女王蜂の建国記 ~追放された妖精、作業服を着て砂漠を緑地化する~

はとポッポ豆太

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第四十八話_オアシ巣、襲撃される

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「こっちじゃなかったみてぇだな」

「だな、兄貴」

 砂漠を歩きながらのルキウスの呟きに弟のコーネリアスも頷いて同意する。近くにいたマロニが不思議そうな顔で「どうしたんです?」と二人に問いかけた。

「随分前からずっと付けられててな。 商隊を襲う賊の斥候か、それとも単に嬢ちゃんの商売敵の手先か…… 目的が分からんから泳がせてたんだが、どうやら賊ではなさそうだな。この商隊が襲われることはないだろう」

「えっ?! ちょっと、教えてくださいよ!」

「素人が下手に警戒したら勘づかれるだろ? 安心しろ、こっちもプロだ。何かあっても対処できるよう考えてるさ」

「えぇ。お二人には何度か助けて頂いてますから信用はしてますよ。 で、どうなんです、敵さんは?」

 ずんぐりとした可愛い見た目のマロニだが肝っ玉は座っているよう。落ち着いた様子で二人の傭兵に状況を問う。

「ビオランド王国を出たところでパッタリと気配が消えた。ってことは、嬢ちゃんの商売敵のほうだろうよ。 元々、賊じゃねぇだろうと踏んではいた。賊なら二人以上で動くはずだ。見張りと連絡役が必要だからな。だが今回は一人だ」

「ってことは」

「嬢ちゃんの新たな販路を探って潰すか、それとも乗っかるつもりなのか」

「どっちだと思います?」

 コテリと首を傾げて聞くマロニに、ルキウスは小さくフンッと鼻で笑いながら「どうだろうな?」と答える。

「俺の感覚じゃ、お行儀の良い奴には感じられねぇが――」

 そういってルキウスは可愛らしいリス顔をニッと歪めて笑った。



 ビオランド王国を去っていく商隊を遠望していたのはウサギ族の獣人であった。ウサギ族の男はニヤケてしまう表情を抑えきれずに言う。

「おいおい、お手柄じゃねぇか。こんな砂漠のど真ん中に無防備に妖精蜂が巣なんか作ってやがる!」

 生唾を飲み込んだ男は迷う。このままボスと依頼主に報告すべきか、それとも抜け駆けすべきか。男は呟く。

「うまいこと女王蜂さえ捕まえれば…… 一攫千金」

 妖精蜂は貴族に観賞用として高値で売れる。純粋に美しいものを鑑賞しようとする者から、変態紳士まで幅広く需要がある。何といっても深い森の中に住み、警戒心の強い妖精蜂は捕獲することが難しい。働き蜂を捕まえようとしても巣を守るために死ぬまで戦う傾向がある。それなのに今、男の目の前には何の防備もされていない巣があるのだ。

「女王蜂を飼い慣らして子を産ませて売れば……」

 無限に稼げる。その誘惑に抗しきれなかった男はゆっくりと気配を消して巣に近づいて行く。気が付かれないように時間をかけて遠回りし、岩場に辿り着いた男はそっと顔を出して様子を伺う。

 男の視線の先では、イクシアとペリウィンクルがマロニたちの帰った後始末をしていた。マロニたちが消火していった焚火の跡だったが、それでも火事の教訓から更に念入りに砂を掛け、燃えカスなどを片づけている。

「働き蜂だが、まずは――」

 そう言うと男は懐から布袋を取り出し、狙いをイクシアに定める。明らかに飛び方がぎこちなく、速度も遅いことに男は気が付いていたのだった。

 機を見て男は岩場から飛び出す。そのままの勢いでイクシアに背後から迫ると彼女の頭上から開いた袋の口を振り下ろす。「きゃっ!」と言う小さな悲鳴をあげたイクシアは袋の中に閉じ込められてしまった。

 ペリウィンクルは姉の悲鳴を聞いて振り返る。そこにはニヤケたウサギ族の男、その手にはバタバタと中でイクシアの暴れる袋が握られている。恐怖で固まって声も出ないペリウィンクルの目の前で、男は「うるせぇなっ!」と言って指先で暴れる袋を弾いた。中から籠った声で悲鳴が聞こえると袋はグッタリとして動かなくなってしまった。

 ペリウィンクルは「ひぃっ!」と小さく悲鳴をあげる。

「まずは一匹。 傷ものっぽいが、それでも金貨数枚にはなるだろう」

 舌なめずりして言い終えた男は嫌らしい顔をペリウィンクルに向けて言う。

「お前は数十枚はいきそうだな」

 男と目が合った瞬間、ペリウィンクルは全力で逃げ出した。「おかーさーんっ! おかーさーんっ! おねーちゃんがーっ!!」と泣き叫びながら巣のほうへと飛んでいく。

「待ちやがれ!」

 男がペリウィンクルを追いかけようと足を踏み出したとき、男の視界の外から「「イクシアちゃんを返せーっ!!」」と三人の地獄蟻が飛び出してきた。
 近くで遊んでいたゼフィたちはイクシアとペリウィンクルの悲鳴を聞いて猛ダッシュで駆けつけて来たのだった。彼女たちは一斉に男の足元に噛みついた。

「なっ?! じ、地獄蟻??!」

 地獄蟻の姿を見た瞬間、男は恐怖で動きを止めてしまった。しかし、地獄蟻はたったの三匹だと分かると男は腰の剣を抜き、足元にブンブンと振って地獄蟻を振り払おうとする。
 地獄蟻の恐ろしさは集団で襲ってくることだと知っている男は三匹程度なら何とか対抗できると考えたのだった。

「くそっ! あっち行け! 邪魔だ、コラ!! 何で地獄蟻が妖精蜂と一緒に居るんだ?!」

 男は自分の足元に向かって剣を振り回す。しかし小さくチョロチョロとすばしっこいゼフィたちには当たらない。そうしているうちにも何度も噛みつかれた足からの出血が増えていく。

「くそっ! やっぱ三匹でも地獄蟻か! 仕方ねぇ、妖精蜂一匹で我慢す――」

 男が諦めて踵を返そうとしたときだった。「待てコラーーッ!!!」という怒鳴り声とともに男は頬にチクリと小さな痛みを感じた。小さな矢が頬に突き立っている。
 声のするほうを振り向くと、男の前には全身に怒りを漲らせているビオラの姿があった。

「うちの子を返しなさい! この泥棒ウサギ!」

 ビオラは男に向かって弓を構えた。
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