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第1章 努力は一瞬の苦しみ、後悔は一生の苦しみ
下町
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とてもよく晴れた日のことだ。
近未来的な都市にも関わらず、文明的な美しさを保った風景の街。
デジタル映像やホログラムが街を照らしている。
街中は賑わい、路上では売り子がチラシを配ったりして店に人を集めている。
人の顔には笑顔が見える。
そんな街の中に1人、誰から声をかけられることなく歩いている1人の少年がいた。
彼は、ここ最近になって20歳になったばかりだ。
身長は150cmになって、体重も45kgになって体格も細身のがっしりとした体型になっていた。
この世界ではまだまだ幼子の年齢であるためか、成長速度も少し遅い。
しかし、しっかりとした質の高い体が形成されていく。
大体50歳くらいになる頃には体は完成されるらしい。
そして、そんな俺は街の人と同じような服を着て歩いていた。
「いやー今日はいい天気だな~」
そう、彼こそーーアレク・セン・ウェルロッドだった。
今日は屋敷の人には内緒で下町に来ていた。
アレクは12歳の時から屋敷内の秘密の通路から内緒でよく下町に遊びに行っていた。
人を騙すのは簡単だったが人工知能を騙すのは難しく、日々の業務を終わらせた後、アイの小型機一機付けることで許可をもらった。
その小型機がとても性能がいい。
なんせ透明になることができて、他の人から視認することができない。
よってアレクを不審な目で見るものはいなかった。
それに、アレクは魔法の修練も積んでいることから周囲に溶け込む魔法を自分にかけていた。
アレクはある店の前のドアを開ける。
普通は自動なのだが、ここの店は手動で開けなければいけない。
路地の裏道を歩いた先、地下に続く階段を降りるとそこには店があるーー『ロンの武器屋』
そういう名前の店だ。
「邪魔するぞー」
アレクはドンッと扉を開けた。
店の中にある商品はホログラムで表示されており、ロボットたちがお客様の接客をする。
『ようこそロンの武器屋へ。ごゆっくりしていってください』
接客用ロボットがアレクを出迎える。
アレクは接客用ロボットに向かって話しかける。
「ロンはいる? ロンに会いに来たんだけど」
『現在、工房にてお仕事をなされております』
「了解」
アレクは、店の奥にあるロンの工房に向かった。
厳重なロックがしてある部屋の前に立って魔法で無理やり扉をこじ開ける。
ギギギと軋む音が聞こえる。
その中には人工知能とハゲたおっさんが1人いる。
「おーい、ロン! 俺の武器できた?」
ハゲたおっさんーー【ロン】は苛立った様子で返事をする。
「また来たのか! ちょっと待ってろ、今仕事してんだよ」
個人武器屋を営んでいるハゲたおっさんである【ロン】とは8年の付き合いになる。
元王国大手兵器工場であるニヒル第3兵器工場の重役という結構な経歴を持つおっさんだ。
昔、新兵器開発中に実験事故に巻き込まれて体の半分を失ったらしい。
その時に、工場の重役のほとんどはエリクサーと呼ばれるなんでも治す万能薬を使用してくれたらしいが、ロンには使われなかった。
その代わりに体の半分を機械化するマシンモディフィケーション(略して『M2手術』)と呼ばれる手術を受けさせられた。
ロンとアレクが最初に出会ったのはアレクが12歳の時のことだ。
日々修行と勉学に明け暮れ、自分を鍛えに鍛えているときにふと思ってしまったのだ。
ーー俺は、本当に自由への道を歩いているのか?
