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【番外編・カルヴァンとの恋愛エンディング】
01 カルヴァンに助けを求める
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--もしも、物語の途中で、メアリーがカルヴァンに助けを求めていたら……?
**
死にたくない、でもどうしたらいいのか分からない。
一人で悩んで苦しんだ結果、メアリーは最後の手段を使うことを決めた。タイミングよく、自室の扉がノックされ、カルヴァンが顔を出した。
(ちょうど良かったわ)
メアリーは笑顔を浮かべながら「お兄様」と駆け寄ると、カルヴァンの腕を引き、部屋の中へと入るように誘った。メイドのラナの姿はない。二人きりの部屋の中で、メアリーはわざとらしくため息をついた。
「どうした、メアリー?」
骨ばった大きな手が、メアリーの頭を優しくなでる。
「お兄様、私との取引覚えていますか?」
カルヴァンは、「何だったかな?」と言いながらメアリーの毛先を指で揺らしてあそんでいる。
「もし、私が貴方をお兄様と慕ったら、私を助けてくれるというお話です」
「ああ、それのことか」
「ハロルド殿下に命を狙われました」
毛先に触れるカルヴァンの指がピタリと止まり、険しい目つきになる。
「お兄様、私を助けてください」
「うむ……」
そう言ったきり、カルヴァンは黙り込んでしまった。
(私を助けるなんてウソだったのね。すぐに別の方法を探さないと)
カルヴァンに背を向けると、メアリーは腕をつかまれくるりと元の位置に戻された。
「何ですか?」
もうカルヴァンと兄妹ごっこをして遊んでいる場合ではない。メアリーが睨みつけると、素早く腰に手をまわされ、唇を無理やり奪われた。
「!?」
逃げ出そうとカルヴァンの胸板を本気で殴りつけたが、ビクともしない。ゆっくりと名残惜しそうに唇を離したカルヴァンは爽やかに微笑んだ。
「妹が可愛くて仕方なかったのにな。もう少し遊んでいたかったが、貴女の命が危ないのなら仕方がない」
「何を!?」
「ハロルド殿下が貴女の命を狙う理由は、貴女が貴族派に属するノーヴァン伯爵の娘だからだ。貴族派は王家の権力をそぎ落として形式だけのものにしたがっている。そんな伯爵家から、聖女が誕生したら面倒だろう? ただでさえノーヴァン伯爵家からは、ルーフォスが聖騎士に選ばれているのに」
カルヴァンの言うことが本当なら、メアリーは何も悪くない。ただ、聖女候補に選ばれただけでハロルドに命を狙われていることになる。
「だったら、私が聖女候補をやめれば良いのですか?」
カルヴァンは首を振った。
「例え聖女候補をやめても、聖なる力が強い貴女が、どこかの貴族派と結婚して子どもを産んだら厄介だ。聖なる力は必ずしも遺伝しないが、貴女が次期聖女や聖騎士の母になる可能性は捨てきれない」
「そういうことなら、私はどこかに身を隠すしか生き残る方法がないのですね……。その手引きをしてくださいますか?」
「いや、隠れる必要はない」
カルヴァンは床に片膝を突くと、メアリーの手を取った。
「私と結婚しよう」
爽やかな笑みを浮かべるカルヴァンを見て、メアリーの口から「はぁ!?」と間抜けな声が出た。
「私は殿下の腹心だ。そんな私が聖なる力の強い貴女を娶ったら、殿下にも利益がある。貴女に利用価値が出てくる、ということだ」
「それは……そうかもしれませんが……」
「何か問題でも?」
不思議そうなカルヴァンに、メアリーは頬を引きつらせた。
「いくら生き残るための偽装結婚とはいえ、私はカルヴァン様のように女性遊びの激しい方と一緒に暮らすのは嫌です」
