黄金の王 〜俺は自由人になりたい!〜

海賊王

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第1章 努力は一瞬の苦しみ、後悔は一生の苦しみ

領内

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 アレクは15歳となった。

 領主となって10年がたった今、領内は見違えるほど発展していた。

 下町は以前と違い民の笑顔が増え始め、徐々に生活水準が向上し始めた。

 空を移動する飛行型の車両が走っているし、建物は近未来的ではあるが芸術性を損なわないとても文化的なまちづくりとなっている。

「すごいな。ここまで発展するのか」

 アレクも少し背が伸び始め、もう高校生くらいの身長になっただろうか。

 成長スピードが早い気がするが、アイに聞くところによると目標とする身長の過程だそうだ。

 筋トレも毎日欠かさずやっている。

 おかげで成長を妨げないちょうどいい筋肉になっている。

 その日の朝は誰もいないアレク専用の道場で木刀を振っていた。
 
 特注の重りを体につけて負荷をかけている。

 木刀もアレク専用で中に鉄心を入れた重いものとなっている。

 ブウン!ブウン!

「・・・はっ!」

 汗を道場の床に滴り落としている。

 どれくらい振り続けたのだろうか。

 床はアレクの足のサイズくらいの凹みがあった。

『旦那様おはようございます。お風呂の準備ができております』

 アイが道場の中に入って来て、アレクにタオルを渡す。
 
 アイは仕事をしっかりとこなしていた。

 さすがAIといったところだろうか。

 アレクがなにも言わなくても察してくれてなんでもしてくれる。

『あらあら、また床が凹んでいますね。修理しておきます』

「ああ、頼んだ」

 アレクは体に取り付けていた重りを外す。

 それをアイが自分の子機に改修させてクリーニングする。

 これがアレクの日課だった。

 道場から戻ってお風呂に入る。

 ウェルロッド家の今のお風呂は大きな銭湯の様な風呂になっている。

 今は、まだ仮設の屋敷ということで簡易的なお風呂だと言っていたが、十分すぎるくらいのお風呂だと思う。

 仮設の屋敷も十分に屋敷になっていた。

 以前、もうこの屋敷でいいんじゃないかとクロードに話したことがあった。

 その時、クロードはアレクに言った。

「なにを仰りますかアレク様! アレク様が住まわれ、お仕事されるお屋敷ですぞ! こんな小さな小屋でどうしますか! アイと相談してしっかりとアレク様にふさわしいお屋敷を建てて見せますぞ!」

