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第1話 気づいたら婚約していました
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アルデルティーネ家の応接間には、午後の日差しがやわらかく差し込んでいた。
けれど、その空気のやさしさとは裏腹に、室内では義母と義妹の“熱弁”が止まらない。
「いい? 貴族社会というのはね、上に行くほど礼節と計略がものを言うのよ。婚姻はその中でも最も重要な取引。私たちの家の未来は、今まさに決まろうとしているの」
「お母様のおっしゃる通りですわ。やっぱり、お相手が北の公爵家となれば、それなりにね……。まあ、私は嫌ですけど。だって三十五回ですよ? 離婚。もう、笑うしかないっていうか……うふふ」
声は聞こえている。たぶん、目の前で何か話しているという事実もわかっている。
でも、リュシア・アルデルティーネは、今、心の旅の真っ只中だった。
(昨日の夢に出てきた、あの模様……鳥の羽根みたいだった。細くて繊細で、でも広がりがあって。銀線であのカーブを再現するには、うーん、細工用の芯を変えた方がいいかも……)
無表情というわけではない。彼女はにこにこしている。目も口元もやわらかく、まるで人の話をきちんと聞いているような顔だ。
けれど、それは――完全に、聞いていない。
「というわけで、あなたが北のフォルヴァン公爵家に嫁ぐことになったのよ!まずは半年、北の公爵家で結婚式の準備をしながら生活することになったわ。」
妄想がピークに達したとき、義母の声が不意に届いた。リュシアは軽やかに心の旅から現実へと戻ってくる。
「……はい?」
「えっ?」と口にしたのは義妹の方だったが、それよりも義母が勢いよく頷いた。
「そう。だから、あなたは来週には向こうに出発するの。婚約はすでに正式に受け入れてもらったわ。お父様も同意してくださってるから、何の問題もないでしょう?」
(……あれ、いま婚約って言いました?)
そんな顔も見せず、リュシアはただ、にこりと笑って小さく首を傾げた。
「そうですか~」
部屋の空気が少しだけズレた気がした。義妹が「え、なにこの人、本気で気にしてないの?」とでも言いたげな顔をしている。
けれど、リュシアは気にしていない。本当に、何も気にしていなかった。
けれど、その空気のやさしさとは裏腹に、室内では義母と義妹の“熱弁”が止まらない。
「いい? 貴族社会というのはね、上に行くほど礼節と計略がものを言うのよ。婚姻はその中でも最も重要な取引。私たちの家の未来は、今まさに決まろうとしているの」
「お母様のおっしゃる通りですわ。やっぱり、お相手が北の公爵家となれば、それなりにね……。まあ、私は嫌ですけど。だって三十五回ですよ? 離婚。もう、笑うしかないっていうか……うふふ」
声は聞こえている。たぶん、目の前で何か話しているという事実もわかっている。
でも、リュシア・アルデルティーネは、今、心の旅の真っ只中だった。
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無表情というわけではない。彼女はにこにこしている。目も口元もやわらかく、まるで人の話をきちんと聞いているような顔だ。
けれど、それは――完全に、聞いていない。
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「……はい?」
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「そう。だから、あなたは来週には向こうに出発するの。婚約はすでに正式に受け入れてもらったわ。お父様も同意してくださってるから、何の問題もないでしょう?」
(……あれ、いま婚約って言いました?)
そんな顔も見せず、リュシアはただ、にこりと笑って小さく首を傾げた。
「そうですか~」
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