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7.ある日鬼さんに出会った
しおりを挟む「そこに誰かいるのかな?」
ゆったりとした、低く落ち着いた男の声だった。優しそうだけれど、厳しそうな。校長先生みたいなイメージが近いだろうか。大きすぎる独り言……いや、がるちゃんとの会話が聞こえたのだろう。
「あっ……」
返事をしようとして、私は慌てて自分の口を手で押さえた。大和さんが私を食べないからと言って、他の鬼が同じとは限らないと思ったのだ。
「……ふうん。困ったね。里の子が迷いこんだとは違うみたいだ」
声は容赦なく近づいてくる。土を踏みしめる音がする。
「出ておいで、いきなり食ったりはしないから」
いやいやいや怖いですけど。いきなりじゃなかったら食べるんですか。違うって言って欲しい。どっちにしても出ていきたくない。心臓が凄くドキドキしている。変な汗も出てきたし。涙も出そう。
「ああ、いた……」
頭の上から声がした。ホラー映画だったら私もう死んでるかもしれない。そう思って顔をあげた。
「……え、美形」
恐怖も忘れて口からこぼれたのは我ながら、あまりに間抜けなセリフだった。
「んん?」
「鬼ってどうしてみんな美形なんですか……」
銀色の長い髪の毛、大和さんよりも線の細いすらっとした体。多分ずっと歳上なのだろうと思った。美貌に年齢は感じないが纏う空気が違う。上手く言えないけど偉い人な気がする。二本の角のうち片方が折れていたのが目に留まった。
「怯えてたと思ったけど、私の顔がお気に召したのかな?」
「はっ……いや、えっと……不躾にごめんなさい」
自覚のある美形さん怖い。ふんわりと微笑まれると、ついつい頭がぽーっとしてしまう。
「お嬢さんは、人だよね……私たちと同じ言葉を話しているのは何故かな?」
「えっ……わかりません」
嘘はついていない。私が話しているのは日本語のはずだ。普通に会話出来ていたし、大和さんも蘭さんも特に気にしてる様子は無かったはずだ。じっと見つめてくる美形さんに愛想笑いをしてみたら、驚いた顔をされた。私の顔変だったかな。
「ふふ……まあ、今はいいか。それより、ここは私の屋敷の庭になるんだけど」
不法侵入の四文字が頭に浮かぶ。どうしよう、わざとじゃないし優しそうだし許してくれるかな。
「ま、迷子なんです。すぐに帰るので、えっと赤い髪の大和さんの家ってどこですか?」
私の言葉を聞いて、また美形さんは固まってしまった。もう、何がダメなのか答えまで言ってほしい。早く帰りたい。
「大和の……困った子だな、あの子も」
美形さんの声は小さくて、私は首を傾げた。それに気づいたようで、手招きをされる。
「帰り道は教えてあげる。ただ一つ条件がある」
「……っどっか食べるとかじゃなければ」
髪とかならまだましだけど、腕とか足とか置いていけとか言われても困るっていうか嫌だ。そもそも死んでしまう。
「あははっ……君、おかしな子だね。はあ、これじゃあそうか……うーん」
急に大声で笑いだしたかと思えば、私の顔をまじまじ見つめる美形さんに、私はなんだか恥ずかしくなる。鬼はやっぱり人を食べないのが一般的なのだろうか。
「あの……」
「ああ、ごめんね。おかしくて、条件は私に会ったことを内緒にすることだよ。迷子になったけど、なんとか帰ってこれた。そう、大和には言いなさい」
あなたの名前は。とか、どうして。とか聞き返したかった口は指先で塞がれてくるりと体を回された。耳元で「いいね。守れなかったら、その時は食べてしまうかもしれないよ」
そう囁かれて私は頭が真っ白になった。とん。と背を押されれば足が勝手に動き出す。振り返ることさえできずに、怖くなって目を閉じていたら急に足は動きをやめた。恐る恐る目を開く。
「あ……ここ」
そこは、いつもの散歩コースだった。途端に力が抜けて土の上にぺたりと座り込んだ。
「ごはんよー」
蘭さんの声が聞こえたけれど、私はしばらく動けずにいた。
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