ずっと仕事と勉強と修行をしているが、遊びをした覚えがなかった。
ーーやっぱり息抜きは必要だよな。
ということで、アイ以外には見つからないように屋敷を抜け出して、初めて声をかけた人間がロンだった。
初めは人型AIはどんなものなのかと思って声をかけたのだが、まさかの本物の人間んだったわけだ。
初めて会ったときのロンはロボット専用のスクラップ工場のゴミの山の上で仰向けになって倒れていたのだ。
その時のロンの顔は人をやめたような、本当にロボットにでもなったかのような顔をしていた。
アレクは気になって声をかけた。
すると、ノイズのひどい男の声が返ってきたのだ。
「・・・誰だ」
「名を聞きたいなら、まずお前から名乗るのが筋だろ」
アレクは少しイラッとした気持ちになって返事をした。
これがアレクとロンが初めて会った時の話だった。
それから、ロンがすごい技術を持った技術士であることがわかると、その技術は使えると思ったアレクは空いていたペナントを自分のポケットマネーで買って、ロンをそこで働けるようにした。
アレクの本当の目的はロンを働かせることではなくて、ロンの技術を使って自分に必要なものを作らせるためのものだ。
ロンはそれをわかっているのかどうかはわからないが、そこで働くことになった。
これが『ロンの武器屋』の始まりだ。
今では、結構な人気の店になっていて、個人で使用する武器屋、セキュリティーシステムや装置を開発販売している。
それからは徐々に仲良くなっていって、今では軽口を叩くくらい仲良くなっていた。
「おい。早くしろよ」
「ちょっと待ってろって言ってんだろ。今、お前の注文の品をやってんだよ」
「そうかーー早くしろよ」
アレクはAIが持ってきたお茶を飲んで待つことにした。
本の数十分後、ロンは二つの品を持ってアレクのところに来た。
「お前な~。来るなら来ると連絡の一本でもよこせっていつも言ってるよな?」
ロンは険しい顔のままぶっきらぼうに言った。
アレクはそれを面白そうに聞いて返事をする。
「はいはい、いつもうるさいな~。あんたは俺のオカンかよ。 で、俺が頼んだ品はできた?」
「ああ、できてる」
ロンはそう言って作業台の上にその品を置いた。
一つは脇差と呼ばれる小太刀が一振り。
もう一つは長い柄の先端に大きな刃をつけた矛。
「おお。注文通りのものができてるな」
ロンはアレクを睨むように言う。
「こんな物を作れと言われたのは初めてだ。貴族のほとんどはミスリルで作った剣を持つもんだがーーお前、なんでこんなものが必要なんだ?」
「そんなの戦いになったら必要になるかもしれんからな。用意しておこうと思っただけ」
アレクは小太刀を手に取る。
「お前が持ってたあの名前のない刀を解析してやっとできた短刀だ。 なあ、あの刀はなんなんだ? 調べれば調べるほどわからないことが出てくるんだが」
「俺も知らん。屋敷の中から出てきたもんだからな。 で、俺が注文したのは刀のはずだが」
アレクがそう言うと、奥からAIが刀を10本ほど持ってきた
「刀は作ったが、結局普通の刀と同じになっちまった。その小太刀だけがあの刀ににた性質を持つことができた。まあ、似てるだけで同じじゃない。オリハルコンや魔鉱石、ヒヒイロカネなんかをうまいこと混ぜて練り込んで鍛えたもんだ」
その小太刀を鞘から抜くと中から緋色の刀身が姿を見せる。
アレクが少し力を入れるように握る。
腕からアレクの魔力を刀身に流すと刀身が徐々に暗い赤紫のような色に変わる。
「魔力を流すと魔力石が反応して刀身が持ち主の魔力を放出する。もうこれは魔剣とか妖刀とかの類だな」
「・・・まあ、いいじゃないか」
アレクは鞘に戻して作業台の上に置く。
もう一つの品である矛を手に取る。
「これはいいな」
「それはなかなかの一品物だ。これ作んの大変だったんだぞ」
そう言ってロンは肘をついてお茶を啜る。
この矛は紫紺の長い柄、刃と柄を黄金の繋ぎ留めで固定し、刃は美しい透き通った銀色をしている。
アレクが魔力を流すとそれに反応するように矛全体が薄く光る。
「そいつはな~オリハルコンとミスリルをたらふく使って凝縮させて鍛えた逸品だ。一品物だからな」
「すごいなこいつはーーさすが、いい仕事をする」
アレクがロンを誉めた。
ロンはアレクの方を見て驚いた顔をした。
「いきなりどうした? 俺を褒めるなんて、今日は槍の雨でも降るのか?」
「馬鹿野郎。褒めるときは褒めるに決まってるだろう・・・これ、もらってくぞ」
「はよ持ってけ、邪魔なんだよ」
