女王蜂の建国記 ~追放された妖精、作業服を着て砂漠を緑地化する~

はとポッポ豆太

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第二十話_娘、誕生する

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 ビオラは拡張された巣を眺めながら「うん、やりすぎた」と反省を口にした。

 建国宣言にテンションの上ったビオラは勢いそのまま更に巣を拡張していた。これから娘が産まれてくるとはいえ、二人暮らしには大きすぎる。物資もそれほど多くないため空き部屋だらけである。

「う~ん、何に使おう? とりあえず一部屋か二部屋はプリムラさんたちが来たときの休憩部屋かな? あとで椅子とテーブル作っとくか。布に余裕ができたらベッドとか作るのもありかも」

 利用方法を思いついたビオラであったがまだ空き部屋は多い。

「他は、う~ん……」

 何か使い道はないかと考えながら飛び回り、ふと倉庫に入って物資の物色を始めた。

「また出てきた、参考書」

 嫌そうな顔で参考書を摘まみ上げるビオラ。なるべく見ないようにしていた勉強道具だがこういう時に目についてしまうものである。そして手に取った参考書のタイトルを見る。

「バカでも分かる初級魔法植物入門…… お母さん、持たせてくれた参考書のタイトルに悪意を感じるわ」

 参考書を見つめながらビオラは顔を引きつらせる。

「……でもまぁ、前にナナちゃんに魔法植物の育て方聞かれて答えられなかったしなぁ。さすがにそれは妖精蜂としてどうかと思うし…… ちょっとは勉強するか? わたしバカじゃないし、すぐに分かるっしょ!」

 バカでも分かるということで気も楽になったビオラは空き部屋の一室を勉強部屋にしようと勉強机と椅子、本棚も作成した。固まるまで時間があるため花畑の様子を見ようと外に出る。

「おぉ! 薬草がいい感じ。 さっそく摘んで乾燥させよう!」

 花畑の一画、薬草が育ちきっていた。ビオラは薬草を摘み、摘んだ薬草を干そうと巣を見上げる。

 ビオラの視線の先、巣の一番下には洗濯したパジャマやタオル、パンツがぶら下がっていた。彼女は物干し台などは作らず、洗濯ものはそのまま巣の下にぶら下げていたのだった。

「あそこでいいか」

 薬草を抱えたビオラはブーンっと飛び上がり洗濯ものに並べて薬草を干した。

「そろそろ勉強机も固まったかな?」

 そう言いながら勉強部屋に飛んでいくと机も椅子もちゃんと固まっていた。早速と、ビオラは椅子に座って机に向かい参考書を広げる。

「ふむふむ、なるほど……」

 ブツブツと呟きながら参考書を流して眺めること五分。パァンっと勢いよく本を閉じて「終了っ!」と叫んでビオラは立ち上がる。

「あかんっ! 長時間は気が狂う! 漫画なら一日中読んでても平気なのに!」

 参考書を勉強机の上に放り投げ、勉強部屋を飛び出たビオラは「気晴らしを! そうだ、卵の様子」と自室に飛び込んでベビーベッドの上の卵を愛でる。

「あぁ、なんて可愛い。 もうすぐ産まれるかな? お母さん、早くあなたに会いたいわぁ」

 うっとりと卵を見つめるビオラ。そしてその喜びの瞬間は数日後に訪れた。



 ピシッ、ピシッと卵の殻にひびが入る。

「頑張れ! 頑張れ!」

 ビオラはグッと全身に力を入れて応援する。大きくビシッと亀裂が入って殻がパカッと割れると同時に「おぎゃあっ!!」と元気な泣き声が上がった。

「おぉ! 産まれた、やったぁ!」

 喜色一杯でビオラは産まれたばかりの娘に手を伸ばす。恐る恐るといった様子で我が子を抱き上げるとニコッと微笑んで「はじめまして、お母さんだよ」と挨拶をした。

「あなたの名前は決めてたのよ。 イクシア。よろしくね、イクシア」

 泣き続けるイクシアと名付けた我が子を嬉しそうにビオラはあやす。

「なんだかこの子は優しくて賢そうな子に育ちそうね」

 妖精蜂の女王は次代の女王を選ぶ必要から、産まれた子供を抱いた時に何となくだが子供の将来性を把握することが出来るのだった。

「お腹が減ったのかなぁ~? 待っててね、今おいしい花粉団子を――」

 産まれたばかりの働き蜂は蜂蜜を自力で飲み込めない。通常の妖精蜂の主食でもある花粉団子を小さくちぎって口に含ませ、ゆっくりと染み出る栄養を摂取させるのである。しかしビオラは言葉の途中で気が付いた。

「しまったっ!! わたし花粉団子、全部食べちゃったじゃない!」

 そう、ビオラは砂漠へ追放されて数日で持たされていた花粉団子を全て食べてしまっていた。以来、彼女は蜂蜜だけの生活を送っていたのだった。

 花粉団子を作るには蜂蜜と花粉が必要である。花粉はコンポストの肥料作りに多くを使っていた。というのは言い訳で、単に料理するのが面倒くさかったのだ。実際、花粉の備蓄は十分にある。

「優先度が低かったとはいえ面倒くさがって料理してなかったのが仇になった! 早く団子用意してあげないと! イクシアがお腹を空かせてる!」

 さらりと面倒くさがっていたことを自白したビオラは、アワアワしながらベッド周りを飛び回ったあと、泣き続けるイクシアをベッドに戻し「ごめんねぇ~、すぐにまんま持ってくるからねぇ~」と優しく言うと部屋を出て倉庫に飛び込む。

 食糧庫ともいえる蜂蜜用の倉庫から蜂蜜を、その他の物資をしまってある倉庫から花粉を抱えて来たビオラは、プリムラたち客人用に作った部屋のテーブルの上にそれらを置いた。

「ここ以外にテーブルないし仕方ない。 客間にしようと思ったけど、今日からここは調理室よ」

 そう言いながらビオラは花粉に蜂蜜を混ぜて捏ねる。とりあえずイクシアに必要な少量を作ると慌てて部屋を飛び出てイクシアのもとへ戻った。

「ごめんね、お待たせ!」

 ギャン泣きしていたイクシアだったがビオラが彼女の口に花粉団子の欠片を含ませてやるとピタッと泣き止み口元をもにょもにょと動かし、やがて嬉しそうに笑った。

「はぁ…… よかったぁ」

 ホッとして全身から力が抜けたビオラは、しかし娘の笑顔に癒され幸せを感じるのだった。
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