【完結】牛丼で死んだぽっちゃり姉、異世界で弟の断罪エンドを止めたい

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第12話 私を甘やかしてくれた人

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「やっぱり、この看板……ちょっと恥ずかしい」

朝、開店前の『ふくふく堂』。
木の扉に掛けられた丸い看板を見上げて、私は小さく唇を尖らせた。

 
“焼き菓子のお店 ふくふく堂”


ラトが手描きした、ふくふくした白いくまのロゴが揺れている。
初めて見たときは、「何よこれ」って言ったのに、今はもうなんだか見慣れてしまった。


「でも、気に入ってるんですよ。……あの頃のミリエラ様、ふくふくしてて、一番幸せそうでした」

 
「だからって店名にする?!」

「……すみません、勝手に」


ラトはへらっと笑って、今日のエプロンを身につける。
厨房の空気はあたたかく、焼きたてのフィナンシェの香りがふわりと漂っていた。


「朝ごはん、これどうぞ。白花豆とはちみつで作ったフィナンシェです」

「……え、朝からおやつ?」

「いっぱい働くから大丈夫です」


私は一口かじって、目を細めた。
しっとりして、優しくて、ちょっと懐かしい味がした。

 
「……はあ、幸せ」


「今日も“罪悪感ゼロ”で頑張りましょう」

「……このセリフ、なんか懐かしいね」

「“土”って言われた日から、ずっと改良してましたから」

 

ふたりで小さく笑い合って、オーブンのタイマーが鳴る音に振り向いた。


***


棚のいちばん下には、“あのクッキー”が並んでいた。

ラトが最初に作った、“カリカリ玄米クッキー”。
あの時は「……土?」って言ってしまったけど、今はちゃんと、美味しい。


「これは“最初の味”です」

ラトが用意したラベルには、私が書いた一文が印刷されている。
 

『これは“最初の味”。やさしくて、ちょっと土っぽい』

 
……あのときは、ほんとに土だったけど。


私は棚を整えながら、こっそり笑った。

 
***
 

開店祝いに、レオとルークがやってきたのは昼過ぎだった。

「甘そうな匂いがするな……姉さん、少しまた丸くなった?」

「おまえはほんと余計なことばっかり言うのよ!」

 

「“幸せ太り”ってやつだと思います!」とルークが笑ってフォローする。

「姉さん、めっちゃ幸せそうだし」


「うるさいうるさい……! ほら、これ持ってって」


私はカゴにクッキーを詰めて渡す。
レオはそれを受け取りながら、ふと真顔になった。


「……でも、ほんとに。姉さんが幸せそうでよかった」


その一言に、私は少しだけ目を細めた。
この数ヶ月、いろんなことがあった。
でも今、こうして“ここ”にいる。


それが、すべての答えだった。


***


閉店後。
一日が終わって、カウンターの後ろに並んだ空のトレーを眺めながら、私は深く息を吐いた。


「……疲れた?」

「……ううん。楽しかった」

 

ラトは椅子を引いて、私の隣に座った。
少し乱れた髪を指で整えながら、ぽつりと呟く。


「……今日、すごく楽しかったです」

「うん……やっと、ちゃんと“生きてる”って思える」


外からの光はすっかり薄れて、厨房のランプだけがぽつぽつと灯っている。
焼きたての残り香と、甘い紅茶のにおい。
誰もいない静かな時間。

 

「……ミリエラ様が、甘やかしてくれたからです」

「……違うよ」

 

私はふっと笑って、手を伸ばす。

 

「私を甘やかしてくれたのは、ラトだったよ」

 

そっと手を重ねる。
その温かさが、涙よりもやさしかった。

 

小さなお菓子屋。ふくふく堂。
やさしい味と、やわらかな時間。
ふたりだけの、静かで確かな未来。

 

今日も、焼き菓子の甘い香りが、ゆっくりと世界に溶けていく――



—完—
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