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第16話:君に、届く音であれば
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その朝、僕は自分の意志で口を開いた。
「……演奏、してみようと思います」
ユリシス様は、すぐには答えなかった。
でも、椅子に座る僕の頭に、そっと手を置いてくれた。
ゆっくりと撫でるように、少しだけ強く、優しく。
言葉はなかったけれど――それだけで十分だった。
背中を押された気がした。きっと、大丈夫だと思えた。
◇
それから数日、演奏会の準備が動き出した。
姉と王太子殿下を中心に、演説会場の選定、警護の強化、音響設計までが手配されていく。
僕のために、ピアノの位置や導線、足元の段差ひとつまで細かく調整された。
「段差の左右にテープを貼って、踏みしめたときの音を変えますね」
「ペダル操作がわかりやすいように、板の抵抗を調整します」
調律師と職人が何度も屋敷に来て、僕の手に触れながら、鍵盤の重さを確認してくれた。
鍵の材質、鍵盤の返り具合、踏み込みの深さ――
見えない代わりに、指で“知る”ことができるように。
僕に合わせた、たったひとつのピアノだった。
◇
ある午後、練習室にひとりでいたとき。
ふと、思った。
「……僕の音は、誰に届いているんだろう」
革命のために。
民衆のために。
――でも、それだけじゃない気がした。
演奏を終えたあと、小さな足音が聞こえてきた。
音でわかった。使用人の少年だ。
戸口のところで、彼がぽそっと言った。
「……すごく、綺麗でした。レオ様の音」
驚いて、何も言えなかった。
でも、その言葉だけで、胸の奥が温かくなった。
見えない僕でも、ちゃんと“誰か”に届いている。
それが、うれしかった。
◇
夜。
ユリシス様の前で、僕は初めて“願い”のような言葉を口にした。
「……僕の音が、あなたに届くなら……それだけで、たぶん、こわくないです」
彼は何も言わずに、僕の手を握ってくれた。
あのときと同じように。
でも、今は“少しだけ違う気持ち”で――そのぬくもりを握り返した。
「……演奏、してみようと思います」
ユリシス様は、すぐには答えなかった。
でも、椅子に座る僕の頭に、そっと手を置いてくれた。
ゆっくりと撫でるように、少しだけ強く、優しく。
言葉はなかったけれど――それだけで十分だった。
背中を押された気がした。きっと、大丈夫だと思えた。
◇
それから数日、演奏会の準備が動き出した。
姉と王太子殿下を中心に、演説会場の選定、警護の強化、音響設計までが手配されていく。
僕のために、ピアノの位置や導線、足元の段差ひとつまで細かく調整された。
「段差の左右にテープを貼って、踏みしめたときの音を変えますね」
「ペダル操作がわかりやすいように、板の抵抗を調整します」
調律師と職人が何度も屋敷に来て、僕の手に触れながら、鍵盤の重さを確認してくれた。
鍵の材質、鍵盤の返り具合、踏み込みの深さ――
見えない代わりに、指で“知る”ことができるように。
僕に合わせた、たったひとつのピアノだった。
◇
ある午後、練習室にひとりでいたとき。
ふと、思った。
「……僕の音は、誰に届いているんだろう」
革命のために。
民衆のために。
――でも、それだけじゃない気がした。
演奏を終えたあと、小さな足音が聞こえてきた。
音でわかった。使用人の少年だ。
戸口のところで、彼がぽそっと言った。
「……すごく、綺麗でした。レオ様の音」
驚いて、何も言えなかった。
でも、その言葉だけで、胸の奥が温かくなった。
見えない僕でも、ちゃんと“誰か”に届いている。
それが、うれしかった。
◇
夜。
ユリシス様の前で、僕は初めて“願い”のような言葉を口にした。
「……僕の音が、あなたに届くなら……それだけで、たぶん、こわくないです」
彼は何も言わずに、僕の手を握ってくれた。
あのときと同じように。
でも、今は“少しだけ違う気持ち”で――そのぬくもりを握り返した。
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