女王蜂の建国記 ~追放された妖精、作業服を着て砂漠を緑地化する~

はとポッポ豆太

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第四十九話_外敵、撃退される

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 男は頬に刺さった矢を摘まんで引き抜く。しかし矢じりである針は返しが付いており、そのうえ針は簡単に外れるようになっているため頬の肉の中に残り、矢柄だけが指先にある。ウサギ族の男はそれを見てポイっと矢柄を捨てながら言う。

「うちの子? ってことは、あれが女王蜂か」

 働き蜂一匹のために女王自ら武器を持って出て来るとは信じられなかったが、他の妖精蜂よりも体格が大きいことから男は目の前で武器を構える妖精蜂が女王だと確信した。すると再び、男の心の中で欲望の天秤が傾き始める。

 女王蜂が逃げもせず目の前にいるのは千載一遇の好機だ。しかし現状では捕らえることが難しいことも分かる。片手が塞がった状態で地獄蟻三匹と飛び回る妖精蜂を相手は分が悪い。しかも女王蜂は生け捕りにしなくてはならないのだ。

 男は欲望に傾いた天秤を意志の力で無理やり戻すと、断腸の思いでこの場を離れることを決意する。抜け駆けとしては袋の中の妖精蜂一匹で十分として、捕獲用の装備と仲間を募って戻って来ようと判断した。

 男はオアシ巣に背を向けて走り出そうとする。その背や首筋にビオラの放った矢がチクチクッと小さな痛みで突き刺さる。足元ではゼフィたちが何度も何度も歯を立てて噛みついて、足はいつの間にか血だらけになっていた。

 走り出そうとした男の視線の先に突然大きな砂煙が映る。

 驚いて目を凝らした男は「マズい……」と呟く。砂煙の先頭には地獄蟻が見える。「ビオラちゃーーんっ!!」と叫びながら突進してくる地獄蟻の後ろには、砂煙に隠れて見えないが地獄蟻の大軍が居るものとウサギ族の男は錯覚した。地獄蟻が全部で四匹程度などとは常識的に考えて男には思い及ばなかったのだ。

 慌てて男は足に力を入れる。しかし思い通りに足が動かない。思わず片膝を着いた男は噛みついていた三匹の地獄蟻による出血と痛みでバランスを崩したのかと思った。実際、それもあったろうが、ビオラの矢に塗られていた毒が回り始めた影響であった。

「お前らぁ、整列!」

 ナナの号令を受けて、男の足をガジガジ噛んでいたゼフィたちは離れてナナの前に整列する。

「ケツ向け~、ケツ!」

 ナナも含めてゼフィたちは一斉に男に向かって尻を向ける。「発射ぁーっ!!」というナナの号令とともに、お尻の上部から生えている蟻の腹部の先端から液体を飛ばした。

 ぴゅぴゅっと飛んできた液体を顔を背けて男は避けようとする。しかし避けきることが出来ずに受けた肌がジュッと音を立て、液体の一滴が左目に入ると男は悲鳴を上げる。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 地獄蟻が分泌する強酸性の液体の噴射であった。

 左手に持っていた袋を落として目を抑えた男は激痛に絶えられず地面を転げまわる。落とした袋から気を失ったイクシアが転がり出ると、ゼフィたちは「「イクシアちゃん!」」と叫んで駆け寄った。

「くそがぁっ! 蟻どもめぇっ!!」

 左目を抑え、ふらつきながら立ち上がったウサギ族の男はもう撤退することを考えていなかった。目の前の地獄蟻を始末しないと気が済まないと、怒りに我を忘れて剣を持つ右手に力を入れる。そこへ、ナナが立てた砂煙から一つの影が飛び出した。

 男の脇腹に激痛が走る。飛び出てきたのはナイフを手にしたドワーフのマーゴロックである。震える手でウサギ族の男の脇腹にナイフを突き立てたマーゴロックは青ざめた顔で「ははっ、まさかこんなすぐに国民の義務ってのを果たす羽目になるとはな」と口にする。だが、手や口が震えていることから戦闘に慣れていないことは明らかであった。

 ギロリッと右目で睨まれたマーゴロックは気圧されて脇腹に刺さったナイフから手を離し、男に突き飛ばされて尻もちを着く。引きつった顔で見上げるマーゴロックの視線の先で、男は剣を高く振りあげ「ドワーフっ!!」と怒声をあげた。

 その間にも男の背中にビオラの矢が突き立つが、男はもうその程度のことを気にも留めていない。ただ、毒の効果でかすみ始めた視界に映る、目の前の敵に怒りをぶつけるのみと剣を振り下ろそうとする。

 バァンッと轟音が砂漠の大気を震わせた。瞬間、男の右手が握っていた剣とともに血と肉片を周囲に飛び散らせながら吹き飛ぶ。次いで、男の胸から剣先が生えるように突き出した。
 マーゴロックは目の前で起こった状況についていけずに口をあんぐりと開けたまま見守る。

 口から血の泡を吹きながら棒立ちになっている男の背後から、リス族の戦士ルキウスが姿を現す。ウサギ族の男はルキウスが突き刺した剣に支えられ、辛うじて立っているかのようである。

「よぉ、旦那。 すまねぇな、見せ場を取っちまったようだ。 で、とどめはどうする? アンタがやるかい?」

 ルキウスからの問いにマーゴロックは顔を引きつらせながら「ははっ、冗談よせ、人を刺したのも初めてなんでな」と強がった笑いをまじえて答えた。

「そうかい? なら、俺がやっちまうぜ」

 ニッと笑ったルキウスは素早く男に刺さった剣を抜くと、マーゴロックの目には確認できない程の速度で剣を横なぎに振るう。男の首が音もなく宙を舞った。ブンッと血ぶりをしたルキウスの足元にポトンとウサギ族の男の首が落ちる。ルキウスは剣を鞘に納めると長い耳を掴んで落ちた首を持ち上げた。

「いい斬れ味だ、旦那。 また頼むぜ」

 首を視線の高さまで持ち上げ、円らな片目で満足そうに、ぼたぼたと血が落ちる首の斬り口を眺めたルキウスはマーゴロックに背を向けると首を手にしたまま歩き出す。

 腰の抜けていたマーゴロックは「お、おぅ……」とルキウスの背に返すのが精一杯であった。
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