女王蜂の建国記 ~追放された妖精、作業服を着て砂漠を緑地化する~

はとポッポ豆太

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第七十八話_アラディール、夢を語る

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 アラディール宅に到着したビオラとナナはブルースモグとアラディールの母レジーと挨拶、そして近況について互いに語ったあと、二人はマーゴロックとサヤが休んでいる部屋へと案内された。

 マーゴロックとサヤは並んでベッドに腰かけており、ビオラとナナはテーブルの上に座っていた。

「それで、どんな感じ?」

「ん? あぁ、出産の件か。 時期が来たら世話になろうと思う。オババさんもレジーさんも良い人だしサヤとも気が合うようだ。 お二人も遠慮せず頼ってくれとまで言ってくれたしな」

「そっか、よかったね」

「あぁ、助かったぜ。 町までは遠いし道中は危険だしな。護衛を雇うにしても外との連絡がとれねぇ。マロニの嬢ちゃんが来たときに幾らか払って送ってもらおうかと考えてたが、いつ来るか分からねぇし。 正直、いい歳して無計画だったと反省してるよ。まぁ、今まで仕事漬けで、急に暇になった反動かな」

 ボリボリと頭を掻くマーゴロックの脇腹に隣で赤くなって俯くサヤがドスっと肘鉄を入れる。

「なぁ、マーゴロックよ。暇になると子供が――」
「ナナちゃん、シーッ!」

「産み月が近づいたらアラディールが俺たちを運んでくれるそうだ。それまでにオババさんたちが受け入れの準備をしてくれるらしい。 俺は戻ったら、村の人たちへの礼に色々と作ろうと思う。ざっと村の様子を見た感じ、ヘタってる道具類があったからな。鍛冶屋として役に立てそうだ」

 嬉しそうにマーゴロックは笑う。それを見てビオラとナナもニコッと笑った。と、そこでビオラは「そういえばペリウィンクルは?」と娘が居ないことに気が付いた。

「あぁ、ペリウィンクルならアラディールと一緒じゃないか? 仲良いな、あいつら」



 その頃、ペリウィンクルはアラディールの部屋にいた。

「アラディール。 はい、ロイヤルゼリー作って来たよ」

 瓶を抱えてブーンと飛んできたペリウィンクルはアラディールにロイヤルゼリー入りの瓶を渡した。ビオラはアラディールにロイヤルゼリーをあげるのを控えることにしたのだが、ペリウィンクルにそのことを伝え忘れているためほとんど無駄である。

「ありがとう、ペリちゃん!」

 瓶を受け取ったアラディールは早速と指を瓶に突っ込み、指先についたロイヤルゼリーを舐めて「ん~♪」と笑顔で唸って「美味しい!」とペリウィンクルに向かって言う。
 満足そうに「えへへっ」と笑ったペリウィンクルはブーンと飛んでアラディールの周りを飛び回ったあと、頭の上にチョコンと座った。

「ペリちゃん、どう? 僕の村」

「うん、楽しい! わたしね、国の外に出るの初めてなの」

 初めて外に出たペリウィンクルにとっては見るもの全てが新鮮であった。例えそれが寂れた村でも。

「そっか。こんな小さな村でもペリちゃんには新鮮に映るんだね。 僕もお婆ちゃんに連れられて初めて町に行ったときは驚いたよ」

「へ~、わたしも行ってみたいなぁ!」

 ペリウィンクルの言葉を聞いて、アラディールは今まで言おうかどうか迷っていた言葉を口にした。

「実は僕、あと一年もしたら村を出るんだ」

「え?!」

「十六歳、成人したら稼ぎに出ないと…… 貧しい村だからさ、外からの仕送りが無いとやっていけないんだ。若い人は体力のあるうちに外で稼げるだけ稼いでおく…… 最近では仕事先に居着いちゃって帰ってこない人も多いけどね」

 少し寂しそうにアラディールが言うと、ペリウィンクルも声に寂しさをまじえて「そっか……」と言う。

「でも、アラディールって次期村長じゃなかったの?」

「うん、今はお婆ちゃんが代理をしてくれてるんだけどね。 次期村長でも例外じゃないよ。むしろ何の経験も無い成人したばかりの半人前に村長は務まらないでしょ? だから、僕は行かなきゃ……」

「そうなんだ…… 寂しくなっちゃうね」

「うん、寂しいね……」

 だから、付いて来てくれないかな。

 喉まで出かかったその言葉がアラディールの口からはどうしても出てこなかった。長く妖精蜂と関わってきた彼は、妖精蜂という集団の中での働き蜂の役目を知っている。常識的に考えて彼女が巣を捨てて自分に付いて来るわけがなかった。

