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食事とか
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そんな感じで特に問題もなく快適に、毎日王子と勉強したり遊んだり色々している。
割と充実した時間を過ごせていると思う。
時々領地から手紙が届く。
内容はだいたいお父様や使用人たちからの質問や相談や泣き言だ。
私が元々、領地であれこれビジネスに関わっていたからなのだけれど、なんだか頼りにされてたのかなって思えて少し嬉しくなる。
多少の問題はあるようだけれど、あっちも皆元気そうだ。
まあ私を王家に差し出したのだから、そうそう困ったことにはならないだろう。何せ王子の嫁(予定)の実家だ。何かあって没落しそうになっても放っておきはしないだろう。
というか、青天の霹靂で婚約させられたのだから、それくらいの面倒はみて欲しい。
…充実してはいるけれど、時々ちょっと寂しくなる時がある。実家の犬たちが恋しくなったり。
でも、今はこっちの犬の世話で手一杯だ。
血統だけは超一流の、手のかかるバカ犬の世話で。
ああでも、クーに会いたいな…。
不意に一頭の犬の顔が浮かんで、そっと目を閉じた。
クーは、うちの第2期訓練生だ。
黒くてツヤツヤな毛並みで、大きくて賢い子。
訓練が終わった子はたいてい外に出すのだけれど、クーは気に入って手元に残した。
番犬を購入検討中のお客さんが視察に来た時に見本になってくれたり、ヤンチャな新入りをシメてくれたりと、大活躍してくれている頼りになる子。
クーと芝生で昼寝するの、最高なんだけどな…。
陽の光をたっぷり浴びたクーの匂いを思い出して、少しだけ感傷的になった。
でもこっちでは、実家では食べられないような贅沢なお菓子が毎日食べられるからトントンだ。食事は正直、地元の食材を使ったあっちの方が好きだけど…。
まあそこは仕方がない。
こっちの食事も美味しいことは美味しいのだから、贅沢を言っちゃいけない。
そんなことを、クイズに連続不正解した王子に腹筋させながら思った。
◇ ◇ ◇
「何だ。元気がないな、ほら食え」
王子が昼食の皿から、おかずを一品こちらに寄越した。
見るとレインボーバードのゆで卵だった。
親指の先くらいの小さな卵なんだけど、これが美味しい。
味がぎゅっと凝縮してて。
この鳥は、親鳥は地味な灰色一色なんだけど、卵がカラフルだ。
そこから生まれる雛も、最初の生え変わりまでは卵と同じ羽の色をしている。
王子がくれたのは青い卵だった。私のラッキーカラー。眼と同じ色。
「ありがとうございます」
もぐもぐ咀嚼しながら思う。
王子は私には旨いものさえ与えておけば問題ないと思っているようだけど正解だ。
私は美味しいものを食べても不幸な顔をしていられるような面倒くさい性格ではない。
「何かあったのか?」
珍しく王子が突っ込んできた。
鋭いな。王子の癖に。
「いえ、ちょっと実家の犬を思い出しまして」
「そうか…」
眉を下げる王子。
もしかして、同情してくれているのだろうか?
「あ、でも大丈夫です」
こっちにはこっちで、手のかかる犬がいるので
「そうか?」
「はい」
じっとこちらを見る王子。
ちょっとだけクーに似てる気がする。
クーの方が利口だけど。
でも、心配そうにこっちを見る目が少しだけ…。
うっかり王子の頭に犬耳を幻視しそうになって首を振った。
まだまだ王子の調教…もとい教育は道半ばなのだ。気を抜いてる場合じゃない。
今のところ順調とはいえ、発注主が発注主だ。失敗したら首とか領地とか危ない気がする。
頑張らないと。それで…
私、この調教が終わったら、クーに会いに行くんだ……
ちなみに私は、昼食はいつもこうして王子と二人で食べている。
午前と午後のお茶も王子と一緒。
朝食と夕食は自分の部屋で。
王子は、夕食はなるべく家族揃って食事をとる習慣があるみたいで、いつも豪華な面々で食べている。
でも私はどうも、王子以外の王族にはまだ慣れない。というか、あまり馴染みたくない。
まず国王には、胸の小ささで選ばれ王子を押しつけられた恨みがある。
王妃様は、なんだかおっかない。
うちがのほほん子爵な所為もあってか、私は女性のあれこれには免疫がないのだ。男性の札束と権力で殴り合うのも苦手だけど、少なくともサシの殴り合いなら少々嗜んでいる分まだわかる。
王子の姉姫様は、王妃様によく似ておっかないし、妹姫様は何となく勘だけど、三人の中で一番怖い気がするから近づきたくない。
兄王子や弟王子は、キラキラしてて疲れる。
だってズボン履いててほぼ男な見た目の私を、淑女扱いするのだ。
居たたまれないにも程がある。
そんな面々に、初日に一日だけ混ざって夕食を摂ってみたけれど、これでは早晩胃に穴が開くと早々にギブアップした。
一応私も、ずり落ちそうな端っこの方とはいえ貴族の端くれなので、夜会にドレスで出たことがない訳じゃないし、テーブルマナーだって一通りは身につけている。
