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第四十六話_マーゴロック、本気で永住を決意する
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手の上にナナを乗せながらマーゴロックは奥へと進む。
外の雑然と土砂が積まれた光景とは違い、続く通路はキッチリと平坦に舗装されており、足元は青く光る苔で照らされている。
通路の広さも申し分ない。ドワーフどころか人間の大人でも余裕で通れるくらいの高さと広さである。
突き当りの螺旋階段を下り、目の前に広がった光景を見たマーゴロックは「すげぇ……」とただ一言だけ言って言葉を失った。
「どうだ、すごいだろう!」
手のひらの上のナナは得意げに説明する。
「都市まで続くこの道はアッピア街道というのだ」
マーゴロックは言葉もなくナナの説明を聞きながら街道を歩き、続いて都市内に入ってからも説明を受ける。その間、彼はナナによって造られた都市を観察した。
ナナが丘と言っている岩山には大小様々な家がへばりつくように並んでいる。無人のそれらは、まるで住んでくれる主人がやって来るのを待っているかのよう。
フォロ・ナナーノをはじめとして、ナナが心血を注いで造ったであろう公共施設ともいえる建物などからは、彼女の想いが伝わってくるようだった。そしてその想いは、彼がカピトリウムの丘に登って都市全体を眺めたときに確信に変わる。シンと静まり返った巨大な都市が眼下に広がっている。
マーゴロックは鍛冶師である。ナナとは方向性は違うが、物を造るという点に於いては同じである。マーゴロックはナナの造った作品を眺め見て、作品の声を耳にする。
誰か、ここに住んで。
ナナの悲痛な叫び声を聞いたような気がしたマーゴロックはつい。
「……寂しかったのか?」
不意を突かれた思わぬ問いに、手のひらの上のナナは大きく目を見開き言葉を失う。次いで瞳にジワッと涙を溜めるとスッと一筋零した。
『すごいっ! 広い! ここっ! ここ、わたしのお家にする! ここはぜーんぶ、わたしのお家!』
実家の巣を追い出され砂漠に放置されたあと、水を求めて地下を掘り進み巨大な空間に出たときのことをナナは思い出した。
『これだけ広いと、わたしだけじゃなくて沢山で住めるよね?』
大きな独り言を言いながらナナはスキップしながら空洞を見て回る。
『誰か来ないかなぁ~。気に入ってくれたら一緒に住んでくれないかな? そうだ! お友達が遊びに来たときのために遊ぶ場所作らなきゃ! 泊っていける場所も! 住む場所も!』
・
・
・
『誰も来ないなぁ…… 綺麗に作ったつもりなのに…… 何がいけないんだろ? どんな場所ならお友達来てくれるのかな? 地獄蟻じゃなくてもいいんだけどなぁ…… どんな人が来ても住めるように作ったつもりなんだけどなぁ……』
・
・
・
『お腹減ったぁ…… もうダメかなぁ…… 死んじゃうのかなぁ、わたし…… お友達、誰も来なかったなぁ……』
・
・
・
『やったぁっ!! お友達できちゃった! お肉も貰っちゃったよ。 へへっ、ナナちゃんだってぇ~。わたし、ナナちゃんっ!!』
嬉しさで地面をゴロゴロと転がるナナ。やがて止まって天井を見上げて呟く。
『ビオラちゃんかぁ~。一緒に住んでくれないかな? ……でも無理だよね、ビオラちゃん妖精蜂だし。お花があるところじゃないと。 女王蜂だから自分の巣を作らないといけないし』
一呼吸おいてナナはポツリと呟く。
『…………もうそろそろ遊びに行っていいかな? 罠の見回りって言えば、ビオラちゃんの巣に行くのも変じゃないよね?』
まだ戻ってきたばかりだというのに、ナナは理由をつけてソワソワしながらビオラの巣に向かって行った。
ビオラに会う前の寂しく辛かった思い出、そして出会って友達となった嬉しい記憶が一気に蘇ったナナはボトボトと涙を零し、「ひっく…… ひっく……」としゃくりあげながら言葉に詰まる。
マーゴロックは地面の上にそっとナナを降ろすと、彼女の前に片膝を着いて「すまねぇ」と謝りながら指先でナナの頬の涙を拭う。
「辛いことを思い出させちまったか…… すまねぇな。 だが、あんたの、いや、陛下の思いやりのようなものも感じたんだ。 改めて頼む。陛下の町に俺達を住まわせてくれないか?」
そう言うと片膝を着いたままのマーゴロックはナナに対して頭を下げる。その後ろでサヤは両膝を着いて同じように頭を下げた。
ナナは二人の様子に驚いて目元をグシグシと腕で拭って「……ど、どういうことだ?」と涙声で問いかける。
