【完結】死ぬ運命を変えた盲目の音楽家は、秘密の庭園で氷の貴公子に恋をする

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番外編 第3話「君を知りたい、全部」 ※

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 あの夜から、僕の世界が、少し変わった気がする。

 

 手を握られただけ。
 耳に、唇がふれただけ。
 それだけなのに、身体の奥がじんわり熱くなって、眠るまで時間がかかった。

 

 夢の中でも、彼の手のぬくもりが、残っていた。

 



 

 翌朝、ユリシス様は何事もなかったように振る舞っていた。
 僕も、何も言わなかった。

 

 言葉にしてしまえば、あの夜の感触が壊れてしまいそうで、怖かった。

 

 でも、触れたいと思ってしまったのは、確かだった。

 彼の手に。声に。吐息に。
 そして――肌に。

 

 目が見えないからこそ、僕はもっと触れて、確かめたかった。

 



 

 その夜、ふたりで過ごす部屋の中。
 食事を終えて、灯りだけがぼんやりと残る空間で。

 

 僕は、勇気を出して、言った。

 

 「ユリシス様……僕からも、触れてみてもいいですか」

 

 一瞬、静寂が落ちた。
 空気が止まったようだった。

 

 「……もちろん。君の好きなように」

 

 低くて、どこか緊張を含んだ声。

 

 僕は手を伸ばす。
 彼の手を、恐る恐るたどり、指先を重ねた。

 

 その手を伝って、腕へ。
 袖の布越しに、形をなぞる。

 

 ――服の下は、どんなふうなんだろう。

 

 僕は、彼の手を握ったまま、問う。

 

 「……シャツのボタン、少しだけ……」

 

 ユリシス様は何も言わず、静かにボタンを外した。
 布の重なりがほどける音がして、わずかな体温が、空気に滲んだ。

 

 手をそっと伸ばす。
 指先が、肌にふれる。

 

 ……熱い。

 

 見えないから、形しかわからない。
 でも、その形が、自分の胸の奥に、深く刻まれていく。

 

 鎖骨。肩の丸み。胸の起伏。

 どこか、びくんと小さく震えたのがわかった。

 

 「……くすぐったいですか?」

 「……いや。ただ、君の手が……」

 

 言いかけた言葉が、喉で止まる。

 

 僕はそのまま、頬をそっと彼の胸に寄せた。

 音が聴こえた。
 トクン、トクン、と強く響く鼓動。

 

 「……すごい」

 

 まるで、彼が生きている証を、直接聴いているみたいだった。

 

 この人が、僕のそばにいる。
 あたたかくて、確かで――優しい。

 

 触れて、聴いて、匂いを覚えて――
 僕は、あなたのことを全部、知ってしまいたい。

 

 「……もっと、近くにいてもいいですか」

 

 僕の問いに、ユリシス様は静かに言った。

 

 「君が望むなら、どこまでも近くにいる」

 

 その声が、まるで誓いのように響いた。

 

 目が見えない僕にとって、彼は“気配そのもの”だった。
 だからこそ、もっと触れて、もっと感じて――知っていきたい。

 

 ……この胸の高鳴りも、
 彼が与えてくれた、音楽のようなものだから。
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