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後日譚 結婚までの話を、ちゃんと聞いてください
第2話 プロポーズ“やり直し”事件
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公爵の執務室には、いつにも増して静かな緊張が漂っていた。
机の上には山と積まれた結婚式関連の書類。日取り、衣装、招待客リスト。形式的な準備はすべて整っていた。
だがグレイヴ・フォルヴァンは、ふとペンを止める。
「……そういえば、俺は──正式にプロポーズをしたか?」
思い返してみれば、婚約は政治的判断と周囲の合意によって決まったものだった。
自分の意思を、想いを、彼女に伝えたことはなかった。
(これでは、いけない)
言葉にしなければならないのだと、ようやく悟る。
この気持ちはただの形式ではない。彼女に向けた、個人的な「願い」だ。
⸻
夕方、曇り空の下。
中庭の片隅で、グレイヴは花束を抱え、硬直していた。
季節の終わりに咲く遅咲きの薔薇。
赤でも白でもない、淡い桃色の花々を、緊張のあまり強く握りしめすぎている。
「……リュシア」
「はい~?」
呼びかけに、リュシアは相変わらず穏やかな笑みを浮かべて振り向いた。
「き、君に……」
「?」
「……」
言えない。
喉にかかった言葉が、どうしても出てこない。
“好きだ”“結婚してほしい”──その簡単な二語が、喉の奥に貼りついて動かない。
そして結局、彼は黙って花束を差し出した。
リュシアはその花を受け取り、ふわりと香りを嗅ぐと、うっとりしたように目を細めた。
「まぁ~、素敵なお花ですねぇ~。この香り……どこか春の朝みたいですぅ~」
まるで、それがただの季節の贈り物であるかのように。
「ではでは~」
そのまま軽やかに、庭を後にしていく。
グレイヴは、取り残されたまま、小さく肩を落とした。
⸻
夜、リュシアは一人で花束を手に、回廊を歩いていた。
灯りも落ち、風の通り道にだけ、静かな空気が流れている。
ふと足を止めて、もう一度香りを嗅ぐ。
「……ふふっ」
くすっと笑って、ぽつりと呟く。
「ひよこが、殻をわってるところですかねぇ~」
その声には、あたたかな含みと、微かな待ち遠しさが滲んでいた。
⸻
部屋に戻ったリュシアは、机の上に目を留める。
そこには、以前グレイヴが贈ってくれたペンダントの箱。未開封のままだった。
そっと蓋を開けると、銀の鎖に、花びらを模したダイヤがひとつ、きらりと光っている。
「……ちゃんと、言葉にしてくれたら、つけますねぇ~」
誰にともなく囁きながら、箱をそっと閉じた。
その瞳は、どこか嬉しそうで、ほんの少し、切なげだった。
机の上には山と積まれた結婚式関連の書類。日取り、衣装、招待客リスト。形式的な準備はすべて整っていた。
だがグレイヴ・フォルヴァンは、ふとペンを止める。
「……そういえば、俺は──正式にプロポーズをしたか?」
思い返してみれば、婚約は政治的判断と周囲の合意によって決まったものだった。
自分の意思を、想いを、彼女に伝えたことはなかった。
(これでは、いけない)
言葉にしなければならないのだと、ようやく悟る。
この気持ちはただの形式ではない。彼女に向けた、個人的な「願い」だ。
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夕方、曇り空の下。
中庭の片隅で、グレイヴは花束を抱え、硬直していた。
季節の終わりに咲く遅咲きの薔薇。
赤でも白でもない、淡い桃色の花々を、緊張のあまり強く握りしめすぎている。
「……リュシア」
「はい~?」
呼びかけに、リュシアは相変わらず穏やかな笑みを浮かべて振り向いた。
「き、君に……」
「?」
「……」
言えない。
喉にかかった言葉が、どうしても出てこない。
“好きだ”“結婚してほしい”──その簡単な二語が、喉の奥に貼りついて動かない。
そして結局、彼は黙って花束を差し出した。
リュシアはその花を受け取り、ふわりと香りを嗅ぐと、うっとりしたように目を細めた。
「まぁ~、素敵なお花ですねぇ~。この香り……どこか春の朝みたいですぅ~」
まるで、それがただの季節の贈り物であるかのように。
「ではでは~」
そのまま軽やかに、庭を後にしていく。
グレイヴは、取り残されたまま、小さく肩を落とした。
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夜、リュシアは一人で花束を手に、回廊を歩いていた。
灯りも落ち、風の通り道にだけ、静かな空気が流れている。
ふと足を止めて、もう一度香りを嗅ぐ。
「……ふふっ」
くすっと笑って、ぽつりと呟く。
「ひよこが、殻をわってるところですかねぇ~」
その声には、あたたかな含みと、微かな待ち遠しさが滲んでいた。
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部屋に戻ったリュシアは、机の上に目を留める。
そこには、以前グレイヴが贈ってくれたペンダントの箱。未開封のままだった。
そっと蓋を開けると、銀の鎖に、花びらを模したダイヤがひとつ、きらりと光っている。
「……ちゃんと、言葉にしてくれたら、つけますねぇ~」
誰にともなく囁きながら、箱をそっと閉じた。
その瞳は、どこか嬉しそうで、ほんの少し、切なげだった。
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