「アラディールは何のお仕事をするつもりなの?」

「僕? あ、うん…… 傭兵として働こうと思うんだ。学も無いし、それに傭兵稼業はずっとウチが続けてきたことだからね」

「そうなの?」

「うん。 もともと、お婆ちゃんのお父さんくらいの時代までは僕たちの一族は盗賊だったんだよ」

 少し言いにくそうなアラディールの言葉を聞いて「えっ!?」と驚いたペリウィンクルは頭の上からヒョコっと顔を出してアラディールの顔を覗き込む。
 ペリウィンクルの驚いた顔を視線をあげて見上げたアラディールはクスっと笑う。

「ホントだよ。 スカプキン族はこの砂漠のあっちこっちに拠点を持つ大きな盗賊団だったんだって。 でも、暴れ過ぎたのかな? ある時、被害に遭ってた人間と獣人の国の連合軍に攻められちゃってね。この村はその生き残りだよ」

「そうなんだ……」

「昔みたいに盗賊をやる武力もないし、そんな村出身の人間に良い仕事があるわけなくて。 結局、危険が伴うけどある程度の収入が見込める傭兵しかなくてね。魔族との戦争で需要はあるし」

「戦争…… 危ないよ、アラディール」

 心配そうな声を出すペリウィンクルの頭にアラディールは指を伸ばす、チョンチョンと頭を撫でたアラディールは自分の前に両手を掬うような形にする。すると頭の上に居たペリウィンクルはブーンと飛んで、アラディールの両手の中に降り立つと向かい合うようにして座った。

「大丈夫。 何も傭兵の仕事は戦争ばっかじゃないよ。護衛の仕事や魔物討伐とかだってある。危険なことに変わりはないけど、それでも戦争に参加するよりずっと危険は少ないよ」

「マロニさんのとこのルキウスさんみたいな?」

「そうそう。 そういえば彼女たちがオアシ巣に行くときにウチの村を経由してくれるようになって少しは村の財政も楽になったんだよ。お婆ちゃんが言ってた」

「じゃあさ、少しは楽になったならアラディールが村を出なくてもいいんじゃない?」

 心配そうに少し目を潤ませて見上げるペリウィンクルを見てアラディールは胸が痛くなった。しかし彼には自分の夢があった。そして、もしかしたらという思いで口を開く。

「それじゃあ足りないよ。 それに、僕は世界を見て回りたい」

「世界?」

「うん。 病弱で、ずっと村から出たことがなかった僕だけど、ある日突然、不思議な人たちに出会って世界が広がった気がしたんだ」

 ペリウィンクルは首を傾げて「不思議な人たち?」とアラディールの言葉をなぞる。

「そう、ビオラちゃんとナナちゃん。 村の外にはこんなに不思議で面白い人たちが居るんだって。 だから元気になったら色んな所に行って、色んな人と会ってみたいって。 初めてお婆ちゃんに連れられて町に出掛けたときも感動したなぁ……」

 少し目線を上げて思い出すように中空を見つめるアラディールは嬉しそうに言う。そして視線をペリウィンクルに戻して続ける。

「世界には僕たちが知らないことが沢山あるんだ。それを見て回りたい」

 言外に「一緒に来て欲しい」という思いを込めながら。「わたしも行きたい!」「一緒に見て回ろう!」という返事を期待して。

「……そうなんだ。 それなら、仕方ないね……」

 しかし返ってきたのは期待した言葉ではなかった。アラディールは寂しそうに小さく微笑むと「ごめんね」と言った。

「……変な話しちゃった。 あ、もう遅いし、寝ようか」

「うん、そうだね。 おやすみ。 話してくれてありがとう。あと一年、いっぱい遊ぼう!」

「うん! おやすみ、ペリちゃん」

 ブーンとペリウィンクルが部屋を出て行くのを見送ったアラディールはゴロンとベッドに仰向けに転がると目元を腕で抑えて苦しそうな声を出す。

「卑怯者だな…… 僕」

 自分の口からハッキリと「付いて来て欲しい」「一緒に世界を見て回ろう」と言えず、相手に言わせようとした自分が恥ずかしくなり、アラディールはギリッと奥歯を噛んだ。

 部屋を出てしばらく飛んだペリウィンクルはクルリと振り返ってアラディールの部屋を見る。そしてポツリと小さく呟いた。

「ごめんね、アラディール。わたし行けないよ。 巣とお母さん――」

 言葉が途切れたペリウィンクルの脳裏に、羽を怪我して不自由にしか飛べないイクシアの姿が浮かび上がる。

「お姉ちゃんを置いてなんて行けないよ……」

 寂しそうにそう言ったあと、「…………あっ」と何かを思い出したようにして、取って付けた感じで言う。

「ペパーミントも心配だし」

 少しだけクスっと笑い、アラディールの部屋に背を向けると、ペリウィンクルはビオラたちが待つ部屋へと飛んでいった。
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