【完結】35回目の離婚公爵と、話を聞いてない嫁

かおり

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第12話:手を取られることにも、少し慣れて

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 朝の庭。
 夜露に濡れた精霊花が、白く光を弾いている。

 その傍らに、リュシアとレイが並んで腰を下ろしていた。
 無言のまま、肩が少しだけ触れそうな距離。けれど、その沈黙は不思議と心地よい。

 ⸻

「……銀って、冷たいのに、きれいだね」

 レイがつぶやく。

「そうですねぇ~。冷たくて、形を変えて、ちょっと光るんです。……だから、好きなんですよ~」

 リュシアの声は柔らかく、霧に溶けていくようだった。

 レイは少しの間、何かを考えるように黙っていたが、ふいにリュシアの袖をちょんと引いた。

「手、見せて」

「はい?」

 不思議そうにリュシアが手を差し出すと、レイはそっとその上に自分の小さな手を重ねた。

「この手で、ぼくの銀細工、作ってくれたの?」

「ええ、そうですよ~。私の道具で、レイくんの葉っぱ、包みました」

 指先を見つめながら、リュシアはふんわりと笑った。
 誰かに自分の“手”をじっと見られることが、なんだか少しくすぐったい。

 ⸻

 昼過ぎ、屋敷の奥にある作業室では、ふたり並んで銀細工を眺めていた。

 レイが小さな声で言う。

「ぼくも……もっと作りたい」

 その言葉に、リュシアの目がまんまるになる。

「では、レイくん専用の机を作らせてもらいましょう~。小さな道具も、ちょっとずつですねぇ」

 使用人たちは静かに顔を見合わせた。

「……あの、坊ちゃまがあそこまで……」

 作業室には、銀の光と、あたたかい空気がゆっくりと広がっていた。

 ⸻

 その夜、作業を終えたリュシアが扉に手をかけようとしたとき――
 袖が、きゅっと引かれた。

 振り返ると、そこにはレイがいた。
 黙ったまま、そっとリュシアの手を取る。

「……?」

 レイは何も言わずに手を握っていた。

 その手は、小さくて、でもしっかりとあたたかかった。

 リュシアは少しだけ照れたように微笑む。

「……手を引かれるのって、案外悪くないですねぇ」

 そしてふたりは、そのまま静かに歩き出す。
 手をつないだまま、ゆっくりと。

 ⸻

 廊下の奥、階段の上。

 グレイヴは、黙ってその様子を見下ろしていた。

 レイがふと振り返り、公爵にちょっとだけ――ほんの少しだけ、得意げな顔をする。
 グレイヴはその顔に目を細め、視線をリュシアへと向けた。

「……あの子が、あんな顔をするとはな」

 呟きは低く、誰にも届かない。

 けれどリュシアは、そんな視線にも気づかず、歩きながらスケッチ帳をぱらりと開いていた。

「今日の葉っぱ、少し手の形に似てました。……銀で、包んでみようかなぁ」

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