【完結】35回目の離婚公爵と、話を聞いてない嫁

かおり

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後日譚 結婚までの話を、ちゃんと聞いてください

第3話 父上、それ“好き”じゃないと意味ないですよ

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 屋敷の南のテラスに、湯気と香りがたちのぼる。

 テーブルの上にはリュシアが選んだという花柄のティーセット。いつの間にか定着した“親子ティータイム”は、今日も例の調子で始まっていた。

「……こういう時間を取るのも、大切なのかもしれんな」

 グレイヴがぽつりとこぼす。

 彼の向かいで紅茶を注ぎながら、少年――レイ・フォルヴァンが、少しだけ眉を動かした。

「それ、リュシアさんの真似?」

「……バレたか」

 グレイヴは苦笑した。ティーカップの持ち方、角砂糖を一つだけ落とす癖、すべて彼女の影響だ。自覚はある。だが、まるで本人には届いていない気がしてならなかった。

「……リュシアには、どう接すればいいのだろうな」

 カップを口に運びながら呟くと、レイは静かに、しかしはっきりと返した。

「うん、父上。そこがダメなんだよ」

「……なんだと?」

「リュシアさんは、全部わかってると思うよ。父上のこと」

 レイはカップを置き、窓の外を見やる。

「でも、たぶん興味ないんだと思う」

「……それは、彼女が“無関心”だということか?」

「そうじゃなくて。リュシアさんはね、“好きなもの”しか見ないんだ」

 その言葉に、グレイヴの手が止まる。

 レイは続けた。

「まず父上が、“好きな対象”にならなきゃ」

 雷に打たれたような衝撃だった。

 プロポーズのやり直し、花束、贈り物、彼女の笑顔――
 すべてが表面をなぞっていただけかもしれない。

「……そ、うか」

 彼女は、聞いていないのではなかった。
 選んでいたのだ――“大事にする価値があるかどうか”を。

 その対象になるためには、彼女の「好きなもの」にならなければならない。
 恋とは、もっとずっと、能動的なものなのだ。

「……ありがとう、レイ」

 グレイヴがつぶやくと、レイはティーセットを片づけながら、軽く笑った。

「がんばって、父上。……でも、リシュアさんの“好き”ってすっごく難しそう」

 そう言って、彼はトレイを持って部屋を出ていった。

 胸の奥で、覚悟の音が鳴った。
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