「いくらだ?」
「いらねえ。流石の俺も店をもらって置いて金をせびるほどクズになった覚えはねえ」
そう言って、また路温は茶を啜った。
アレクはもう一度、矛と小太刀を見た。
アレクがこれを注文したのには訳があった。
ここ数年で領内に不穏な動きがあることが屋敷にいる統治用のAIによりわかった。
その活動をしているのが俺の分家、つまり従兄弟にあたる人間5名が主導で活動しているらしい。
目的はどうもアレクで、しかも領主の座を狙っているのだとか。
アレクもこれさっさと潰しておかないといけないと思ったのだが、いかんせん、ここの領地の6分の5をこれまで統治していたので、軍の半数ほどがこの5人に協力しているようなのである。
これは裏切りである。
そして、アレクはその裏切りが一番この世で嫌いなことだ。
ーー全ての諸悪は潰さなければならないな。
その気持ち一つで作戦を思いついた。
それは単純で、正面から戦って圧倒的な勝利を収めればいいと言う物だった。
現在、アイとクロード主導で作戦を敵の情報収集を行なっているところだ。
そして、アレク自身も戦うつもりなのだった。
ロンがアレクに言った。
「なあ、最近妙な噂を耳にしたんだが」
「なんだよ」
「分家の奴らが下剋上するかもしれんんと言うやつ」
「ああ、あれね。まじだよそれ」
ロンはマジかーと一言呟いた。
「最近、妙にレーザーガンや飛行艇、ミサイルなんかの注文が多いと思ったらそう言うことか」
「なんだ? どんな注文を受けたんだ?」
アレクはロンに聞いた。
ロンは申し訳なさそうな顔で言った。
「まあ、ほとんどがレーザー兵器だ。あとは対城兵器に飛行艇か・・・宇宙作戦用の兵器が一つも注文がないもんだからおかしいと思ったんだよ・・・すまん」
アレクはなんでもないような顔をして小太刀を見ていた。
「何も問題ないな。そのまま注文を受けて立派な兵器を開発したらいい」
「お、お前。領主をやめるつもりなのか?」
アレクはロンの言っていることがわからなかった。
ーーはあ? とうとう頭もおかしくなったのだろうか。
領主をやめたらアレクは絶対に普通には暮らしていけない。
それなのに、領主をやめるとか意味がわからない。
「何言ってんだ? やめるつもりなんてさらさらない」
「じゃあ、どうするんだよ」
「美味しくなるまで寝かしておくんだよ」
アレクは余裕そうにお茶を飲み干した。
「勝つことしかできないわ」
◆
部屋の中の片付けをしていた。
機械類が散乱していたから、そろそろ片付けないといけないと思っていたところだった。
アレクが店から出て行って、ロンは一息ついた。
「ウェルロッド家の領主様はおかしな人だ」
Aがお茶を運んでくれた。
「なんで俺なんかを救ってくれたんだろうか」
ロンは正直、どうやってこの恩を領主様に返せばいいか悩んでいた。
本当なら死んでいてもおかしくない。
全てを失ったロンは死のうと思ってスクラップ工場に行ったのだから。
それなのに、あの領主様ときたら。
「領主様のために働けってか・・・全然働くけど、ここまで用意するとはな・・・あれで20歳か」
20歳なんてまだ親の愛情を受けて遊んで暮らしている年だろう。
まだまだ子供のはずなのに、あんな感じになってしまった。
ロンはどこかアレクのことをかわいそうな子供のように見ていた。
「ご両親に捨てられたもんな・・・かわいそうに。せめて、俺は領主様の味方をしてやらないと」
さっきまでの雰囲気とは違って、少しアレクを親のような目で見るロンだった。
近未来的な都市にも関わらず、文明的な美しさを保った風景の街。
デジタル映像やホログラムが街を照らしている。
街中は賑わい、路上では売り子がチラシを配ったりして店に人を集めている。
人の顔には笑顔が見える。
そんな街の中に1人、誰から声をかけられることなく歩いている1人の少年がいた。
彼は、ここ最近になって20歳になったばかりだ。
身長は150cmになって、体重も45kgになって体格も細身のがっしりとした体型になっていた。
この世界ではまだまだ幼子の年齢であるためか、成長速度も少し遅い。
しかし、しっかりとした質の高い体が形成されていく。
大体50歳くらいになる頃には体は完成されるらしい。
そして、そんな俺は街の人と同じような服を着て歩いていた。
「いやー今日はいい天気だな~」
そう、彼こそーーアレク・セン・ウェルロッドだった。
今日は屋敷の人には内緒で下町に来ていた。
