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第19話:やわらかな夜に、名前を呼んで
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“英雄”と呼ばれることには、いつまで経っても慣れなかった。
屋敷の中では、誰もが丁寧に、過剰なほど敬語で接してくる。
使用人たちは僕に話しかけるとき、一拍おいて言葉を選ぶようになった。
「レオ様」「演奏、お見事でした」「まさに奇跡のようで――」
どの言葉も、優しかった。
でもどこか、よそよそしかった。
僕はただ、ピアノを弾いただけだ。
誰かを感動させるためじゃなかった。ただ、あの人に届けたかっただけ。
だから、あの夜以来――
世界は少し眩しすぎて、窮屈に感じていた。
◇
その日の夜、ユリシス様が部屋を訪れた。
「レオ、眠れないなら、少しだけ外に出ようか」
手を引かれて、別の部屋に連れていかれた。
灯りはほとんど落とされていて、柔らかな毛布と、ふたり分の湯たんぽが準備されていた。
「……ここなら、誰にも邪魔されない」
その声に、胸の奥がふっと緩んだ。
◇
床に並べて座った毛布の上、
彼はそっと僕の肩を引き寄せてくれた。
「レオは、今のままでいい」
「誰にどう思われても、俺の知っている君は変わらない」
その言葉に、堪えきれず声がこぼれた。
「……皆に褒められるより、ユリシス様に『よかった』って言われた方が嬉しいんです」
ほんとうに、心の底からそう思った。
あの演奏も、舞台に立った勇気も。
全部、彼が見てくれていたからできた。
僕は毛布の中で、そっと彼に体を預けた。
「……好きです」
声が震えた。でも、止めなかった。
「あなたのことが、大好きです」
今まで、ずっと飲み込んでいた言葉だった。
でも、言ってよかったと思えた。
彼の手が、僕の髪を優しく撫でる。
そして、額にそっと、口づけが落ちた。
「……それだけで、全部報われた」
その低く静かな声に、思わず目頭が熱くなる。
◇
ふたりは、名前を呼び合わなかった。
でも、その夜はずっと――気持ちだけで通じ合っていた。
眠りにつく直前、彼の胸に耳をあてて、鼓動の音を聴いた。
世界が騒がしくても。
称賛や誤解に囲まれても。
この鼓動が、僕のすべてを受け止めてくれる。
……ありがとう、ユリシス様。
心の中で、そう呼んだ。
屋敷の中では、誰もが丁寧に、過剰なほど敬語で接してくる。
使用人たちは僕に話しかけるとき、一拍おいて言葉を選ぶようになった。
「レオ様」「演奏、お見事でした」「まさに奇跡のようで――」
どの言葉も、優しかった。
でもどこか、よそよそしかった。
僕はただ、ピアノを弾いただけだ。
誰かを感動させるためじゃなかった。ただ、あの人に届けたかっただけ。
だから、あの夜以来――
世界は少し眩しすぎて、窮屈に感じていた。
◇
その日の夜、ユリシス様が部屋を訪れた。
「レオ、眠れないなら、少しだけ外に出ようか」
手を引かれて、別の部屋に連れていかれた。
灯りはほとんど落とされていて、柔らかな毛布と、ふたり分の湯たんぽが準備されていた。
「……ここなら、誰にも邪魔されない」
その声に、胸の奥がふっと緩んだ。
◇
床に並べて座った毛布の上、
彼はそっと僕の肩を引き寄せてくれた。
「レオは、今のままでいい」
「誰にどう思われても、俺の知っている君は変わらない」
その言葉に、堪えきれず声がこぼれた。
「……皆に褒められるより、ユリシス様に『よかった』って言われた方が嬉しいんです」
ほんとうに、心の底からそう思った。
あの演奏も、舞台に立った勇気も。
全部、彼が見てくれていたからできた。
僕は毛布の中で、そっと彼に体を預けた。
「……好きです」
声が震えた。でも、止めなかった。
「あなたのことが、大好きです」
今まで、ずっと飲み込んでいた言葉だった。
でも、言ってよかったと思えた。
彼の手が、僕の髪を優しく撫でる。
そして、額にそっと、口づけが落ちた。
「……それだけで、全部報われた」
その低く静かな声に、思わず目頭が熱くなる。
◇
ふたりは、名前を呼び合わなかった。
でも、その夜はずっと――気持ちだけで通じ合っていた。
眠りにつく直前、彼の胸に耳をあてて、鼓動の音を聴いた。
世界が騒がしくても。
称賛や誤解に囲まれても。
この鼓動が、僕のすべてを受け止めてくれる。
……ありがとう、ユリシス様。
心の中で、そう呼んだ。
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