 手に力を入れてアレクに宣言した。
 
 クロードは10年前よりも随分と若々しくなったように思える。

 アレクが領主になってからは使用人たちを一掃し、新しい使用人を迎え入れ教育訓練を施し、それはそれは精鋭みたいにしていた。

 クロード自身もやる気に満ち溢れて、アレクの身の回りの世話や統治にまで仕事をするようになった。

 前まではアイと張り合っているような感じだったが、今では2人で相談して何かと仕事をこなすようになっていた。

 そんな感じで屋敷の中は以前にもまして活気に満ち溢れていた。

『旦那様。本日の報告書です』

 アレクは朝食を取った後、執務室でアイから報告があった。

 アレクの仕事は報告書に目を通してサインしたり、ウェルロッド家の方針を決めるくらいで、ほとんどの仕事は役人がやっている。

 これは仕事が多すぎるためだ。

 惑星一つ管理するにはアレクの周りの人間だけではどうにもならない。
 
 そうして仕事を振に振った結果、アレクの仕事が究極に少なくなってしまった。

 おかげで、自己投資に専念できるのでよかった。

 アレクは仕事とは振ってしまうものだとしみじみ思う。

 アレクは、アイから報告を受けながら書類に直筆でサインしていると、アイがアレクに話しかけた。

『旦那様。そろそろ教育プログラムを受けておきたい時期になります。いつ頃がよろしいでしょうか』
 
「そうか、そろそろ時期か」

 教育プログラムは成長過程で何回か受けなくてはならない。

 現在、この世界では15歳は幼少期であり、日本で言うところの小学生くらいにあたる。

 よって、それに沿った教育を受けなければならない。

 それでも、内容は日本の教育とは比べものにならないくらいのものになっている。
 
「いつぐらいが都合がいい?」

『いつでも大丈夫です。準備は整っております』

「じゃあ、近いうちに入るは。期間はどれくらい?」

『3ヶ月を予定しています。その後アウトプット期間に2ヶ月です』

「オッケー」

 スムーズに書類がアレクの手元にくる。

 アレクがそれにサインする。

 アイの手が止まった。

「ん? どうした」

『ーーこちらをご確認ください』

 そう言って一枚の書類を俺の前に置く。

 そこには使用した経費の一覧が記されていた。

 アレクが見ても正直どこがおかしいのかわからない。

 アイが比較するのに必要な資料と過去の資料を映像で映し出す。

『ここの計算が合いません。この数値はこうならないといけないのに、余分に多いのです』

「汚職かーーこいつを呼び出せ」

 アレクはその資料を傍に置いておいて残りの仕事を済ませた。





 醜い豚のようなおっさんがやってきた。

 なんかブランド物の服を身につけて、指にはギラギラと宝石の指輪をつけている。

 もう、服に着られた豚だった。

 アレクは汚いものを見るような目でそいつを見た。

「これはこれは領主様。ご機嫌麗しゅう」

 こいつ貴族か何かのつもりなのだろうか。

 一つ一つの動作をしっかりやっているように見えてーー汚い。

「お前は座るな。俺の質問にだけ答えろ」

 アレクはお茶を片手にソファーに座っていた。

「はい。何なりと」

 おっさんは顔は笑顔のままだが目だけは笑っていなかった。

「お前のことは調べた。この経費はなんだ?」

 そう言って書類を机の上に投げる。

 おっさんは机の上の書類を見て、特になんでもないように言った。

「これは相手と交渉するときに必要だった経費です。まだ、領主様はわからないと思われますが、これも必要な経費なのです」

 おっさんは完全にアレクを舐めていた。

 アレクは真顔のまま聞いていた。
 
 そこにアイが割って入る。

『これは横領です。他にも数多くの余罪を確認しております』

 そう言って、アイが空中に映像を映し出す。

 そこにはひき逃げをしてその犯罪をもみ消した事、賄賂を受け取っていたこと、人事に口を出して自分の好きなようにしていたことなどなど。

 叩けば埃のように出てくるとはと感心してしまう。

 それを見てもまだアレクの前で笑顔でいるこの男は何様のつもりなのだろうか。

「領主様。人工知能の言うことなど聞いてはいけません。こいつらは過去に王国を滅ぼそうとしたことがある不良品です。王国内ではできる限り使用しないようにと言われているはずです。それをこうも使用しているとは民として少し領主様を心配してしまいます」

 おっさんは話をアレクの人工知能に移した。

 こうすればアレクを騙せると思ったのだろう。

 そのアレクは真顔のままだった。

「話を逸らすな。俺は質問にだけ答えろと言っただろ」

 おっさんから返事はない。

 おっさんの笑顔という仮面は徐々に剥がれそうになっていた。

 アレクはアイが映し出した余罪の一つに目が止まった。

 そこには真面目に働いていた奴を殺していた。

 殺しただけでは気が済まなかったのか、その家族にも手を出していた。

 殺した男の嫁を犯し、娘を犯し、息子の体を切り落とし売り捌いていた。

 これが一番ひどい内容だった。

 ーーこいつ、人間じゃねえ。

 とうとう、アレクがキレた瞬間だった。

「領主様、本当に人工知能の言うことを聞いてはいけません。この資料だって、でっちあげたものに違いありません。私は確かに多少の横領や人事操作はしましたが、それは他の皆もやっていることにございます。このようにしているから、この領地は今、スムーズに発展しているのであります。これは必要なことだったのです」