カルヴァンの妻というだけで、カルヴァンが遊んだ女性達から嫌がらせを受けるのは目に見えている。一生そんな目にあうくらいなら、遠い土地で隠れて暮らした方がまだマシだ。
「まさか、私が振られるとは」
「では、これで」
メアリーがさっとカルヴァンから離れようとすると、カルヴァンに後ろから抱きしめられた。
「ひどいなメアリー。君の兄になってから、全ての女性と関係を切ったのに?」
「は、はぁ……?」
正直『だから、どうした?』と言いたい。
「可愛い妹に嫌われないように、これでも陰ながら努力をしていたんだ。それに……」
カルヴァンはメアリーの髪に頬ずりした。カルヴァンの息がかかり、くすぐったいような不思議な感覚がする。
「真実の愛に勝るものはない」
「お兄様は、真実の愛なんてないって言ってましたよ?」
逞しい腕の中が居心地悪く、身じろぎしながら抗議をすると、メアリーの頭の上でクスッと笑う声がした。
「男女間にはなかったが、私と貴女の兄妹間にはあったようだ」
「そうなのですか? 私は気が付きませんでした」
メアリーがなんとか逃げそうと、必死に肘鉄を食らわせても、カルヴァンは離す気配がない。
「だから、私たちの作る夫婦間にも、きっと真実の愛はあるだろう」
「私は、そのような危険な賭けには出たくありません!」
「メアリー」
低い声が楽しそうに語りかけてきた。
「ハロルド殿下に殺されるか、ここで私に無理やり手酷く抱かれるか、それとも私と夫婦になって真実の愛を育むか、どれがいい?」
選びたい選択肢がひとつもない。メアリーは悩みに悩んだ末に、一番マシな選択肢を選んだ。
「さ、三番で……」
「嬉しいよ、メアリー。すぐにでも式をあげよう。新婚旅行はどこに行きたい?」
首筋にキスを落としながらうっとりと囁くカルヴァンの声を聞いて、メアリーは思った。
(兄妹ごっこをしようと言われた時から思っていたけど、やっぱり、この人、普通じゃない……)
ただ、本当は誰よりも真実の愛を求めていたカルヴァンに、予想外に一途にただただ溺愛される幸せな結婚生活が待っていることを、この時のメアリーはまだ知らなかった。
**
死にたくない、でもどうしたらいいのか分からない。
一人で悩んで苦しんだ結果、メアリーは最後の手段を使うことを決めた。タイミングよく、自室の扉がノックされ、カルヴァンが顔を出した。
(ちょうど良かったわ)
メアリーは笑顔を浮かべながら「お兄様」と駆け寄ると、カルヴァンの腕を引き、部屋の中へと入るように誘った。メイドのラナの姿はない。二人きりの部屋の中で、メアリーはわざとらしくため息をついた。
「どうした、メアリー?」
骨ばった大きな手が、メアリーの頭を優しくなでる。
「お兄様、私との取引覚えていますか?」
カルヴァンは、「何だったかな?」と言いながらメアリーの毛先を指で揺らしてあそんでいる。
「もし、私が貴方をお兄様と慕ったら、私を助けてくれるというお話です」
「ああ、それのことか」
「ハロルド殿下に命を狙われました」
毛先に触れるカルヴァンの指がピタリと止まり、険しい目つきになる。
「お兄様、私を助けてください」
「うむ……」
そう言ったきり、カルヴァンは黙り込んでしまった。
(私を助けるなんてウソだったのね。すぐに別の方法を探さないと)
カルヴァンに背を向けると、メアリーは腕をつかまれくるりと元の位置に戻された。
「何ですか?」
もうカルヴァンと兄妹ごっこをして遊んでいる場合ではない。メアリーが睨みつけると、素早く腰に手をまわされ、唇を無理やり奪われた。
「!?」
逃げ出そうとカルヴァンの胸板を本気で殴りつけたが、ビクともしない。ゆっくりと名残惜しそうに唇を離したカルヴァンは爽やかに微笑んだ。
「妹が可愛くて仕方なかったのにな。もう少し遊んでいたかったが、貴女の命が危ないのなら仕方がない」
「何を!?」
