記憶を失くしたはずの元夫が、どうか自分と結婚してくれと求婚してくるのですが。

鷲井戸リミカ

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 この世界には、男と女、そして孕み腹と呼ばれる男がいる。孕み腹というのは男の身体を持ちながら、子どもを産み育てることができる奇跡のような存在だ。けれど、彼らの立場はあまり高いものとは言えない。それは彼らのことを「孕み腹」と呼ぶことからも簡単に推測できる。

 孕み腹は金のかかる生き物だ。日頃から胎内の器に魔力を満たしておかなければ体調は安定せず、たとえ子種を注いだところで芽吹きはしない。それでもわざわざ孕み腹に子どもを産ませるのは、もしも実を結んだならば通常では考えられないほどの魔力と魔術の適性を持った子どもが生まれてくるからだ。

 血と才を尊ぶ貴族社会に生まれたにもかかわらず、メルヴィンは幸せな孕み腹だった。より良い子どもを産む道具として家門の男たちに共有されることもなく、昔から恋い慕っていた婚約者レスターと結婚を果たしている。悩みごとと言えば、なかなか子どもができないことだろうか。けれどレスターも彼の両親も、焦る必要はないと常々口にしていた。

 何せレスターの母自体が不妊で大層悩んでいたのだ。ようやく授かったレスターを大切にしていた彼の両親は、嫁に来たメルヴィンのことを実の子どものように可愛がることはあっても、授かり物の話で責めることなどなかった。子どもが生まれたならそれはとても嬉しいことだが、本人たちが幸せならそれが一番。そんな貴族らしからぬ柔らかな日々があったのである。

 しかし、ある日突然に神託が下りた。なんと世界の果てに魔王が現れたのだという。魔王がなぜ出現するのかはわかっていないが、定期的に現れる魔王を討伐しなければ世界は瘴気に侵され滅びの道を辿ると言われている。そんな魔王を打倒すことができるのは勇者のみ。そして、王都の騎士団に所属するレスターは神託により勇者に選ばれてしまったのだった。

「レスターさま、ご武運を」
「必ず戻ってくるから。どうか、わたしを信じて待っていてくれ」

 勇者の旅は少数精鋭だ。各地で、領主の抱える兵たちと力を合わせることはあるらしいが、基本的には勇者に聖女、魔術師に戦士というメンバーで旅を続けることになるという。そんな中メルヴィンは、同行する者たちがいずれも見目麗しい女性たちばかりであることが少しだけ気になった。とはいえ、神殿と王族の肝いりで用意された勇者一行にケチをつけるわけにもいかない。

 戻ってきたら、今度こそ必ずふたりの愛の結晶を育もう。交わした指切りは、ひどく頼りない。不安を押し殺して笑顔で見送るメルヴィンを抱きしめ、レスターは旅立っていった。
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