女王蜂の建国記 ~追放された妖精、作業服を着て砂漠を緑地化する~

はとポッポ豆太

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第八十二話_ナナ、キラキラした瞳で訴える

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「なぁ、旦那ぁ~。 アレ売ってくれよぉ~、旦那がこの前使ってたやつ~」

「ダメだ、売れねぇ」

「そんなこと言わずにさぁ~、頼むよ、旦那ぁ~」

「売れねぇって言ってんだろ」

 マーゴロックの工房でコーネリアスが銃を売ってくれとゴネていた。

「売ってくれよぉ~、頼むよ旦那ぁ~、売ってくれぇ~売ってくれよぉ~!」

 遂には床に寝転がってゴロゴロと転がりながら要求し始めたコーネリアスを、マーゴロックは呆れた表情で眺める。

「あのなぁ…… オッサンが床に転がって駄々こねても可愛くねぇんだよ。 そんなんで気が変わると思うのか?」

 ガバッと起き上がったコーネリアスは「オッサンっっ!!!」と心外とばかりに叫んだ。

「旦那! 俺まだ二十八だぜ!」

「オッサンに片足ツッコんでんだろ」

「まだ全身浸かっちゃいねぇよ!」

 コーネリアスの必死の抗議をテーブルに頬杖を突きながら流しているマーゴロックの横で、ルキウスは銃を手に取って静かに眺めていた。

「火薬を使わない火縄銃か…… 火縄も無いし、火縄銃と言っていいのかどうか」

 コトッとテーブルに銃を置いて「しかしまぁ、流石は旦那だな。こんなに早く魔法の武器を作っちまうなんて」とルキウスは感心しながら椅子の背もたれに体をグッと預ける。
 コーネリアスは肩を落としながらやって来ると椅子に腰かけ、物欲しげにテーブルの上の銃を眺めはじめた。

「……俺の手柄じゃねぇな。陛下やガキんちょどものおかげだ。 俺はただ、いつも通りに槌を振ってるだけだ」

「そうかい? ま、どんな製法なのかは知らねぇが、そうはいっても旦那が居なけれりゃ出来ねぇだろ? 短期間で地獄蟻と信頼関係を築いたのも含めて、俺はすげぇと思うぜ」

 フッと小さく笑いながらルキウスに言われ、マーゴロックは「ありがとよ」と照れて笑う。と、そこへサヤがお盆に湯呑を載せてやって来る。

「いらっしゃい、ルキウスさん、コーネリアスさん。 はい、蜂蜜のお湯割り」

「おぉ! これはすみません、女将さん。 そうそう、ご懐妊されたと聞きました。おめでとうございます」

 顔を綻ばせて寿ぐルキウスにサヤも嬉しそうに笑顔を向けて「ありがとうございます、ふふっ」と返しながら三人分の湯呑をテーブルに置く。

「楽しみですな。女の子でしたら女将さん似の気立ての良い子でしょうね。 男の子でしたら――」

 チラッとルキウスはマーゴロックに視線を向けるとフッと笑って言う。

「振り回される女将さんの苦労が倍になるでしょうが、賑やかで楽しくなるでしょうな」

「ふふふっ、男の子はコレくらいが丁度いいのよ。 苦労はしてきたけど、飽きはしなかったからねぇ」

「……男の子ってなぁ、おい」

 苦そうな顔をしつつ、しかし満更でもなさそうなマーゴロックを見てサヤは幸せそうに微笑むと「それではルキウスさん、コーネリアスさん、ごゆっくり」と言って工房を出て行った。

「ったく、人をダシにしやがって……」

「満更でもねぇ顔して何言ってやがんだ旦那。 こっちはとんでもなく甘いモンを飲まされた気分だ」

 そう言いつつルキウスは湯気の立つ湯呑に手を伸ばす。

「……程よい甘さのはずなんだがな。まぁ、じっくり味わって飲めよ。妖精蜂の蜜は高級品だぞ」

 マーゴロックの捻くれたセリフを聞きながら、一口味わって満足そうに息を吐いたルキウスは「ハハッ」と笑う。そこへ、マロニが「マーゴロックさぁぁぁんっ!!」と叫びながら工房の中へと突撃してきた。

