義兄の邪魔にならないよう、結婚して家を出ようとしただけなのに。

鷲井戸リミカ

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 それからジャレッドは、鬼気迫る勢いで学問と剣術に励んだ。抱いた恋心は自覚した瞬間に封印した。貴族は何よりも血筋を大事にする。いくら多少魔術の才能があったからとて、どこの馬の骨とも知れぬ平民の自分が義兄と結婚などできるはずもなかった。

 そもそも、ヴィンセントの周りには美しい男たちがあふれていた。王太子に、宰相の息子、騎士団長の息子、隣国の王子までもが、義兄の側から離れようとしない。ここまでファンタジー世界の王道を行くと、もしかしたら奴隷や暗殺者の心まで奪っているかもしれない。

 そんなひとたらしな義兄は、信じられないほどジャレッドに甘かった。歳が離れていたこともあるが、侍従が行うような世話さえ積極的にしてくれる。引き取られてしばらくの間は、慣れない場所で緊張しているだろうと、一緒のベッドで寝かせてさえくれたのだ。まあその習慣は、うっかり朝勃ちを義兄に見られてしまった時に無理矢理ジャレッドの方から終わらせたのだけれど。そして義兄に叱られたのは、この家に来てから一度きり。ジャレッドがひどい怪我を負ったときだけだった。

『ジャレッド。わたしは、お前が乱暴者ではないことを知っている。何か理由があったのだろう?』
『……言いたくありません』
『お前は自分に関する噂など歯牙にもかけない。おおかたわたしについて、何か言われたか?』
『俺、義兄上のことをあんな奴らに好き勝手に言われるのが許せなくて!』
『言いたいものには、言わせておけばいい』

 大切な義兄を馬鹿にされて許せなかったジャレッドは、学園で言いがかりをつけてきた貴族の令息たちに決闘を申し込み、たったひとりで数人を叩きのめしてみせたのだった。ちなみにジャレッドと決闘を行った子息の家は、いつの間にか傾き表舞台から姿を消すことになっている。ジャレッドが義兄を敬愛していること、そしてヴィンセントが義弟を大切にしていることが明らかになり、それ以降、ジャレッドに絡んでくるような愚か者が現れることはなくなった。
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