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第10話:叔母さま、また怒る。そして……
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フォルヴァン邸の長い廊下は、どこか静けさが張り詰めていた。
その空気を感じながら、リュシアは今日もぽやぽやと歩いていた。手には小さなスケッチ帳。視線はそこに描かれた蝶の羽模様に注がれている。
「奥様……本当に、おひとりで大丈夫ですか?」
控えめな声で付き従う侍女が問う。
「はい~。ユヴェールさんの今日のお洋服、襟のラインがとっても綺麗だったので、じっくり見てこようと思ってるんです~」
侍女は「……はぁ」と曖昧な声を漏らすしかなかった。
⸻
応接間の扉を開けたとたん、空気が張り詰めた。
ユヴェールは、背筋をぴんと伸ばして椅子に座り、扉が開くなり開口一番、言い放った。
「あなた、何もわかっていない!」
「……わかってないんですか?」
リュシアは静かに扉を閉め、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。
「そうです! この家の格式も、あの子の将来も、公爵家の重みも!あなたには、何も!」
「“あの子”って、レイくんのことですか~? 最近、土いじりが好きみたいですねぇ」
にこにこしながらそう返すリュシアに、ユヴェールのこめかみがピクリと跳ねた。
「あなたはいつも、そうやって! 真面目に向き合おうとしない!」
「そうなんですか~……」
もはや怒気すら飲み込みそうな勢いで、ユヴェールが椅子から立ち上がる。
「いい加減にしなさい! ちゃんと話を聞きなさい!!」
その瞬間――リュシアの中で、何かがカチッと音を立てた。
ユヴェールは、リシュアの“反射”をまたもや再生してしまう。
彼女はすっと立ち上がり、表情を変えず、すらすらと口を開く。
「聞いてますよ」
ユヴェールが言葉を呑む。
「聞こえてはいます、聴力は健全です。中身については、もう一度話していただければ、お聞きしますよ。内容の理解が必要であればetc、、、」
それは、相変わらず感情の一片も乗っていない――完璧に構築された“定型応答”。
「……あなたのような人は、ここには不要です! 出ていきなさい!!」
怒鳴ったのはユヴェールだったが、その声はどこか虚しかった。
⸻
リュシアはふと窓の方を見やり、目を細める。
「……あらあら、関係ない蝶々がふわふわ飛んでるわ」
ゆっくりと、扉へと歩いてゆく。
ユヴェールを一瞥もせず、ただ淡々と。
「それでは、このお部屋からは退出させていただきますねぇ~。お気をつけてお帰りください~」
にこりと微笑んだまま、扉を開けてスッと出ていった。
⸻
応接間に一人残されたユヴェールは、その場に座り込んだ。
怒りの余韻だけが体に残る、重たい疲労感が全身を支配する。
「なぜ……なぜあの人に、何も届かないの……」
そんなつぶやきが、重く沈む。
⸻
その扉の向こう。
廊下の陰で、小さな影がその様子を見ていた。
レイ・フォルヴァン。彼は誰にも気づかれず、ただひとり、呟いた。
「……怒るって、疲れるんだなぁ」
⸻
リュシアは自室に戻り、スケッチ帳を開く。
そこには蝶の羽の輪郭が、銀で描かれるのを待っていた。
「今日の蝶々の羽、綺麗だったなぁ。……銀で、再現できるかなぁ」
彼女の世界は、いつだって美しいものに向かっていた。
怒気も、格式も、主張も――そこには存在しない。
ただ、自分が作りたいものと、穏やかな日々だけが、そこにあった。
その空気を感じながら、リュシアは今日もぽやぽやと歩いていた。手には小さなスケッチ帳。視線はそこに描かれた蝶の羽模様に注がれている。
「奥様……本当に、おひとりで大丈夫ですか?」
控えめな声で付き従う侍女が問う。
「はい~。ユヴェールさんの今日のお洋服、襟のラインがとっても綺麗だったので、じっくり見てこようと思ってるんです~」
侍女は「……はぁ」と曖昧な声を漏らすしかなかった。
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ユヴェールは、背筋をぴんと伸ばして椅子に座り、扉が開くなり開口一番、言い放った。
「あなた、何もわかっていない!」
「……わかってないんですか?」
リュシアは静かに扉を閉め、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。
「そうです! この家の格式も、あの子の将来も、公爵家の重みも!あなたには、何も!」
「“あの子”って、レイくんのことですか~? 最近、土いじりが好きみたいですねぇ」
にこにこしながらそう返すリュシアに、ユヴェールのこめかみがピクリと跳ねた。
「あなたはいつも、そうやって! 真面目に向き合おうとしない!」
「そうなんですか~……」
もはや怒気すら飲み込みそうな勢いで、ユヴェールが椅子から立ち上がる。
「いい加減にしなさい! ちゃんと話を聞きなさい!!」
その瞬間――リュシアの中で、何かがカチッと音を立てた。
ユヴェールは、リシュアの“反射”をまたもや再生してしまう。
彼女はすっと立ち上がり、表情を変えず、すらすらと口を開く。
「聞いてますよ」
ユヴェールが言葉を呑む。
「聞こえてはいます、聴力は健全です。中身については、もう一度話していただければ、お聞きしますよ。内容の理解が必要であればetc、、、」
それは、相変わらず感情の一片も乗っていない――完璧に構築された“定型応答”。
「……あなたのような人は、ここには不要です! 出ていきなさい!!」
怒鳴ったのはユヴェールだったが、その声はどこか虚しかった。
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リュシアはふと窓の方を見やり、目を細める。
「……あらあら、関係ない蝶々がふわふわ飛んでるわ」
ゆっくりと、扉へと歩いてゆく。
ユヴェールを一瞥もせず、ただ淡々と。
「それでは、このお部屋からは退出させていただきますねぇ~。お気をつけてお帰りください~」
にこりと微笑んだまま、扉を開けてスッと出ていった。
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応接間に一人残されたユヴェールは、その場に座り込んだ。
怒りの余韻だけが体に残る、重たい疲労感が全身を支配する。
「なぜ……なぜあの人に、何も届かないの……」
そんなつぶやきが、重く沈む。
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その扉の向こう。
廊下の陰で、小さな影がその様子を見ていた。
レイ・フォルヴァン。彼は誰にも気づかれず、ただひとり、呟いた。
「……怒るって、疲れるんだなぁ」
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リュシアは自室に戻り、スケッチ帳を開く。
そこには蝶の羽の輪郭が、銀で描かれるのを待っていた。
「今日の蝶々の羽、綺麗だったなぁ。……銀で、再現できるかなぁ」
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怒気も、格式も、主張も――そこには存在しない。
ただ、自分が作りたいものと、穏やかな日々だけが、そこにあった。
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