転生しましたが、今から生贄として捧げられる様です。

深緑とかげ

文字の大きさ
5 / 21

4.名前を教えてください

しおりを挟む
 
 お粥を食べて、暖かいものでお腹がいっぱいになったら、眠ってしまったようだった。生贄にされると言いながら、我ながら迂闊すぎる。目が覚めると、またご飯に連れられて、気が付けばまた最初に眠っていた部屋にいる。この繰り返しだ。ずいぶん太ったはずだ、ちゃんと肉付きがよくなっている気がする。(胸の辺りがスカスカなのは成長期前だからだ)
「おはようさん。はよ、おいで」
 慣れた手つきで手招きされて、少しでも私が動けば抱き上げられる。そろそろ歩けるのではないかと、部屋の中を動き回ってずっこけたのは昨夜の出来ごとだ。
「あの、えっと……鬼さん」
「……人間さん、なんですか?」
「ごめんなさい。あの、名前聞いてもいいですか?」
 私のことをお世話してくれている様子から、女将さんの言う「若様」ではないのだろうと思った。世話係の人にしては美形すぎるけど。
「ええよ。大和って言うねん」
「え」
「やーまーと」
 私が驚いた顔をしたのを、聞こえなかったと判断したのだろう。繰り返された言葉に、私は慌てて頷いた。
「大和さん……ですね。私は……」
 アカリは、前世の名前だ。でも、今の私は生贄様と呼ばれるばかりで名前なんて呼ばれたことは無い。前世の記憶の方が強くて、いかに今の私に思い出がないのかがわかる。
「なんて、呼んで欲しい?」
 切れ長の、よく見れば髪の毛と似た綺麗な赤色の眼球が私をじっと見つめた。
「え?」
「ここにくる人間は名前なんて無い。せやから俺らが拾ってどう扱ってもいい。だいたいが名前も無くて、言葉もほとんど喋らんと言うか、知らんのやろな……なあ、なんて呼んで欲しい?」
 そっと大和さんの大きな手のひらが私の頬を撫でた。親指が唇に触れる。
「えっ、えっと、あの、私……」
「ん?」
「あかりっ、灯って呼ばれたいです。それから、何でもします。お掃除とか、体力ついたら出来ると思うんです。料理はあんまりだけど、覚えますし、頭はあんまりよくないけど、頑張るから……ここに置いてください」
 勢いよく頭を下げたら、畳に頭をぶつけた。沈黙が怖くて頭を上げられない。
「ははっ、なんやねんそれ。灯な、ええよ。ちゃんと、世話してやるから、気にせんでええけど……そうやな。もうちょっと健康になったら、してもらおか」
 にんまりと笑った大和さんは、妖艶と言うよりは悪戯っぽい表情を浮かべた。真っ赤な髪の毛が太陽の光にキラキラと光る。
「そ、掃除とかですよね……」
「さあなあ。なんやと思う?」
 遠慮のない手が、私の頭を撫でて耳の裏を擽った。
「ひえっ……」
「ひえっ…って何や。ハハハッ子供に手ぇ出したりせえへんから安心せえ」
 またくしゃくしゃと雑に撫でられる。嫌ではないが、不満はある。絶対にからかわれている。確かに私は所謂つるぺたな体をしているが、そこまで子供ではない……はずだ。
「そりゃ、大和さんの美貌なら不自由してないでしょうが、私は慣れてないので意地悪しないでください!」
 つい、大きな声が出た。それに驚いたように大和さんは私をじっと見つめた。少しだけ怖くなる。優しいから調子に乗ってしまったのだろうか。
「……あの、ごめ、んなさい」
「ああ、怒ったんとちゃうで。あんまり元気やから、びっくりしただけや」
 クスクスとまた笑いだした大和さんに、私はほっとする。大丈夫、いきなり殴られたりはしない。数日ではあるが、今までの人生で一番丁寧に扱われている。それは確かだ。
「でもなあ、意地悪は……したなるわ」
「なんでですか?」
「可愛らしすぎんねん」
 抗議の言葉を上げる前に、私の体はまたひょいと抱き上げられた。いい加減歩けると言うより、歩く練習がしたい。
「あの、私歩きたいです」
「あかんよ。俺の仕事やからな」
 ぎゅっ。と、回った大和さんの手が私を抱きしめたのは気のせいだろうか。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

結婚したくない腐女子が結婚しました

折原さゆみ
恋愛
倉敷紗々(30歳)、独身。両親に結婚をせがまれて、嫌気がさしていた。 仕方なく、結婚相談所で登録を行うことにした。 本当は、結婚なんてしたくない、子供なんてもってのほか、どうしたものかと考えた彼女が出した結論とは? ※BL(ボーイズラブ)という表現が出てきますが、BL好きには物足りないかもしれません。  主人公の独断と偏見がかなり多いです。そこのところを考慮に入れてお読みください。 ※番外編に入り、百合についても語り始めました。  こちらも独断と偏見が多々あるかもしれないのでご注意ください。 ※この作品はフィクションです。実際の人物、団体などとは関係ありません。 ※番外編を随時更新中。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

処理中です...