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パーティー3
しおりを挟む「ちょっとあなた、王子の婚約者よね」
………絡まれた。
慣れない豪勢なパーティーに緊張しながら、王子と一緒に挨拶回りを続けて。王子がちょっとお手洗いに立ったその隙に。
もしかしたらこんな事もあるかもってターニャに言われてたけど、本当に絡まれた。
「ええ、そうですが」
「今のところはまだ一応」
そう心の中で付け足す。
声をかけてきたのは、オレンジのドレスを着た派手目のご令嬢だった。
こっちを思いっきり睨んでる。
わー、何か凄いな。目の縁とか化粧の厚みが視覚的に見える。
…それにちょっと化粧の粉でむせそう。
ケホッ…
ていうかむせた。
「あなたねえ!あなたみたいなのが王子と釣り合い取れると思ってるの?」
小声で詰め寄られて後退る。
涙目になりながら。
だって本当に化粧がキツい。
粉っぽさとあと香水の匂いもキツい。
これはちょっと無理かもしれない。
「何よその顔!何とか言いなさいよ!」
…言いたくても言えません。
国王の一方的な通達で拒否権ありませんでしたとか、子爵家が王子と釣り合い取れるとか常識的に考えて思いませんとか、言いたいことは一応ある。
でも口開けたら匂いとか粉とか吸い込んじゃうので無理です。
そこに折よく帰ってきた王子が割って入ってくれた。
「何をしている!」
つい王子を盾にするように背中に隠れた。
匂いは防げないけど、発生源から少しだけ距離をとれてほっとする。
「あ、いえ…その…私は…」
途端にしどろもどろになるご令嬢。
いや、そもそも何で絡んできたの。私に文句言ってもしょうがないのに。
「…おまえはアーガス伯爵家の…」
チラリと令嬢の指に目をやって王子が呟いた。
おお、勉強の成果だ。
身元がバレた令嬢は青ざめた。
うん。この険悪な感じの王子にどこの誰だかバレたら焦るだろう。
この国の貴族は紋章入りの指輪を嵌めてるから、一人一人の顔を覚えてなくても家名はわかるのだ。
いや、本当は顔も覚えなきゃダメなんだけど。
でも最低限紋章だけはって、一緒に頑張ったからなあ。
特別に作ってもらった、あのカードゲームは面白かった。
従者に読み札の家名を読んでもらって、テーブルに並べた紋章のカードを取るスピード勝負。
などと思わず軽く現実逃避する。
だって今すぐこの女の人から遠ざかりたいけれど、割って入ってくれた王子を放ったらかして逃げる訳にもいかない。
そんな訳でハンカチで口元を押さえながら、気を紛らわす為に思考を逃避させてたら話が終わった。
青ざめて震える令嬢に、王子はイライラした口調で吐き捨てた。
「もういい!行け!」
王子の怒鳴り声に、令嬢は逃げるように去って行った。
そのちょっと間抜けな令嬢を見送る。
私に絡んできたってことは多分王子狙いだったんだろうけど、何もこんな王子が速攻戻って来そうな状況で絡まなくても良かったのに。
誰かを罵ってる人って、印象悪いんだから。
でも、そんなことより残り香キツい。
「何があった?」
尋ねる王子のジャケットをクイクイと引っ張ってテラスに誘った。
ここじゃ無理。
残り香が凄くて無理。
王子は大人しくついてきた。
ぷはぁー………
テラスに出て、詰めていた息を吐き出した。
ああ、夜の澄んだ空気が美味しい。
「………どうした?」
ちょっと思ってたのと違うという目で私を見る王子。
「えっと…匂いがキツくて……」
王子が変な顔になった。
「…確かにキツかったな。…だが良かった。てっきり嫌がらせでもされていたのかと…」
「あ、嫌味は言われました」
王子の表情が険しくなる。
「…そうなのか?何て?」
「「王子と釣り合い取れてると思うのか」って」
まあ、そりゃそうだ。取れてないよ。知ってる。
でも王子は意外な事を言った。
「取れてるに決まってるだろ」
「……取れてます?」
「取れてるだろ。…まさか俺におまえはもったいないとか思っているのか?」
いえいえ。
パタパタと首を横に振る。
あ、しまった。ちょっと髪がほつれた。
そんな私を見て息を吐く王子。
「少なくとも、俺はおまえに不満はない」
ちょっと思っていなかった言葉に驚く。
確かに結構仲良くやれてるとは思ってたけど、私に不満がないとまでは思ってなかった。
そこまで私のこと気に入ってくれてたなんて…
「………王子…」
不意打ちのセリフに胸がキュンとしかけーー
「…胸の小ささ以外は」
知ってた!それは知ってた!!
ーーとりあえず壁を殴った。
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