「コーネリアスさんに聞きましたよ! 魔法の武器売ってくださぁぁぁい!!」

「ダメだ」

「なぁぁんでですかぁぁぁっ!!? 売ってくださいよぉぉぉっ!!」

「ダメなもんはダメだ」

「ヤダヤダヤダァ!! 売ってくんなきゃヤダァ!!」

 床にゴロゴロと転がってジタバタし始めたマロニを「はぁ……」と溜息をつきながらマーゴロックは呆れた表情で眺めて言う。

「コレはリス族のお家芸なのか?」

「失礼だな、旦那。 こいつらと一緒にするんじゃねぇ、俺はやってねぇぞ。 まぁ、あと三十年若けりゃやってただろうが」

「やるのかよ……」

 涙目でガバッと顔を上げたマロニは「何で売ってくれないんですかぁ?! お願いしますよぉ! 専売権くださいって言っておいたじゃないですかぁ!?」と訴える。

「国の為にならんと思ったら嬢ちゃんでも売らんと言った気がするが?」

「この場所教えたのわたしですよぉ!」

「それはお前、情報料とか言って俺に鉄鉱石売りつけたろ?」

「うっ…… ひ、引っ越しのお手伝いに道中の護衛、あと当面の食料…… 色々と出資もしたじゃないですか!」

「おぅ、嬢ちゃんの厚意は嬉しかったし本当に助かったぜ。感謝してる。 が、出資とは聞いてねぇな。嬢ちゃんにしては詰めが甘かったな、ハハッ」

「うぅ…… しまったぁ……」

 項垂れるマロニ。機嫌よく笑っていたマーゴロックは笑いを止めると真剣な表情で彼女に言う。

「お前らには本当に感謝してるよ。 もし、俺がそれほどこの国に愛着が無けりゃ、何も考えずに作ったモンを売ったろうよ」

 キョトンとした表情をしたマロニを見てマーゴロックはフッと小さく笑んで続ける。

「ルキウスからの助言、嬢ちゃんも同じ考えなんだろ? 産まれたばかりのこの国は目立つべきじゃねぇって。今はまだ力を蓄える時期だってな」

「えぇ、まぁそうですね」

「売れねぇ理由はそれさ。 俺はこの国が好きだ。愉快なウチの陛下やビオラ陛下、騒がしいガキんちょどもが好きなんだよ。魔法の武器を作ったって名声なんか、どうでもいいと思えるくらいな。 俺が目立つことで、この国とあいつらに迷惑かけるわけにゃいかねぇ」

「……仕入れ先を言ったりしませんよ」

「嬢ちゃんを信用してねぇわけじゃねぇんだ。だが、外に出せばいずれは分かんだろ? 嬢ちゃんだけが扱ってりゃ出所は絞られるんだからな。 そんなこと、嬢ちゃんなら百も承知だろ?」

 痛いところを突かれて不服そうに黙ってしまったマロニにマーゴロックは「だからまぁ、料簡してくれや」と優しく笑んで諭す。

「この国が十分に育った時、最初に魔法の武器を卸すのは嬢ちゃんとこだ。それは約束する。 だからそれまで、ちっとだけ待ってくれ」

「……分かりましたよぉ、暫くはプリムラさんと二人でこことの取引を独占してることで我慢しますよぉ。薬草や蜂蜜で結構利益出ますし」

 マロニの返事を聞きホッとしたマーゴロックは「ありがとよ」と言う。そこへ「お~い、マーゴロック!」と工房の外からナナの声がした。

「商人さんが来たと聞いたぞい。 マロニたちか?」

「よぉ、陛下。 そうだ、今ちょうど商談中でな」

「ご無沙汰しております、陛下」

「おぉ、マロニ! 肉は持って来たか? 肉!」

「勿論でございます。 干し肉の他に最高級A5ランク黒毛魔牛も仕入れて参りました。輸送中はプリムラさんの魔法植物を使った冷蔵庫に入れてきましたので熟成具合も丁度良いかと」

「おぉっ!!」

 マロニの提案を聞いたナナはキラキラした瞳をマーゴロックに向け、「マーゴロック……」と訴える。マーゴロックはそれを見てクスっと笑う。

「あぁ、買っておいてやる」

「ホントか?! 今日の夕飯が楽しみだ!」

 機嫌よくルンルン♪と鼻歌を歌いながら足取り軽く工房を出て行くナナを見送ったマーゴロックは、部屋の隅を指さしてマロニに言う。そこには積まれた箱や立て掛けられている大量の武器があった。

「数打ちだが、剣やら包丁やら農機具やら色々と作ってある。買い取ってくれるか? 薪とか、以前注文しておいた必要なものを一通り、残りは買えるだけ食料を売ってくれ。ビオラ陛下に畑を借りてるが、まだまだ自給できるレベルじゃねぇんでな。 あぁ、さっき言ってた高級肉もな。たまにはイグアナやらヘビやらじゃなねぇ、良い肉を食わせてやりてぇし」

「偏屈頑固オヤジのマーゴロックさんが、可愛らしい陛下を随分と慕ってるじゃないですかぁ~」

 魔法の武器を買えなかった事に対するちょっとした腹いせもあって、口を尖らせて軽く嫌味っぽい言い方をしたマロニだったが、マーゴロックから返ってきたのは「まぁな」という肯定と小さな微笑みだった。
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