「ハロルド殿下が貴女の命を狙う理由は、貴女が貴族派に属するノーヴァン伯爵の娘だからだ。貴族派は王家の権力をそぎ落として形式だけのものにしたがっている。そんな伯爵家から、聖女が誕生したら面倒だろう? ただでさえノーヴァン伯爵家からは、ルーフォスが聖騎士に選ばれているのに」
カルヴァンの言うことが本当なら、メアリーは何も悪くない。ただ、聖女候補に選ばれただけでハロルドに命を狙われていることになる。
「だったら、私が聖女候補をやめれば良いのですか?」
カルヴァンは首を振った。
「例え聖女候補をやめても、聖なる力が強い貴女が、どこかの貴族派と結婚して子どもを産んだら厄介だ。聖なる力は必ずしも遺伝しないが、貴女が次期聖女や聖騎士の母になる可能性は捨てきれない」
「そういうことなら、私はどこかに身を隠すしか生き残る方法がないのですね……。その手引きをしてくださいますか?」
「いや、隠れる必要はない」
カルヴァンは床に片膝を突くと、メアリーの手を取った。
「私と結婚しよう」
爽やかな笑みを浮かべるカルヴァンを見て、メアリーの口から「はぁ!?」と間抜けな声が出た。
「私は殿下の腹心だ。そんな私が聖なる力の強い貴女を娶ったら、殿下にも利益がある。貴女に利用価値が出てくる、ということだ」
「それは……そうかもしれませんが……」
「何か問題でも?」
不思議そうなカルヴァンに、メアリーは頬を引きつらせた。
「いくら生き残るための偽装結婚とはいえ、私はカルヴァン様のように女性遊びの激しい方と一緒に暮らすのは嫌です」
カルヴァンの妻というだけで、カルヴァンが遊んだ女性達から嫌がらせを受けるのは目に見えている。一生そんな目にあうくらいなら、遠い土地で隠れて暮らした方がまだマシだ。
「まさか、私が振られるとは」
「では、これで」
メアリーがさっとカルヴァンから離れようとすると、カルヴァンに後ろから抱きしめられた。
「ひどいなメアリー。君の兄になってから、全ての女性と関係を切ったのに?」
「は、はぁ……?」
正直『だから、どうした?』と言いたい。
「可愛い妹に嫌われないように、これでも陰ながら努力をしていたんだ。それに……」
カルヴァンはメアリーの髪に頬ずりした。カルヴァンの息がかかり、くすぐったいような不思議な感覚がする。
「真実の愛に勝るものはない」
「お兄様は、真実の愛なんてないって言ってましたよ?」
逞しい腕の中が居心地悪く、身じろぎしながら抗議をすると、メアリーの頭の上でクスッと笑う声がした。
「男女間にはなかったが、私と貴女の兄妹間にはあったようだ」
「そうなのですか? 私は気が付きませんでした」
メアリーがなんとか逃げそうと、必死に肘鉄を食らわせても、カルヴァンは離す気配がない。
「だから、私たちの作る夫婦間にも、きっと真実の愛はあるだろう」
「私は、そのような危険な賭けには出たくありません!」
「メアリー」
低い声が楽しそうに語りかけてきた。
「ハロルド殿下に殺されるか、ここで私に無理やり手酷く抱かれるか、それとも私と夫婦になって真実の愛を育むか、どれがいい?」
選びたい選択肢がひとつもない。メアリーは悩みに悩んだ末に、一番マシな選択肢を選んだ。
「さ、三番で……」
「嬉しいよ、メアリー。すぐにでも式をあげよう。新婚旅行はどこに行きたい?」
首筋にキスを落としながらうっとりと囁くカルヴァンの声を聞いて、メアリーは思った。
(兄妹ごっこをしようと言われた時から思っていたけど、やっぱり、この人、普通じゃない……)
ただ、本当は誰よりも真実の愛を求めていたカルヴァンに、予想外に一途にただただ溺愛される幸せな結婚生活が待っていることを、この時のメアリーはまだ知らなかった。
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