4 / 11
(4)
隣国の小さな町で暮らし始めたメルヴィンは、なんとか近所の人の力を借りて生活していた。幸運だったのは連れ去られた後に、持ち物を取り上げられたり暴行を受けたりしていなかったことだろう。おかげで身に着けていた宝飾品を小分けに売ることで、なんとか足代を用意することができたのだから。
光を帯びるメルヴィンの腹の中には、やはり赤子がいるわけではないらしい。つわりもなく、腹が膨らむこともないが、存在を忘れることは許さないとでもいいたいのか時々淡く光るのである。ついでとばかりに、髪と瞳の色も青く染まってしまっていた。
さらに不思議なことに、メルヴィンは例の青い魔石を身体の中に取り込んでから、レスターの魔王討伐の旅をなぞることができるようになっている。毎夜、まるで演劇でも見ているかのように、旅の風景が流れていくのだ。
旅の最初の段階からずっとハニートラップを仕掛けてくる女性陣の姿には呆れるばかりだ。しかし、レスターはさらりと彼女たちをかわしているように見えた。一体どうして聖女と結婚するという結論に至ったのかがわからない。どこかのタイミングで、彼女たちの誘いに乗る瞬間を見ることになるのだろうか。少しばかり胸を痛めつつ、メルヴィンは穏やかに日々を営んでいた。
とはいえ夫のいない孕み腹の立場はとても弱い。それは隣国でも同じこと。だからこそメルヴィンは自分が孕み腹である事実をひた隠しにしていたが、面倒な人物に嗅ぎつけられていた。メルヴィンが移住先に選んだ町の町長の息子である。自衛のために、独り身ではなく訳あって夫と離れて暮らしていると説明しているのだが果たして理解しているのかどうにも怪しいところがある。警邏に訴え出ようにも、騒ぎが大きくなるのが恐ろしい。どこから母国の王家に話が伝わるかわからないのだ。
「いやっ、離してください。誰か!」
「おい、そこで何をしている!」
手をこまねいていたある日、町長の息子に絡まれたメルヴィンは裏路地に引っ張り込まれそうになった。悲鳴を上げたメルヴィンを助けてくれたのは、なんと聖女と結婚しているはずのレスターだ。眼帯で右目を覆い、無骨な冒険者風の格好をしたレスターは、あっさりと男を昏倒させると労わるようにメルヴィンに声をかけてくれた。
「怪我はないだろうか」
「……あ、ありがとうございます」
「ああ、つかまれていた手首が赤くなっている。警邏を呼んできた方がよさそうだな」
「いいえ、あの、それは大丈夫です!」
どんな顔をしてレスターを見ればよいかわからない。必死に首を横に振りながら、メルヴィンは小さな声で礼を言う。うつむいて小さく震えるメルヴィンの様子に訳ありだと理解したのか、レスターが事情の説明を求めてきた。
そしてかつて結婚をしていたが離縁済みであり今は一人暮らしをしていること、夫の再婚相手から目の敵にされており身を隠していることを打ち明けることになってしまった。それは知っているひとが聞けば、一瞬でメルヴィンのことだと理解できる内容だ。何が悲しくて、自分を捨てた相手に懇切丁寧に自分の事情を話さねばならないのだろう。
だが不思議なことに、レスターは目の前にいる自分が、彼の元配偶者だという事実に気が付いていないらしかった。いくらメルヴィンの髪と瞳の色が変わったからといって、長年隣にいた人間の顔を完璧に忘れることなどできるのだろうか。それともメルヴィンのことを知らない振りをしているのであれば、元夫には演劇の才能があったに違いない。密かに首を傾げるメルヴィンに、レスターが自分を護衛代わりに雇わないかと提案してきた。
光を帯びるメルヴィンの腹の中には、やはり赤子がいるわけではないらしい。つわりもなく、腹が膨らむこともないが、存在を忘れることは許さないとでもいいたいのか時々淡く光るのである。ついでとばかりに、髪と瞳の色も青く染まってしまっていた。
さらに不思議なことに、メルヴィンは例の青い魔石を身体の中に取り込んでから、レスターの魔王討伐の旅をなぞることができるようになっている。毎夜、まるで演劇でも見ているかのように、旅の風景が流れていくのだ。
旅の最初の段階からずっとハニートラップを仕掛けてくる女性陣の姿には呆れるばかりだ。しかし、レスターはさらりと彼女たちをかわしているように見えた。一体どうして聖女と結婚するという結論に至ったのかがわからない。どこかのタイミングで、彼女たちの誘いに乗る瞬間を見ることになるのだろうか。少しばかり胸を痛めつつ、メルヴィンは穏やかに日々を営んでいた。
とはいえ夫のいない孕み腹の立場はとても弱い。それは隣国でも同じこと。だからこそメルヴィンは自分が孕み腹である事実をひた隠しにしていたが、面倒な人物に嗅ぎつけられていた。メルヴィンが移住先に選んだ町の町長の息子である。自衛のために、独り身ではなく訳あって夫と離れて暮らしていると説明しているのだが果たして理解しているのかどうにも怪しいところがある。警邏に訴え出ようにも、騒ぎが大きくなるのが恐ろしい。どこから母国の王家に話が伝わるかわからないのだ。
「いやっ、離してください。誰か!」
「おい、そこで何をしている!」
手をこまねいていたある日、町長の息子に絡まれたメルヴィンは裏路地に引っ張り込まれそうになった。悲鳴を上げたメルヴィンを助けてくれたのは、なんと聖女と結婚しているはずのレスターだ。眼帯で右目を覆い、無骨な冒険者風の格好をしたレスターは、あっさりと男を昏倒させると労わるようにメルヴィンに声をかけてくれた。