でも王族の目に毎日晒されるのはだいぶ無理。
なので遠慮させてもらっている。
割と充実した時間を過ごせていると思う。
時々領地から手紙が届く。
内容はだいたいお父様や使用人たちからの質問や相談や泣き言だ。
私が元々、領地であれこれビジネスに関わっていたからなのだけれど、なんだか頼りにされてたのかなって思えて少し嬉しくなる。
多少の問題はあるようだけれど、あっちも皆元気そうだ。
まあ私を王家に差し出したのだから、そうそう困ったことにはならないだろう。何せ王子の嫁(予定)の実家だ。何かあって没落しそうになっても放っておきはしないだろう。
というか、青天の霹靂で婚約させられたのだから、それくらいの面倒はみて欲しい。
…充実してはいるけれど、時々ちょっと寂しくなる時がある。実家の犬たちが恋しくなったり。
でも、今はこっちの犬の世話で手一杯だ。
血統だけは超一流の、手のかかるバカ犬の世話で。
ああでも、クーに会いたいな…。
不意に一頭の犬の顔が浮かんで、そっと目を閉じた。
クーは、うちの第2期訓練生だ。
黒くてツヤツヤな毛並みで、大きくて賢い子。
訓練が終わった子はたいてい外に出すのだけれど、クーは気に入って手元に残した。
番犬を購入検討中のお客さんが視察に来た時に見本になってくれたり、ヤンチャな新入りをシメてくれたりと、大活躍してくれている頼りになる子。
クーと芝生で昼寝するの、最高なんだけどな…。
陽の光をたっぷり浴びたクーの匂いを思い出して、少しだけ感傷的になった。
でもこっちでは、実家では食べられないような贅沢なお菓子が毎日食べられるからトントンだ。食事は正直、地元の食材を使ったあっちの方が好きだけど…。
まあそこは仕方がない。
こっちの食事も美味しいことは美味しいのだから、贅沢を言っちゃいけない。
そんなことを、クイズに連続不正解した王子に腹筋させながら思った。
◇ ◇ ◇
「何だ。元気がないな、ほら食え」
王子が昼食の皿から、おかずを一品こちらに寄越した。
見るとレインボーバードのゆで卵だった。
親指の先くらいの小さな卵なんだけど、これが美味しい。
味がぎゅっと凝縮してて。
この鳥は、親鳥は地味な灰色一色なんだけど、卵がカラフルだ。
そこから生まれる雛も、最初の生え変わりまでは卵と同じ羽の色をしている。
王子がくれたのは青い卵だった。私のラッキーカラー。眼と同じ色。
「ありがとうございます」
もぐもぐ咀嚼しながら思う。
王子は私には旨いものさえ与えておけば問題ないと思っているようだけど正解だ。
私は美味しいものを食べても不幸な顔をしていられるような面倒くさい性格ではない。
「何かあったのか?」
珍しく王子が突っ込んできた。
鋭いな。王子の癖に。
「いえ、ちょっと実家の犬を思い出しまして」
「そうか…」
眉を下げる王子。
もしかして、同情してくれているのだろうか?
「あ、でも大丈夫です」
こっちにはこっちで、手のかかる犬がいるので
「そうか?」
「はい」
じっとこちらを見る王子。
ちょっとだけクーに似てる気がする。
クーの方が利口だけど。
でも、心配そうにこっちを見る目が少しだけ…。
うっかり王子の頭に犬耳を幻視しそうになって首を振った。
まだまだ王子の調教…もとい教育は道半ばなのだ。気を抜いてる場合じゃない。
今のところ順調とはいえ、発注主が発注主だ。失敗したら首とか領地とか危ない気がする。
頑張らないと。それで…
私、この調教が終わったら、クーに会いに行くんだ……
ちなみに私は、昼食はいつもこうして王子と二人で食べている。
午前と午後のお茶も王子と一緒。
朝食と夕食は自分の部屋で。
王子は、夕食はなるべく家族揃って食事をとる習慣があるみたいで、いつも豪華な面々で食べている。
でも私はどうも、王子以外の王族にはまだ慣れない。というか、あまり馴染みたくない。
まず国王には、胸の小ささで選ばれ王子を押しつけられた恨みがある。
王妃様は、なんだかおっかない。
うちがのほほん子爵な所為もあってか、私は女性のあれこれには免疫がないのだ。男性の札束と権力で殴り合うのも苦手だけど、少なくともサシの殴り合いなら少々嗜んでいる分まだわかる。
王子の姉姫様は、王妃様によく似ておっかないし、妹姫様は何となく勘だけど、三人の中で一番怖い気がするから近づきたくない。
兄王子や弟王子は、キラキラしてて疲れる。
だってズボン履いててほぼ男な見た目の私を、淑女扱いするのだ。
居たたまれないにも程がある。
そんな面々に、初日に一日だけ混ざって夕食を摂ってみたけれど、これでは早晩胃に穴が開くと早々にギブアップした。
一応私も、ずり落ちそうな端っこの方とはいえ貴族の端くれなので、夜会にドレスで出たことがない訳じゃないし、テーブルマナーだって一通りは身につけている。
でも王族の目に毎日晒されるのはだいぶ無理。
なので遠慮させてもらっている。
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