【完結】35回目の離婚公爵と、話を聞いてない嫁

かおり

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後日譚 結婚までの話を、ちゃんと聞いてください

第4話 グレイヴ一世一代の告白

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 屋敷の夜は静かだった。
 風はやわらかく、精霊花がゆるく揺れている。だが、今の彼にとってその穏やかさは、心を急かすものだった。

 グレイヴ・フォルヴァンは廊下を早足で進みながら、何度も頭の中で言葉を反芻していた。

(落ち着け……落ち着け……いや、落ち着いてはいけないのか? これは、決意の告白なのだから……!)

 手には何も持たず。ただ心だけを携えて、彼はリュシアの部屋の前に立った。

「……失礼する」

 ノックは、彼らしからぬ勢いで済まされ、扉が開く。

 部屋の中では、リュシア・アルデルティーネが、ソファの上で本を読みながら、足先を小さくぱたぱたと揺らしていた。

「公爵様、どうしましたぁ? お夜食には早いですよぉ~」

 その声に――

「す、す、好きだ! 私は君と、ちゃんと結婚がしたい!」

 グレイヴの声が重なるように響いた。

 噛みそうになった言葉を、力技でねじ伏せるように吐き出した。呼吸も鼓動も乱れている。だが、その目だけはまっすぐだった。

 沈黙。

 リュシアは一瞬、ぱちくりと瞬きをして、彼を見つめて――

「あはっ……あははははっ! あっ……お腹痛いっ、ふふっ、ごめんなさい……っ!」

 ソファに崩れ落ちるようにして、笑い出した。

「ひ、ひどい……ふふっ、だって、表情が……あっ、でも、素敵でしたよぉ……ほんとに、ちゃんと……しゃらり、って響きましたぁ~」

 笑いながらも、その目の端が、ほんの少しだけ潤んでいた。

 グレイヴはしゅんとしながらも、「……笑われるとは、思わなかった」とぼそりと呟いた。

「違うんですぅ~、素敵すぎたんです。あんな真剣な顔で、突然の“好き”なんて……あはっ。心が、びっくりしちゃいました」

 リュシアは胸に手を当てるようにして、すう、と深呼吸をする。

「でもですねぇ、公爵様。心が揺れる時間って、貴族の生活にはあんまりないんですよ~。だから私、ここに来てよかったです」

 リュシアは小さなガラスの花瓶を手に取り、精霊花の花びらをひとつそっと摘んだ。

「この花びら、今日の風に似てますねぇ。……ちょっと冷たくて、でも、やさしい音がして。……告白って、音が残るんですねぇ」

 そしてそのまま、自分の膝の上に、花びらを乗せる。

「今の告白、ちゃんと“しゃらり”って響きましたよぉ~。……いい音でした」

 グレイヴの表情が、やわらかくほどける。

 その夜、彼女の中で何かが動いた。
 まだ“恋”とは名乗らぬ感情かもしれない。
 けれど確かに――花びらのように、そっと心に落ちたのだ。
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