「怪我はないだろうか」
「……あ、ありがとうございます」
「ああ、つかまれていた手首が赤くなっている。警邏を呼んできた方がよさそうだな」
「いいえ、あの、それは大丈夫です!」
どんな顔をしてレスターを見ればよいかわからない。必死に首を横に振りながら、メルヴィンは小さな声で礼を言う。うつむいて小さく震えるメルヴィンの様子に訳ありだと理解したのか、レスターが事情の説明を求めてきた。
そしてかつて結婚をしていたが離縁済みであり今は一人暮らしをしていること、夫の再婚相手から目の敵にされており身を隠していることを打ち明けることになってしまった。それは知っているひとが聞けば、一瞬でメルヴィンのことだと理解できる内容だ。何が悲しくて、自分を捨てた相手に懇切丁寧に自分の事情を話さねばならないのだろう。
だが不思議なことに、レスターは目の前にいる自分が、彼の元配偶者だという事実に気が付いていないらしかった。いくらメルヴィンの髪と瞳の色が変わったからといって、長年隣にいた人間の顔を完璧に忘れることなどできるのだろうか。それともメルヴィンのことを知らない振りをしているのであれば、元夫には演劇の才能があったに違いない。密かに首を傾げるメルヴィンに、レスターが自分を護衛代わりに雇わないかと提案してきた。
あなたにおすすめの小説
失恋したと思ってたのになぜか失恋相手にプロポーズされた
胡桃めめこ
BL
俺が片思いしていた幼なじみ、セオドアが結婚するらしい。
失恋には新しい恋で解決!有休をとってハッテン場に行ったエレンは、隣に座ったランスロットに酒を飲みながら事情を全て話していた。すると、エレンの片思い相手であり、失恋相手でもあるセオドアがやってきて……?
「俺たち付き合ってたないだろ」
「……本気で言ってるのか?」
不器用すぎてアプローチしても気づかれなかった攻め×叶わない恋を諦めようと他の男抱かれようとした受け
※受けが酔っ払ってるシーンではひらがな表記や子供のような発言をします
友人の代わりに舞踏会に行っただけなのに
卯藤ローレン
BL
ねずみは白馬に、かぼちゃは馬車に変身するお話のパロディ。
王城で行われる舞踏会に招待された隣家の友人のエラは、それを即断った。困った魔法使いと、なにがなんでも行きたくない友人に言いくるめられたエミリオは、水色のドレスを着て舞踏会に参加する。壁の花になっていた彼に声をかけてきたのは、まさかの第二王子で——。
独自設定がわんさかあります。
王女が捨てた陰気で無口で野暮ったい彼は僕が貰います
卯藤ローレン
BL
「あなたとの婚約を、今日この場で破棄いたします!」――王宮の広間に突然響いた王女の決別宣言。その言葉は、舞踏会という場に全く相応しくない地味で暗い格好のセドリックへと向けられていた。それを見ていたウィリムは「じゃあ、僕が貰います!」と清々しく強奪宣言をした。誰もが一歩後ずさる陰気な雰囲気のセドリック、その婚約者になったウィリムだが徐々に誤算が生じていく。日に日に婚約者が激変していくのだ。身長は伸び、髪は整えられ、端正な顔立ちは輝き、声変わりまでしてしまった。かつての面影などなくなった婚約者に前のめりで「早く結婚したい」と迫られる日々が待っていようとは、ウィリムも誰も想像していなかった。
◇地味→美男に変化した攻め×素直で恐いもの知らずな受け。
悪役令息に転生したので婚約破棄を受け入れます
藍沢真啓/庚あき
BL
BLゲームの世界に転生してしまったキルシェ・セントリア公爵子息は、物語のクライマックスといえる断罪劇で逆転を狙うことにした。
それは長い時間をかけて、隠し攻略対象者や、婚約者だった第二王子ダグラスの兄であるアレクサンドリアを仲間にひきれることにした。
それでバッドエンドは逃れたはずだった。だが、キルシェに訪れたのは物語になかった展開で……
4/2の春庭にて頒布する「悪役令息溺愛アンソロジー」の告知のために書き下ろした悪役令息ものです。
政略結婚のはずが恋して拗れて離縁を申し出る話
藍
BL
聞いたことのない侯爵家から釣書が届いた。僕のことを求めてくれるなら政略結婚でもいいかな。そう考えた伯爵家四男のフィリベルトは『お受けします』と父へ答える。
ところがなかなか侯爵閣下とお会いすることができない。婚姻式の準備は着々と進み、数カ月後ようやく対面してみれば金髪碧眼の美丈夫。徐々に二人の距離は近づいて…いたはずなのに。『え、僕ってばやっぱり政略結婚の代用品!?』政略結婚でもいいと思っていたがいつの間にか恋してしまいやっぱり無理だから離縁しよ!とするフィリベルトの話。
遊び人殿下に嫌われている僕は、幼馴染が羨ましい。
月湖
BL
「心配だから一緒に行く!」
幼馴染の侯爵子息アディニーが遊び人と噂のある大公殿下の家に呼ばれたと知った僕はそう言ったのだが、悪い噂のある一方でとても優秀で方々に伝手を持つ彼の方の下に侍れれば将来は安泰だとも言われている大公の屋敷に初めて行くのに、招待されていない者を連れて行くのは心象が悪いとド正論で断られてしまう。
「あのね、デュオニーソスは連れて行けないの」
何度目かの呼び出しの時、アディニーは僕にそう言った。
「殿下は、今はデュオニーソスに会いたくないって」
そんな・・・昔はあんなに優しかったのに・・・。
僕、殿下に嫌われちゃったの?
実は粘着系殿下×健気系貴族子息のファンタジーBLです。