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「それならば、わたしを雇うのはどうだろうか。周囲の人間への説明はどうとでもなる。君は護衛が手に入り、わたしは住まいと食事が手に入る。両者に都合がいい契約だ」
「彼がすぐに諦めてくれるとは限りません。そうなれば、この仕事は長期に渡ります。失礼ですが、かなり腕が立つ冒険者さまですよね? そのような方を長い時間に渡って僕のために拘束することなどできません」
「長期の契約になるなら、わたしにとっては好都合だ。わたしはできるだけ長く、君の隣にいたいんだ」
まるで唐突な告白のような言葉に、メルヴィンは苦笑した。こんなまっすぐな愛の言葉など、レスターから聞いたことはない。勇者としての旅をする間に、彼は面白い語彙を身に着けていたようだ。一体誰にそんな言葉をささやいたのかは考えないようにして、メルヴィンは尋ねた。
「僕の隣にいても、楽しいことなど何もありはしませんよ」
「いいや、わたしにはわかる。君は、わたしの記憶の鍵となるひとだ」
「記憶の鍵、ですか?」
「実は、自分自身についての記憶を失っているらしい。レスターという名前以外、詳しいことはわからないし、わかっていても言えないのだけれどね」
「……ご家族のことも、ご友人のことも、何もわからないのですか?」
「旅の仲間だと主張するひとたちはいたのだけれど、その中にわたしの大事なひとはいないように思えたから撒いて逃げて来たんだ」
うまく返事ができないメルヴィンに、レスターは頭をかきながら続けた。
「これは言いたくなかったんだがな。君は孕み腹だろう? 魔力欠乏に悩んでいるはずだ。そして逆にわたしは、魔力過多で困っている。足りない場所に、余っているものを注ぎ込む。ちょうど良い話だとは思わないか?」
「……守る代わりに抱かせろと?」
「そう思われたくないから、言いたくなかったんだ。君が嫌がることは決してしない。そう誓約すれば、信じてもらえるか?」
「どうしてそこまで?」
「見つからないと思っていた探し物を見つけたんだ。相手のためにすべてを捧げるのは、男として当然だろう?」
「……もう、ご冗談ばかり」
「いいや、君こそがわたしが探していた相手だ。間違いない。君はわたしに運命を感じてくれないのか?」
すがりつきたいほど恋しいから困っているのだ。とはいえどれだけ否定したところで、レスターは聞く耳を持ってはくれない。今、あなたが大切にしようと拾い上げた自分という存在は、以前のあなたが石ころのように放り投げたものだと告げたなら、どんな顔をするだろうか。そんな意地悪な考えがちらりとよぎる。けれど、熱に浮かされたように希うレスターの瞳から目が離せなくて、いつの間にかメルヴィンはレスターの申し出にうなずいてしまっていた。
「彼がすぐに諦めてくれるとは限りません。そうなれば、この仕事は長期に渡ります。失礼ですが、かなり腕が立つ冒険者さまですよね? そのような方を長い時間に渡って僕のために拘束することなどできません」
「長期の契約になるなら、わたしにとっては好都合だ。わたしはできるだけ長く、君の隣にいたいんだ」
まるで唐突な告白のような言葉に、メルヴィンは苦笑した。こんなまっすぐな愛の言葉など、レスターから聞いたことはない。勇者としての旅をする間に、彼は面白い語彙を身に着けていたようだ。一体誰にそんな言葉をささやいたのかは考えないようにして、メルヴィンは尋ねた。
「僕の隣にいても、楽しいことなど何もありはしませんよ」
「いいや、わたしにはわかる。君は、わたしの記憶の鍵となるひとだ」
「記憶の鍵、ですか?」
「実は、自分自身についての記憶を失っているらしい。レスターという名前以外、詳しいことはわからないし、わかっていても言えないのだけれどね」
「……ご家族のことも、ご友人のことも、何もわからないのですか?」
「旅の仲間だと主張するひとたちはいたのだけれど、その中にわたしの大事なひとはいないように思えたから撒いて逃げて来たんだ」
うまく返事ができないメルヴィンに、レスターは頭をかきながら続けた。
「これは言いたくなかったんだがな。君は孕み腹だろう? 魔力欠乏に悩んでいるはずだ。そして逆にわたしは、魔力過多で困っている。足りない場所に、余っているものを注ぎ込む。ちょうど良い話だとは思わないか?」
「……守る代わりに抱かせろと?」
「そう思われたくないから、言いたくなかったんだ。君が嫌がることは決してしない。そう誓約すれば、信じてもらえるか?」
「どうしてそこまで?」
「見つからないと思っていた探し物を見つけたんだ。相手のためにすべてを捧げるのは、男として当然だろう?」
「……もう、ご冗談ばかり」
「いいや、君こそがわたしが探していた相手だ。間違いない。君はわたしに運命を感じてくれないのか?」
すがりつきたいほど恋しいから困っているのだ。とはいえどれだけ否定したところで、レスターは聞く耳を持ってはくれない。今、あなたが大切にしようと拾い上げた自分という存在は、以前のあなたが石ころのように放り投げたものだと告げたなら、どんな顔をするだろうか。そんな意地悪な考えがちらりとよぎる。けれど、熱に浮かされたように希うレスターの瞳から目が離せなくて、いつの間にかメルヴィンはレスターの申し出にうなずいてしまっていた。
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