだけ眉を動かして、それから低く答えた。
「怖かったよ」
「……君の音が、また誰かに奪われるんじゃないかって思ってた」
その声が、本当に苦しそうで――僕の胸が、きゅっとなった。
「でも」
彼は続けた。
「君が、自分の意思で立つなら。俺は、それを止めない」
僕は、息をのんだ。
守られるだけじゃない。
選ばされるだけじゃない。
“選んでもいい”って――初めて、そう言ってもらえた気がした。
◇
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こわい。
こわいけど――
「……もう一度だけ、弾いてみたいと思った」
それは、誰かのためじゃなくて。
自分のためでもなくて。
“彼”の隣に立ちたいと思ったから。
恋と恐れが、火花みたいに胸の中でぶつかっている。
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