アレクは12歳の時から屋敷内の秘密の通路から内緒でよく下町に遊びに行っていた。
人を騙すのは簡単だったが人工知能を騙すのは難しく、日々の業務を終わらせた後、アイの小型機一機付けることで許可をもらった。
その小型機がとても性能がいい。
なんせ透明になることができて、他の人から視認することができない。
よってアレクを不審な目で見るものはいなかった。
それに、アレクは魔法の修練も積んでいることから周囲に溶け込む魔法を自分にかけていた。
アレクはある店の前のドアを開ける。
普通は自動なのだが、ここの店は手動で開けなければいけない。
路地の裏道を歩いた先、地下に続く階段を降りるとそこには店があるーー『ロンの武器屋』
そういう名前の店だ。
「邪魔するぞー」
アレクはドンッと扉を開けた。
店の中にある商品はホログラムで表示されており、ロボットたちがお客様の接客をする。
『ようこそロンの武器屋へ。ごゆっくりしていってください』
接客用ロボットがアレクを出迎える。
アレクは接客用ロボットに向かって話しかける。
「ロンはいる? ロンに会いに来たんだけど」
『現在、工房にてお仕事をなされております』
「了解」
アレクは、店の奥にあるロンの工房に向かった。
厳重なロックがしてある部屋の前に立って魔法で無理やり扉をこじ開ける。
ギギギと軋む音が聞こえる。
その中には人工知能とハゲたおっさんが1人いる。
「おーい、ロン! 俺の武器できた?」
ハゲたおっさんーー【ロン】は苛立った様子で返事をする。
「また来たのか! ちょっと待ってろ、今仕事してんだよ」
個人武器屋を営んでいるハゲたおっさんである【ロン】とは8年の付き合いになる。
元王国大手兵器工場であるニヒル第3兵器工場の重役という結構な経歴を持つおっさんだ。
昔、新兵器開発中に実験事故に巻き込まれて体の半分を失ったらしい。
その時に、工場の重役のほとんどはエリクサーと呼ばれるなんでも治す万能薬を使用してくれたらしいが、ロンには使われなかった。
その代わりに体の半分を機械化するマシンモディフィケーション(略して『M2手術』)と呼ばれる手術を受けさせられた。
ロンとアレクが最初に出会ったのはアレクが12歳の時のことだ。
日々修行と勉学に明け暮れ、自分を鍛えに鍛えているときにふと思ってしまったのだ。
ーー俺は、本当に自由への道を歩いているのか?
ずっと仕事と勉強と修行をしているが、遊びをした覚えがなかった。
ーーやっぱり息抜きは必要だよな。
ということで、アイ以外には見つからないように屋敷を抜け出して、初めて声をかけた人間がロンだった。
初めは人型AIはどんなものなのかと思って声をかけたのだが、まさかの本物の人間んだったわけだ。
初めて会ったときのロンはロボット専用のスクラップ工場のゴミの山の上で仰向けになって倒れていたのだ。
その時のロンの顔は人をやめたような、本当にロボットにでもなったかのような顔をしていた。
アレクは気になって声をかけた。
すると、ノイズのひどい男の声が返ってきたのだ。
「・・・誰だ」
「名を聞きたいなら、まずお前から名乗るのが筋だろ」
アレクは少しイラッとした気持ちになって返事をした。
これがアレクとロンが初めて会った時の話だった。
それから、ロンがすごい技術を持った技術士であることがわかると、その技術は使えると思ったアレクは空いていたペナントを自分のポケットマネーで買って、ロンをそこで働けるようにした。
アレクの本当の目的はロンを働かせることではなくて、ロンの技術を使って自分に必要なものを作らせるためのものだ。
ロンはそれをわかっているのかどうかはわからないが、そこで働くことになった。
これが『ロンの武器屋』の始まりだ。
今では、結構な人気の店になっていて、個人で使用する武器屋、セキュリティーシステムや装置を開発販売している。
それからは徐々に仲良くなっていって、今では軽口を叩くくらい仲良くなっていた。
「おい。早くしろよ」
「ちょっと待ってろって言ってんだろ。今、お前の注文の品をやってんだよ」
「そうかーー早くしろよ」
アレクはAIが持ってきたお茶を飲んで待つことにした。
本の数十分後、ロンは二つの品を持ってアレクのところに来た。
「お前な~。来るなら来ると連絡の一本でもよこせっていつも言ってるよな?」
ロンは険しい顔のままぶっきらぼうに言った。
アレクはそれを面白そうに聞いて返事をする。
「はいはい、いつもうるさいな~。あんたは俺のオカンかよ。 で、俺が頼んだ品はできた?」
