女王蜂の建国記 ~追放された妖精、作業服を着て砂漠を緑地化する~

はとポッポ豆太

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第六十一話_ビオラ、お裁縫の才能を発揮する

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 ナナがトボトボと肩を落として「ビオラちゃ~ん…… 助けてぇ~」と情けない声を出しながらやって来た。「どうしたの、ナナちゃん?」と心配そうにビオラが問うとナナは大きな溜息をつく。

「ガーベラが服を着ない……」

「あれ? さっき遊びに来てたけど服着てたよ」

「違うんだよぉ。外ではちゃんと着てるんだよ。 でも家に帰ってくるとソッコーで脱ぎ捨てるんだよ……」

 ガーベラはまだ幼いということで自立させておらず、ナナと一緒に住んでいる。そのガーベラは家に帰ってくるなりペイっと服を脱ぎ捨てそのあと一切なにも身につけようとしないらしい。

「前回、コンプラに謝ったときにキツく言い聞かせたから外では渋々服を着るようにはなったんだけど、家の中では全然言うこと聞かないの……」

「何でだろうね? 裸族なのかな? でも家の中だけなら好きにさせておけばいいんじゃない?」

「それがあの子の感覚がちょっと変で…… 地下都市全体が自分の家と思ってるらしいのよ。素っ裸で街中をウロウロしたり、昨日なんてマーゴロックの家に裸でふらっとやって来てお茶を要求して飲んで帰って行ったらしいの。 んで、マーゴロックから苦言を言われちゃったよ。お茶を出すのはいいけど、すっぽんぽんは勘弁してくれって」

「お、おおぉぅ……」

 ナナの話によると、すっぽんぽんのガーベラはマーゴロックの家にやって来ると来客用(といっても客は地獄蟻か妖精蜂なのでミニマムサイズ)の椅子に足を組んで座り、肘掛けに手を置くと、唖然としているマーゴロックを見上げて「お茶」と一言要求したらしい。

「どうやら服が気に入らないらしいんだよ。 ほら、わたしたちの服って作業服っぽいの多いじゃない?」

「うん。最初にナナちゃんが着てた服を参考にわたしが作ったヤツね」

「そうそう。 ゼフィたちはビオラちゃんに作ってもらった服を気に入って着てるんだけど、ガーベラの感性には合わないらしいの。気に入らないものを着るなら裸のほうがマシってことらしいんだよ。 せっかく作ってくれたビオラちゃんには悪いんだけど……」

 本当に申し訳なさそうにナナは項垂れている。

 ―― 口調が素になってるなぁ。 よっぽど落ち込んでるっぽい、ナナちゃん。

「服はそれぞれ好き嫌いがあるからそれは別にいいよ。 じゃあさ、ガーベラの好みに合った服作ろうか?」

 ビオラは意外と裁縫が得意である。きっかけは快適な眠りの為に布団を作ったことだったが、それ以来ハマったビオラは布が手に入れば自分や娘の服だけではなくナナたちの服も手掛けていた。何もない砂漠の中での娯楽として裁縫はビオラにとって丁度良かったのだった。

 ビオラは今までに結構な数の服を仕上げたのだが、その中でも一番の物持ちは最初の子であるイクシアである。次いでペリウィンクル。ペパーミントは今イクシアのお下がりを着ている状態である。
 しかしナナやゼフィたちは作業着としてのツナギ数着と、普段着としてナナが最初に着ていたオーバーオールっぽい服が数着のみである。ゼフィたちGPシスターズに至っては、体格がまったく同じなためにどの服が誰の服なのかも決まってすらいなかった。

「ホント?! ありがとう、ビオラちゃん!」

「うん、いいよ。 どんな服がいいか聞いてみたいからガーベラ呼んでくれる?」

 ナナは目に涙を溜め、胸の前で手を組んでビオラに感謝する。

 ―― 最後まで素だったし、よっぽど悩んでたんだろうなぁ、ナナちゃん。



 感謝を伝えたナナが帰って行き、しばらくするとガーベラがやって来た。

「……ガーベラ。 なんで裸で来たの? お外ではちゃんと服着るって話では……?」

「ふく、つくってくれるときいて!」

「そんなにすぐには作れないのよ。今すぐ着て帰れるわけじゃないよ」

 素っ裸のガーベラには相変わらず闇の精霊がイイ仕事をしながらまとわりついていた。

「ペパーミント、ちょっと巣に戻って大きな布か何か持って来てくれる? ガーベラに掛けてあげて」

「はーい、ママ」

 ペパーミントは元気に返事をして巣に飛んでいく。ちなみにペパーミントはちゃんと服を着ている。隠すものも無いため、光の精霊はペパーミントの顔の横といういつもの定位置でキラキラしていた。

 ペパーミントが巣に向かったその間に、ビオラは蜜蝋版を取り出してガーベラから詳しく好みの服について聞き取り調査を行った。

 しばらくしてペパーミントがバスタオルくらいの布を持って戻ってくる。

「はい、ガーちん」

「ん。 ありがと、ペパミン」

 愛称で呼び合う二人は随分と仲が良さそうである。ふふっ、と微笑んだビオラは口を開く。

「じゃあ、ガーベラ。完成したら連絡するね。 あんまりお母さんを困らせないようにね」

「わかった。 ありがと、おばちゃん」

「お姉さんね」

「わかった、おばちゃん」

 ―― くっそっ……!

 子持ちとはいえ、まだそんな歳じゃないのにと思うビオラであったが、諦めて裁縫に取り掛かることにした。



 数日後、ビオラはガーベラの要望通りに完成した服一式を自室の壁に掛けて眺める。

「言われたとおりに作っては見たけど…… コレ、似合う人いる???」

 完成品を眺め、非常に不安になるビオラであった。
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