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第2話 この世界、知ってる気がする
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目が覚めたのは、まだ薄暗い朝だった。
重たい体をベッドから起こし、鏡の前に立つ。ドレスのレースのあいだから、たぷっとした二の腕が見えた。
やっぱり、痩せてはいなかった。むしろ、前より肉付きが良いかもしれない。
昨日の言葉が耳に蘇る。
「ミリエラ様は、痩せれば本当にお美しいのですが」
その直後、弟のレオが言い放った。
「口ごと縫ってやろうか」――。
なんなのこの世界。いや、ほんとになんなの。
私は髪をまとめながら、視線を鏡から逸らした。
自分の顔が、どこかで見たことある気がしてならなかった。
夢じゃない。これは現実。たぶん異世界。じゃあ、なんで既視感があるんだろう。
違和感は、その日の午後に確信へと変わった。
使用人の許可を得て、書庫へと足を運んだ。
気分転換にと薦められたのだけど、本を手に取った瞬間、背中に電流が走った。
それは、かつて自分が小学生の頃に読んでいた、児童向けファンタジー小説――
「勇者ルークと七つの試練」シリーズ。その世界と、完全に一致していた。
登場人物の名前も、事件の流れも、地図の形さえも。
ルークという名前の平民の少年が、貴族に拾われ、学園に入学し、成り上がっていく話。
王国を救い、騎士団長になるまでの成長譚。その中に、確かにあった。
悪役令息レオ=エヴァンティーヌ。
学園でルークに嫌がらせをする嫌な奴。
その動機は「姉を侮辱されたと勘違いしたこと」。
そして、その“姉”については、名もない脇役として少しだけ描写されていた。
ぽっちゃり。地味。存在感が薄い。言い返さない。
――私じゃん。
私が、原因だったの?
震える手で本を閉じた。頭がぐるぐると回っていた。
レオが断罪されるルート。最終的に国外追放。原作ではそれで“スカッとする”はずの展開。
でも、今ここにいるレオは、姉の私に対してだけ過保護で、でも誰よりも真っ直ぐだった。
あの子がそんな未来を迎えるなんて、嫌だ。絶対に。
「……痩せたら、侮辱されないなら……変わったら、何か変わるのかな」
ぽつりと呟いたその言葉は、妙に現実味があった。
変わる。変えてみせる。弟を守るために。
***
「14回目も失敗、かあ……」
厨房の奥。ラトは焦げたクッキーの山を前に、しょんぼりと項垂れていた。
配合を変え、焼き加減を調整し、食感を追求してきた。
“ミリエラ様でも安心して食べられる、罪悪感ゼロのサクサク系”。それが目標。
だが、理想と現実はなかなか合わない。
しかも、何度も挑戦しているのを知っている厨房の人々には、もうバレている。
「ミリエラ様の、どこが好きなんだ?」
「……お菓子を、美味しそうに食べてくれるとこです」
にやける使用人たちを背に、ラトは新しいレシピ帳をめくりながら、次の試作へと取りかかった。
***
夜。私は自室に戻り、もう一度鏡の前に立った。
これは、私が昔読んだ“物語”。
でも、もうただの読者じゃない。この中で生きてる。
それなら、私にもできることがある。
レオを守る。
未来を変える。
そのために――変わる。
深く息を吸い、ゆっくりと吐き出す。
震える手で、ドレスのコルセットを自分で締め直した。
「変わってやるよ、この体も、この世界も」
鏡の中の自分が、小さく笑った。
本当の意味で、目が覚めた気がした。
重たい体をベッドから起こし、鏡の前に立つ。ドレスのレースのあいだから、たぷっとした二の腕が見えた。
やっぱり、痩せてはいなかった。むしろ、前より肉付きが良いかもしれない。
昨日の言葉が耳に蘇る。
「ミリエラ様は、痩せれば本当にお美しいのですが」
その直後、弟のレオが言い放った。
「口ごと縫ってやろうか」――。
なんなのこの世界。いや、ほんとになんなの。
私は髪をまとめながら、視線を鏡から逸らした。
自分の顔が、どこかで見たことある気がしてならなかった。
夢じゃない。これは現実。たぶん異世界。じゃあ、なんで既視感があるんだろう。
違和感は、その日の午後に確信へと変わった。
使用人の許可を得て、書庫へと足を運んだ。
気分転換にと薦められたのだけど、本を手に取った瞬間、背中に電流が走った。
それは、かつて自分が小学生の頃に読んでいた、児童向けファンタジー小説――
「勇者ルークと七つの試練」シリーズ。その世界と、完全に一致していた。
登場人物の名前も、事件の流れも、地図の形さえも。
ルークという名前の平民の少年が、貴族に拾われ、学園に入学し、成り上がっていく話。
王国を救い、騎士団長になるまでの成長譚。その中に、確かにあった。
悪役令息レオ=エヴァンティーヌ。
学園でルークに嫌がらせをする嫌な奴。
その動機は「姉を侮辱されたと勘違いしたこと」。
そして、その“姉”については、名もない脇役として少しだけ描写されていた。
ぽっちゃり。地味。存在感が薄い。言い返さない。
――私じゃん。
私が、原因だったの?
震える手で本を閉じた。頭がぐるぐると回っていた。
レオが断罪されるルート。最終的に国外追放。原作ではそれで“スカッとする”はずの展開。
でも、今ここにいるレオは、姉の私に対してだけ過保護で、でも誰よりも真っ直ぐだった。
あの子がそんな未来を迎えるなんて、嫌だ。絶対に。
「……痩せたら、侮辱されないなら……変わったら、何か変わるのかな」
ぽつりと呟いたその言葉は、妙に現実味があった。
変わる。変えてみせる。弟を守るために。
***
「14回目も失敗、かあ……」
厨房の奥。ラトは焦げたクッキーの山を前に、しょんぼりと項垂れていた。
配合を変え、焼き加減を調整し、食感を追求してきた。
“ミリエラ様でも安心して食べられる、罪悪感ゼロのサクサク系”。それが目標。
だが、理想と現実はなかなか合わない。
しかも、何度も挑戦しているのを知っている厨房の人々には、もうバレている。
「ミリエラ様の、どこが好きなんだ?」
「……お菓子を、美味しそうに食べてくれるとこです」
にやける使用人たちを背に、ラトは新しいレシピ帳をめくりながら、次の試作へと取りかかった。
***
夜。私は自室に戻り、もう一度鏡の前に立った。
これは、私が昔読んだ“物語”。
でも、もうただの読者じゃない。この中で生きてる。
それなら、私にもできることがある。
レオを守る。
未来を変える。
そのために――変わる。
深く息を吸い、ゆっくりと吐き出す。
震える手で、ドレスのコルセットを自分で締め直した。
「変わってやるよ、この体も、この世界も」
鏡の中の自分が、小さく笑った。
本当の意味で、目が覚めた気がした。
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