「俺は、正直なところ不純な動機でこの国にやって来た。地獄蟻の技術を盗んでやろうってな。鍛冶師としての、自分の夢と名誉と欲のために。 だが陛下の作品に、心に触れて、俺ぁ思いっきりぶん殴られた気がしたんだ」
「な、殴ってないぞぉ」
未だ涙声での反論にマーゴロックはフッと笑いながら「気がしただけだ」と答えて話を続ける。
「陛下の作品からは誰かの為にって気持ちが伝わってくる。ここに住む人のためを想っての温けぇ気持ちが。 そうだ。作品ってのは自分の為に作るんじゃねぇ、使う奴の為に作るもんだ。そんな基本的なことを、俺は随分昔に忘れちまってたらしい。 名誉なんて後から付いて来るもんだったんだ」
「な、なに言ってんだ? お前」
「ははっ、すまねぇな。陛下には関係ないことだった。 失礼な話だが正直、住む場所なんてどこでもいいと思ってた。地獄蟻の技術を盗めるならな。 だが今は、心からここに住みたいと思う。頼む、俺達をここに住まわせてくれ」
再びグシグシと目元を拭ったナナは「いいぞ」と答えて丘の一つを指さす。
「マーゴロックとサヤにはチェリオの丘の邸宅をやろう! あれなんか丁度よくない?」
「感謝する、陛下。 この国の為に槌を振るえば、いずれ俺の夢も叶うような気がするよ」
「む~…… さっきから何言ってるんだ? あっ! そういえば盗むとか言ってたな。盗みは重罪だぞ。盗むもんなんて何も無いがな!」
両手を腰に当てて自信満々に何も無いと言うナナを見てマーゴロックは声を上げて笑い、言う。
「盗むってのは例えだ。職人の間では見て学ぶことを言うんだよ、陛下」
「む。 そうなのか?」
「あぁ、そうだ。 ちなみにだが、重罪ってどんな罰を受けるんだ?」
軽い気持ちで聞いてみたマーゴロックだったが、返ってきたナナの答えに絶句する。
「うむ。今考えているのはだな――」
マーゴロックを見上げたナナはニコリと笑いながら答える。
「動けないように縛ったあとに、端っこからちょっとずつ齧っていこうと思うぞ!」
邪気の無いナナの爽やかな笑顔を見ながらマーゴロックは顔を引きつらせ「ははっ、おっかねぇ……」と精一杯の呟きを漏らしながら苦笑いをし、罪だけは犯さないように気を付けようと心するのだった。
外の雑然と土砂が積まれた光景とは違い、続く通路はキッチリと平坦に舗装されており、足元は青く光る苔で照らされている。
通路の広さも申し分ない。ドワーフどころか人間の大人でも余裕で通れるくらいの高さと広さである。
突き当りの螺旋階段を下り、目の前に広がった光景を見たマーゴロックは「すげぇ……」とただ一言だけ言って言葉を失った。
「どうだ、すごいだろう!」
手のひらの上のナナは得意げに説明する。
「都市まで続くこの道はアッピア街道というのだ」
マーゴロックは言葉もなくナナの説明を聞きながら街道を歩き、続いて都市内に入ってからも説明を受ける。その間、彼はナナによって造られた都市を観察した。
ナナが丘と言っている岩山には大小様々な家がへばりつくように並んでいる。無人のそれらは、まるで住んでくれる主人がやって来るのを待っているかのよう。
フォロ・ナナーノをはじめとして、ナナが心血を注いで造ったであろう公共施設ともいえる建物などからは、彼女の想いが伝わってくるようだった。そしてその想いは、彼がカピトリウムの丘に登って都市全体を眺めたときに確信に変わる。シンと静まり返った巨大な都市が眼下に広がっている。
マーゴロックは鍛冶師である。ナナとは方向性は違うが、物を造るという点に於いては同じである。マーゴロックはナナの造った作品を眺め見て、作品の声を耳にする。
誰か、ここに住んで。
ナナの悲痛な叫び声を聞いたような気がしたマーゴロックはつい。
「……寂しかったのか?」
不意を突かれた思わぬ問いに、手のひらの上のナナは大きく目を見開き言葉を失う。次いで瞳にジワッと涙を溜めるとスッと一筋零した。
『すごいっ! 広い! ここっ! ここ、わたしのお家にする! ここはぜーんぶ、わたしのお家!』
実家の巣を追い出され砂漠に放置されたあと、水を求めて地下を掘り進み巨大な空間に出たときのことをナナは思い出した。
『これだけ広いと、わたしだけじゃなくて沢山で住めるよね?』
大きな独り言を言いながらナナはスキップしながら空洞を見て回る。
『誰か来ないかなぁ~。気に入ってくれたら一緒に住んでくれないかな? そうだ! お友達が遊びに来たときのために遊ぶ場所作らなきゃ! 泊っていける場所も! 住む場所も!』
