【完結】死ぬ運命を変えた盲目の音楽家は、秘密の庭園で氷の貴公子に恋をする

かおり

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第17話:舞台は、君のために

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陽が沈む直前の、長く伸びた影の中。
 僕は、まだ舞台の確認をしていた。

 

 会場は、貴族街と民衆街のちょうど中間に位置する広場。

 政庁舎の前に仮設された壇上には、白く磨かれたピアノがすでに運ばれている。
 観客の導線、警護の配置、貴族席の視認性と民衆スペースの距離――
 あらゆる細部を詰め、ようやく今日、完成した。

 

 だが、それでも落ち着かない。

 この舞台の上に、彼が立つ。

 見えない世界のなかで、恐怖と希望の狭間に立たされる少年が――
 “革命の鍵”として音を奏でるのだ。

 

 その責任の重さに、少しだけ吐き気がした。

 



 

 王太子殿下との会話は短かった。

 

「ユリシス。君の気持ちは分かる。だが、彼は“自分で選んだ”んだろう?」

 

「……だからこそ、俺が守らなきゃ意味がないんです」

 

 それ以上、言葉はなかった。

 王太子殿下は深く頷き、僕の肩にそっと手を置いて去っていった。

 



 

 夜になってから、レオを屋敷の裏門からこっそり連れ出した。
 人払いをしたリハーサル用の舞台は、誰もいない分、異様な静けさが支配していた。

 

 風の音と、ピアノの気配だけがそこにあった。

 

 レオはゆっくりと舞台の上に足を踏み入れる。
 盲目の彼にとって、それはひとつひとつ確かめるような行為だった。

 僕は背後から黙ってついていく。

 

 彼は、ピアノの前に立ち止まり、そっと手を鍵盤に触れた。
 音は鳴らさず、ただ、鍵盤の冷たさと滑らかさを確かめている。

 

 その背中が、あまりにも小さくて、儚くて。

 でも同時に、どこか遠くにいってしまいそうで――
 胸が、痛くなった。

 

「……怖くなったら、逃げていい」

 

 僕はそう言った。

 声が震えそうだったので、抑えて、低く。

 

 レオは振り返らなかった。

 でも、確かに僕の言葉を聞いていた。

 

「……君の音が世界を変えるなら、その舞台は、俺が守る」

 

 ようやく届いた言葉に、レオはゆっくりと頷いた。

 それから、そっと僕の方に手を伸ばし――僕の袖を、指先でつまむ。

 

「……ユリシス様がいれば、大丈夫です」

 

 彼の声は、音のない夜のなかで、誰よりも確かだった。

 

 僕はその手を握り返した。

 小さな手。震えている。でも、逃げていない。

 

 明日、彼はこの場所で音を奏でる。

 この世界で、一番静かな、でも一番響く音を――
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