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第2話 嫁ぎますね〜
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「……でも、本当にこの人でいいのかしらね?」
応接間の空気は、まだ少しざわついていた。義妹が紅茶のカップを口元に運びながら、わざとため息をつく。
「フォルヴァン公爵家といっても、今回で三十六回目の結婚なんですって。前の奥様方、みんな途中で逃げたり実家に帰ったりしたそうよ?」
「それだけ相手が厄介ってことよ。逆に言えば、こちらとしては“行かせるだけで義理が果たせる”ってわけ」
義母の声はどこまでも計算高く、そしてもう、彼女の中では、すでに決定事項だった。
「だからリュシア。来週には出発だから、それまでに準備しておきなさい」
「はい~」
リュシアは、手元のメモにふわふわと線を描いていた。花の蕾のような丸い球体の中に、小さな羽根を封じ込めるデザイン。
これを銀でどう表現しようかと考えている最中だったのだ。
「嫁ぎますね~」
そう口にした時、リュシアはまだ、公爵の顔も名前も知らないままだった。
⸻
私室に戻ると、使用人たちが妙にそわそわしている。古参の侍女が、心配そうに声をかけてきた。
「お嬢様……本当に、ご結婚されるおつもりですか?」
「ええ。問題ありませんよ~。行けば、なんとかなりますし」
リュシアはおっとりと答えながら、洋服ダンスの奥にしまっていた銀細工の箱を取り出す。手になじんだヤスリや彫り具、細工バイス。どれも、自分でいるための大事な相棒。
「旅先では火の管理が難しいですし、繊細な彫りよりも型取り重視ですねぇ~……」
そんな風に独り言を呟きながら道具を選んでいく姿に、使用人たちは苦笑しながらも、どこかほっとしていた。
“このお嬢様なら、どこへ行っても、たぶん大丈夫だろう”と。
⸻
出発の日の朝。屋敷の玄関前には、立派な馬車と最低限の見送りしかいなかった。
義母が最後に釘をさしてくる。
「向こうで変な失礼をしないでちょうだいね。アルデルティーネの名に傷をつけないように!」
「は~い」
リュシアは振り向かずに返事をして、ただ空を見上げた。
(あの雲……羽根みたいですねぇ。あれ、ブローチにしても可愛いかも)
馬車の扉が開かれ、彼女は軽やかに乗り込む。重たい決意も、涙も、焦りも一切ない。
ただ静かに、自分の道具箱とともに北へ向かうだけ。
⸻
「というわけで、気づいたら婚約していて、気づいたら北へ向かうことになっていたのよねぇ。
でもまあ、寒い地方には綺麗な霜が降りるって聞きますし。そのうち、いいデザインが思いつくかもしれませんね~」
応接間の空気は、まだ少しざわついていた。義妹が紅茶のカップを口元に運びながら、わざとため息をつく。
「フォルヴァン公爵家といっても、今回で三十六回目の結婚なんですって。前の奥様方、みんな途中で逃げたり実家に帰ったりしたそうよ?」
「それだけ相手が厄介ってことよ。逆に言えば、こちらとしては“行かせるだけで義理が果たせる”ってわけ」
義母の声はどこまでも計算高く、そしてもう、彼女の中では、すでに決定事項だった。
「だからリュシア。来週には出発だから、それまでに準備しておきなさい」
「はい~」
リュシアは、手元のメモにふわふわと線を描いていた。花の蕾のような丸い球体の中に、小さな羽根を封じ込めるデザイン。
これを銀でどう表現しようかと考えている最中だったのだ。
「嫁ぎますね~」
そう口にした時、リュシアはまだ、公爵の顔も名前も知らないままだった。
⸻
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「お嬢様……本当に、ご結婚されるおつもりですか?」
「ええ。問題ありませんよ~。行けば、なんとかなりますし」
リュシアはおっとりと答えながら、洋服ダンスの奥にしまっていた銀細工の箱を取り出す。手になじんだヤスリや彫り具、細工バイス。どれも、自分でいるための大事な相棒。
「旅先では火の管理が難しいですし、繊細な彫りよりも型取り重視ですねぇ~……」
そんな風に独り言を呟きながら道具を選んでいく姿に、使用人たちは苦笑しながらも、どこかほっとしていた。
“このお嬢様なら、どこへ行っても、たぶん大丈夫だろう”と。
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出発の日の朝。屋敷の玄関前には、立派な馬車と最低限の見送りしかいなかった。
義母が最後に釘をさしてくる。
「向こうで変な失礼をしないでちょうだいね。アルデルティーネの名に傷をつけないように!」
「は~い」
リュシアは振り向かずに返事をして、ただ空を見上げた。
(あの雲……羽根みたいですねぇ。あれ、ブローチにしても可愛いかも)
馬車の扉が開かれ、彼女は軽やかに乗り込む。重たい決意も、涙も、焦りも一切ない。
ただ静かに、自分の道具箱とともに北へ向かうだけ。
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「というわけで、気づいたら婚約していて、気づいたら北へ向かうことになっていたのよねぇ。
でもまあ、寒い地方には綺麗な霜が降りるって聞きますし。そのうち、いいデザインが思いつくかもしれませんね~」
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