【完結】王子への罰として婚約させられました!

オリハルコン陸

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そういえば、最近王子には
「男の愛人がいる」
という噂があるらしい。

あれだけ大きな乳好きの王子に、何でそんな噂が流れたのか。
世間もあの婚約破棄騒動を忘れた訳ではあるまいに。

聞いた時はそう思ったのだけれど、どうやらその噂は、完全に私の所為らしい。

私が朝から夕方まで王子と一緒にいるから。
女性用に仕立てたシャツとズボンじゃなくて、完全に男物の衣服を身につけた私が。

……いやだって、私は胸もないけどお尻も小さいのだ。この体型で貴族のご婦人が乗馬で着るような、フリルのついたシャツとか太ももがふわっと膨らんだズボンとかを着てたら、逆に噂がおかしな風に捻じ曲がり兼ねない。


王子は女装をする男が好きだが、流石に王宮内では慎んで、ドレスは着せずにいる


みたいな。
慎みの方向性を完全に間違ってる。何だその中途半端な慎み。いっそスパッとドレス着せろよ!
と思わず脳内に突っ込んでしまった。


現状の噂では、あの後国王の罰により私をあてがわれた王子は貧乳の良さに目覚め、勢い余って男に走ったんだとか。

………勢い余り過ぎだろう。噂の中の王子…


当然、そんな事実は全く無い。
初めて王子と会って以来、周りに新しい人が増えたりはしていないし、王子が男とイチャイチャしてるのも見たことはない。
…今でも王子は、私の無い胸を見ては悲しそうな顔をするし。

変化といえば、その時の王子の顔が、遊んでもらえると思ったのに遊んでもらえなかった時のクーみたいで、私が不要な罪悪感を抱くことくらいだ。

いや、本当に不要だよ。
だって今さらこの胸、私じゃどうにもならないよ。
神様にも散々悪態ついたけど、それでも全くサイズ変わらなかったもん。
大きくも小さくも。

…今「悪態にムカついたから罰を与えたかったけど、それ以上小さくしようがなかった」とか言ったかみ、マジでここに降りてこい!


………。
でもそんな噂が流れていても、私はドレスを着る気はない。
元々苦手というのももちろんある。
だけど何より、あんな服を着たら王子と剣で殴り合ったり反復横跳び競争で負かしたり、キャッチボールで走らせたりできなくなってしまう。

全部王子の調教きょういくに必要なことだ。
国王からも、そっちを優先させるよう言われている。


ただ、一つ引っかかっている事がある。
男物の服を着ていつも王子の側にいる私が彼の婚約者だということを、国王としては広く知られたくないようなのだ。

今までは単に、外聞が悪いからかとあまり気にしていなかった。
けれど王子に人気が出始めたことを考え合わせると、婚約者を取り替える為の布石かなって気がしてきた。

「前婚約者と仲が良かった」
なんて噂は無い方がいいから…
だから私がドレスじゃないのは、国王にとってもむしろ好都合なのかもしれない。


まあ実際問題、これについては考えても仕方がない。
どうせ国王が何を言おうと「はい、喜んでー!」と答えなければならない身なのだから。
考えるだけ無駄だ。


私はとりあえず、与えられた王命の一つである「王子をギリギリokなレベルに仕上げる」ミッションをクリアしなければならないのだ。
それが無事終わった後で国王がどう出るかなんて、現時点ではわからないし、わかっててもどうにもならない。


◇  ◇  ◇


「何かあったのか?」

いつも通り、二人きりの昼食の席で、王子が私の皿に小さな目玉焼きを寄越した。
しかも二つ。
レインボーバードの青のと緑のやつ。

思わず王子の顔を反射的に見て気づく。
そういえば、王子の目の色はこの鳥の卵の緑によく似ている。

「いえ、特に何も…」

嘘じゃない。
"まだ" 何も起こってはいない。
ただ、確率の高い未来を予想して、ちょっと憂鬱になってしまっただけだ。
折角躾けたおうじを取り上げられそうな未来に。

「ありがとうございます。私この色、特に好きなんです」

色は違っても味は同じなんだけどね。
片方をナイフで真っ二つに切って口に運んだ。
フォークに刺さった鮮やかな緑。
私は好きなものから食べるタイプだ。

「…クーとかいう犬の色に似てるのか?」

王子が少しソワソワした様子で聞いてきた。

「いえ?クーの目は黄色ですし、毛は黒ですよ?」

前に言わなかったかな?
クーの目は、薄いハーブティーのような優しい色をしている。
毛が緑色だったら、たぶん流石にちょっと引く。

「…そ、そう…か…」

何故か王子が挙動不審になった。
微かに頬を赤くして、落ち着きなく左右に視線をやっている。

どうした。変な物食べた?

ってちょっと心配になったけど、王子は拾い食いはしない。というか、そもそも王宮内に食べ物は落ちていない。
それに王子に出される物は全部厳選されている。

まあ王子だから、多少おかしくても今さらか

と思い直して、気にせず食事を続けることにした。



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