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1.まだ運ばれているようです。

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コンコン。と控えめなノックが聞こえて、私は体をびくりと揺らした。気配を感じなかったからだ。
「ここに来て幽霊とか言わないよねえ」
鬼がいるなら、幽霊もいるのかもしれない。定期的に生贄が送り込まれる場所なのだ。構えていると、さらにノックの音が聞こえる。
「うう……入ってますよぉ」
つい、前世の癖でノックを返してしまった。どれだけ伝わったかわからないが、外からの音はぴたりと止まった。
すると同時に箱が持ち上げられる。先程まで(ほとんど寝ていたけれど)とは違い、とても丁寧に運ばれているような気がする。
「ええ、ここはもう一息にばっと蓋を開けてくれるんじゃないの、いきなりぐつぐつ煮込んだ鍋とかに突っ込まれるのは嫌だよう」
私は、一般的な女子高生よりややオタクよりだった。漫画やゲームで得た鬼の生贄なんて、目も当てられない無残な姿しか思い浮かばない。
もしくは…。頭に浮かんだのは従妹のお姉さんから借りた乙女向けゲームの知識。
「いやいやいや、そっちは駄目でしょう。前世でも未体験だよ無理無理無理。今の私って多分だけど前と同じくらいの歳だし、なんなら栄養足りなさ過ぎて胸も尻もないんだけど……顔もどんななんだろう。生贄って可愛い子が相場だとは思うけど、鏡さえ見たことないんだけど」
ぺたぺたと顔に触れてみるが、鼻があって目があるくらいしか…いやまって、まつ毛はちょっと長いかもしれない。髪の毛はやっぱり栄養失調気味でごわついてる気がする。そもそもシャンプーとか無かったよねえ。肌は若いと思う多分。
「うわわわわっ」
恐らくどこかに着いたのだろう。私の体は前方へと滑り落ちる。一向に真っすぐに戻らないが、再び動き出したところを見ると担がれてるのかもしれない。
「なんや、今回の贄は鳥みたいにうるさいなあ。元気なのはええけど」
 突然聞こえた声に、私は慌てて声のする方向の壁に耳をくっつけた。こんな状況じゃなかったら、凄くときめく低くて甘い声が前世で言うところの関西弁訛りで喋っている。
「黙ったな。聞こえたんか」
くつくつと笑う声が壁を隔てて聞こえる。今から酷い手段で食べられるかもしれないと言うのに私はドキドキしていた。
「怖らんでええよ。もうちょっとおやすみしとき、な?」
トントン。と、先程よりもさらに優しくノックの音が響く。私への合図のつもりなのだろう。
甘い!顔見えてないけど、ものすごくイケメンの気配を感じる!
真っ暗な箱の中ではわからないけれど、私の顔はおそらく真っ赤になっているだろう。今生どころか前世でだって、こんなイケメンボイスに甘く囁かれたことなんてないのだ。

ああ、神様こういうサービスは心臓に悪いです。というか普通に、せめてもうちょっと長く生きていたいです。


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