21 / 21
14.私は生贄です。
しおりを挟む「灯、起きて」
「へっ……ってわぁ」
寝坊でもしてしまったのだろうか。大和さんに呼ばれて返事もままならない状態で抱き起こされた。辺りはまだ暗い。私が大和さんの腕の中できょろきょろと様子を伺っていると、大和さんが手で私の頭の後ろを包んで自分の肩に押し付けるように引き寄せた。
「ははっ……ごめんなあ。寝たままやと後で困るから」
それでも何とか顔をずらして、大和さんの顔を見上げた。暗くてよく見えない。
「おはよう……じゃないですよね」
暗闇の中に松明のような灯がチラチラと見える。
複数の気配と、ざわめき。焦ったような大和さんの声に嫌な予感がした。
「あの、大和さん……」
「少し、静かにしとってな」
開きかけた口は、大和さんの大きな手でそっと塞がれた。暗闇に慣れた目で辺りを見れば、ここはよく知る場所だった。今日だって、蘭さんの手伝いをするために過ごした場所。
台所だ。そこに隣接された食在庫に下ろされる。地に足はついたものの大和さんの腕からは解放されていない。
――私、本当は匿われてたんですか。
そんな疑問が頭に浮かんだのだ。生贄と言いながらも、害されない。それどころか凄く優しくしてもらった。ずっと不思議だったのだ。何故、こんなによくしてくれるのか。太らせて食べるだけなら、もっと乱暴にしてもいいし閉じ込めていたって良かったはずだ。
――大和さんは、人を食べないんですか。
大和さんだけじゃない、蘭さんだって鬼だ。優しくても、ほとんど人の形をしていても頭に生えた角と、肉を割くための牙がある。食人の文化だって過去にはあったとも言っていた。つまりはあえて食べないだけで、食べることは不可能ではないのだ。美味しくないから食べないのではないと思う。
――灯の涙は甘いな。
あれが冗談じゃないなら、きっと鬼にとっては血の味だって甘いのかもしれない。
「あはっ……ここ食在庫ですよね」
酷い冗談だ。そうは思っても、口からつい出てしまった。心臓がぎゅうぎゅうと締め付けられる。
「灯……俺が怖いか」
お尻が床についた。大和さんの声が上から聞こえて、ゆっくり見上げた。大和さんの視線を辿って、ようやく自分の手が震えているのがわかった。大きく首を振ったけど、大和さんは悲しそうに視線をそらした。
――ごめんなさい。
言いたいことはそれじゃないから、開きかけた口を閉じた。
――怖くないって言ってるじゃないですか。
やっぱり違う気がして言えなかった。
何度も何かを言おうとして、上手く言葉にできずに口をぱくぱくと動かすだけだった。
「ここにおってな」
大和さんの言葉に顔を上げると、手を伸ばすより先に扉が目の前で閉じられた。
ガチャリ。
鍵の音が聞こえて、頭の中が真っ白になった。
暗闇の中で、手を伸ばした。揺らしても開かない扉に、体中冷えていく気がした。
「やだ……待って、やだ……やだ……閉じ込めないで、お願い。出して、食べ……食べたっていいの。だからもう閉じ込めないで……誰か、お願い……お願いします」
体が石みたいに重くて、叫んで暴れたいのにできなかった。声だって、本当に出ているのかわからない。金縛りにでもあったみたいに、体が硬直していく。
――何もするな!
頭の中で声がする。知らない男の声だ。いや、私は知っている。でも思い出したくない。知らない。何も……してはいけない。
意識が遠くなる。遠くで、名前を呼ばれた気がした。
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
結婚したくない腐女子が結婚しました
折原さゆみ
恋愛
倉敷紗々(30歳)、独身。両親に結婚をせがまれて、嫌気がさしていた。
仕方なく、結婚相談所で登録を行うことにした。
本当は、結婚なんてしたくない、子供なんてもってのほか、どうしたものかと考えた彼女が出した結論とは?
※BL(ボーイズラブ)という表現が出てきますが、BL好きには物足りないかもしれません。
主人公の独断と偏見がかなり多いです。そこのところを考慮に入れてお読みください。
※番外編に入り、百合についても語り始めました。
こちらも独断と偏見が多々あるかもしれないのでご注意ください。
※この作品はフィクションです。実際の人物、団体などとは関係ありません。
※番外編を随時更新中。
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
猫なので、もう働きません。
具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。
やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!?
しかもここは女性が極端に少ない世界。
イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。
「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。
これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。
※表紙はAI画像です
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
感想ありがとうございます。
お互いの距離感を掴み切れてないままこんなことに……
早く本当の意味で安心させてあげられるといいのですが。
テンポが良くて読みやすいです!
面白いし、好きなのでこれからも頑張ってください!
感想ありがとうございます!
好きと言っていただけて嬉しいです。
これからも更新頑張りますので、お付き合いいただけたら嬉しいです。
ありがとうございました。