 領主はまた言い訳をし始めた。

 もうその姿は醜いの一言だった。

 アレクはその場に立ち上がり手を前に出す。

 瞬きの間に一振りの刀が出現した。
 
 それは紫紺に黄金の装飾が施されたあの社でもらった刀だった。

 おっさんの笑顔の仮面はとうとう剥がれ落ちた。

「おい小僧! お前、誰のおかげでこの領地が回っていると思ってんだ!」

 おっさんは懐にしまっていたであろう銃を取り出す。

 部屋中にブザーが鳴り響き出す。

 アイがアレクとおっさんの間に割って入る。
 
「この領地は俺が支え」

 アレクは抜刀してそのまま相手が銃を打つ前に首を刎ねた。

 首はゴロンと床に落ちた。

 アレクの右手には黄金に輝く刀身の刀が握られている。

 応接間が血で汚れた。

 アイはすぐにアレクの服に洗浄用のクリーナーを施す。

『旦那様。お召し物を掃除いたします』

 アレクはおっさんを見下ろしていた。

「ここは俺の領地、俺の世界だ。お前のじゃない」

 ーー俺は、俺を称え、俺に付き従うやつしかいらない。俺を傀儡にしようとする阿呆は嫌いだ。

『旦那様、その手をお離しください』

 そう言って、アイが俺の前にアームを出す。

 俺は刀を鞘にしまって離そうとするがうまく力が抜けない。

『お手伝いいたします』

 アイのアームが俺の指を優しく一つ一つ解いていく。

 手のひらは汗で濡れており、筋肉が緊張していた。

 ーー人を殺したのがそんなに堪えるのか。情けない。これでも俺はこの領地の領主だぞ。

 そのとき、応接室の扉が開いた。

「アレク様!ご無事ですか!?」

 クロードとそれについてきたメイドと執事が数名、応接室に入ってきた。

「遅いぞクロード。早くこのゴミを処理しろ」

 俺は少し投げやりに言った。

 クロードはその現場を見て驚いていた。

「こ、これは一体どう言ったことでしょうか!」

 クロードは慌ててアレクのそばに立って、あちこち怪我とかしてないか触っている。

 他の者は驚いて慌てていたが、すぐに遺体の処理にかかった。

「慌てるなクロード。それよりも仕事だーー掃除するぞ」

「掃除はただいましておりますが」

 アレクは応接室の机に立った。

「領内の清掃だ! 汚職は全員死刑だ!」

 両手を目一杯に広げて宣言した。

「過去の資料を全て洗い出せ! 犯罪者も全て死刑だ! 法改正も行うぞ! 後、この屋敷の警備を見直せ。屋敷に銃を持ってきていたぞ」
  
 クロードはその場に膝をついて首を垂れる。

「かしこまりました」

 アイはアレクの前に浮いて言った。

『かしこまりました旦那様。つきまして、私一機では時間がかかってしまいます。数機ほどご用意いただけないでしょうか』

 元役人のおっさんを見て思った。

 ーーこんな人間なんかよりも、人工知能の方がよっぽど信頼できる。
 
 何が、人工知能を使わない統治だ

 何が、世間体だ。

 世間体なんて気にしていたら生きていけないわ!

「必要なものを好きなだけ用意しろ。お前らは俺を裏切らんのだろう?」

『そのようにプログラムされております。万が一、プログラムが改ざんされても、それを察知して自動自壊機能が備わっております。それに、そのようなことが起こらないように週に2回のメンテナンスもしております』

「なら、いいだろう」
 
 クロードは人工知能について何も言うことはなかった。

 そうして、領内の大掃除が始まった。





 ウェルロッド家の本星の一角に優雅で豪華な服装をした5人が円卓に並んで会食をしていた。

「領内は徐々に発展してきてるな。今回の領主は名君かもしれんな」

 小太りの男が言った。

「しかし、つい先月、領主自ら役人を斬ったそうだ」

 痩せ型と男は苛立った感じで言う。

「それに、役人を一斉粛清したそうだ。これが名君か?」

 ドレスを着た女が言った。

「お陰様でうちらの稼ぎが減ってしもうた」

 4人目の男は辮髪にしている。

「今は、いいかもしれんが、将来的に厄介な領主になり得る。ここは一つ、幼いうちにあの世に行ってもらおうではないか」

 5人目の男はスーツを着た男だ。

 4名はその提案に賛同したことを表すように右手を上げる。

「「「「意義なし」」」」

 これはウェルロッド家で領地を6等分してそのうちの5つを経営している分家の貴族たち。

 これまで好き勝手してきた者たち。

 5人は自分達にとって都合の悪いアレクを消す計画を建てていた。


 

 
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