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『誰も来ないなぁ…… 綺麗に作ったつもりなのに…… 何がいけないんだろ? どんな場所ならお友達来てくれるのかな? 地獄蟻じゃなくてもいいんだけどなぁ…… どんな人が来ても住めるように作ったつもりなんだけどなぁ……』
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『お腹減ったぁ…… もうダメかなぁ…… 死んじゃうのかなぁ、わたし…… お友達、誰も来なかったなぁ……』
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『やったぁっ!! お友達できちゃった! お肉も貰っちゃったよ。 へへっ、ナナちゃんだってぇ~。わたし、ナナちゃんっ!!』
嬉しさで地面をゴロゴロと転がるナナ。やがて止まって天井を見上げて呟く。
『ビオラちゃんかぁ~。一緒に住んでくれないかな? ……でも無理だよね、ビオラちゃん妖精蜂だし。お花があるところじゃないと。 女王蜂だから自分の巣を作らないといけないし』
一呼吸おいてナナはポツリと呟く。
『…………もうそろそろ遊びに行っていいかな? 罠の見回りって言えば、ビオラちゃんの巣に行くのも変じゃないよね?』
まだ戻ってきたばかりだというのに、ナナは理由をつけてソワソワしながらビオラの巣に向かって行った。
ビオラに会う前の寂しく辛かった思い出、そして出会って友達となった嬉しい記憶が一気に蘇ったナナはボトボトと涙を零し、「ひっく…… ひっく……」としゃくりあげながら言葉に詰まる。
マーゴロックは地面の上にそっとナナを降ろすと、彼女の前に片膝を着いて「すまねぇ」と謝りながら指先でナナの頬の涙を拭う。
「辛いことを思い出させちまったか…… すまねぇな。 だが、あんたの、いや、陛下の思いやりのようなものも感じたんだ。 改めて頼む。陛下の町に俺達を住まわせてくれないか?」
そう言うと片膝を着いたままのマーゴロックはナナに対して頭を下げる。その後ろでサヤは両膝を着いて同じように頭を下げた。
ナナは二人の様子に驚いて目元をグシグシと腕で拭って「……ど、どういうことだ?」と涙声で問いかける。
「俺は、正直なところ不純な動機でこの国にやって来た。地獄蟻の技術を盗んでやろうってな。鍛冶師としての、自分の夢と名誉と欲のために。 だが陛下の作品に、心に触れて、俺ぁ思いっきりぶん殴られた気がしたんだ」
「な、殴ってないぞぉ」
未だ涙声での反論にマーゴロックはフッと笑いながら「気がしただけだ」と答えて話を続ける。
「陛下の作品からは誰かの為にって気持ちが伝わってくる。ここに住む人のためを想っての温けぇ気持ちが。 そうだ。作品ってのは自分の為に作るんじゃねぇ、使う奴の為に作るもんだ。そんな基本的なことを、俺は随分昔に忘れちまってたらしい。 名誉なんて後から付いて来るもんだったんだ」
「な、なに言ってんだ? お前」
「ははっ、すまねぇな。陛下には関係ないことだった。 失礼な話だが正直、住む場所なんてどこでもいいと思ってた。地獄蟻の技術を盗めるならな。 だが今は、心からここに住みたいと思う。頼む、俺達をここに住まわせてくれ」
再びグシグシと目元を拭ったナナは「いいぞ」と答えて丘の一つを指さす。
「マーゴロックとサヤにはチェリオの丘の邸宅をやろう! あれなんか丁度よくない?」
「感謝する、陛下。 この国の為に槌を振るえば、いずれ俺の夢も叶うような気がするよ」
「む~…… さっきから何言ってるんだ? あっ! そういえば盗むとか言ってたな。盗みは重罪だぞ。盗むもんなんて何も無いがな!」
両手を腰に当てて自信満々に何も無いと言うナナを見てマーゴロックは声を上げて笑い、言う。
「盗むってのは例えだ。職人の間では見て学ぶことを言うんだよ、陛下」
「む。 そうなのか?」
「あぁ、そうだ。 ちなみにだが、重罪ってどんな罰を受けるんだ?」
軽い気持ちで聞いてみたマーゴロックだったが、返ってきたナナの答えに絶句する。
「うむ。今考えているのはだな――」
マーゴロックを見上げたナナはニコリと笑いながら答える。
「動けないように縛ったあとに、端っこからちょっとずつ齧っていこうと思うぞ!」
邪気の無いナナの爽やかな笑顔を見ながらマーゴロックは顔を引きつらせ「ははっ、おっかねぇ……」と精一杯の呟きを漏らしながら苦笑いをし、罪だけは犯さないように気を付けようと心するのだった。
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