「ああ、できてる」
ロンはそう言って作業台の上にその品を置いた。
一つは脇差と呼ばれる小太刀が一振り。
もう一つは長い柄の先端に大きな刃をつけた矛。
「おお。注文通りのものができてるな」
ロンはアレクを睨むように言う。
「こんな物を作れと言われたのは初めてだ。貴族のほとんどはミスリルで作った剣を持つもんだがーーお前、なんでこんなものが必要なんだ?」
「そんなの戦いになったら必要になるかもしれんからな。用意しておこうと思っただけ」
アレクは小太刀を手に取る。
「お前が持ってたあの名前のない刀を解析してやっとできた短刀だ。 なあ、あの刀はなんなんだ? 調べれば調べるほどわからないことが出てくるんだが」
「俺も知らん。屋敷の中から出てきたもんだからな。 で、俺が注文したのは刀のはずだが」
アレクがそう言うと、奥からAIが刀を10本ほど持ってきた
「刀は作ったが、結局普通の刀と同じになっちまった。その小太刀だけがあの刀ににた性質を持つことができた。まあ、似てるだけで同じじゃない。オリハルコンや魔鉱石、ヒヒイロカネなんかをうまいこと混ぜて練り込んで鍛えたもんだ」
その小太刀を鞘から抜くと中から緋色の刀身が姿を見せる。
アレクが少し力を入れるように握る。
腕からアレクの魔力を刀身に流すと刀身が徐々に暗い赤紫のような色に変わる。
「魔力を流すと魔力石が反応して刀身が持ち主の魔力を放出する。もうこれは魔剣とか妖刀とかの類だな」
「・・・まあ、いいじゃないか」
アレクは鞘に戻して作業台の上に置く。
もう一つの品である矛を手に取る。
「これはいいな」
「それはなかなかの一品物だ。これ作んの大変だったんだぞ」
そう言ってロンは肘をついてお茶を啜る。
この矛は紫紺の長い柄、刃と柄を黄金の繋ぎ留めで固定し、刃は美しい透き通った銀色をしている。
アレクが魔力を流すとそれに反応するように矛全体が薄く光る。
「そいつはな~オリハルコンとミスリルをたらふく使って凝縮させて鍛えた逸品だ。一品物だからな」
「すごいなこいつはーーさすが、いい仕事をする」
アレクがロンを誉めた。
ロンはアレクの方を見て驚いた顔をした。
「いきなりどうした? 俺を褒めるなんて、今日は槍の雨でも降るのか?」
「馬鹿野郎。褒めるときは褒めるに決まってるだろう・・・これ、もらってくぞ」
「はよ持ってけ、邪魔なんだよ」
「いくらだ?」
「いらねえ。流石の俺も店をもらって置いて金をせびるほどクズになった覚えはねえ」
そう言って、また路温は茶を啜った。
アレクはもう一度、矛と小太刀を見た。
アレクがこれを注文したのには訳があった。
ここ数年で領内に不穏な動きがあることが屋敷にいる統治用のAIによりわかった。
その活動をしているのが俺の分家、つまり従兄弟にあたる人間5名が主導で活動しているらしい。
目的はどうもアレクで、しかも領主の座を狙っているのだとか。
アレクもこれさっさと潰しておかないといけないと思ったのだが、いかんせん、ここの領地の6分の5をこれまで統治していたので、軍の半数ほどがこの5人に協力しているようなのである。
これは裏切りである。
そして、アレクはその裏切りが一番この世で嫌いなことだ。
ーー全ての諸悪は潰さなければならないな。
その気持ち一つで作戦を思いついた。
それは単純で、正面から戦って圧倒的な勝利を収めればいいと言う物だった。
現在、アイとクロード主導で作戦を敵の情報収集を行なっているところだ。
そして、アレク自身も戦うつもりなのだった。
ロンがアレクに言った。
「なあ、最近妙な噂を耳にしたんだが」
「なんだよ」
「分家の奴らが下剋上するかもしれんんと言うやつ」
「ああ、あれね。まじだよそれ」
ロンはマジかーと一言呟いた。
「最近、妙にレーザーガンや飛行艇、ミサイルなんかの注文が多いと思ったらそう言うことか」
「なんだ? どんな注文を受けたんだ?」
アレクはロンに聞いた。
ロンは申し訳なさそうな顔で言った。
「まあ、ほとんどがレーザー兵器だ。あとは対城兵器に飛行艇か・・・宇宙作戦用の兵器が一つも注文がないもんだからおかしいと思ったんだよ・・・すまん」
アレクはなんでもないような顔をして小太刀を見ていた。
「何も問題ないな。そのまま注文を受けて立派な兵器を開発したらいい」
「お、お前。領主をやめるつもりなのか?」
アレクはロンの言っていることがわからなかった。
ーーはあ? とうとう頭もおかしくなったのだろうか。
領主をやめたらアレクは絶対に普通には暮らしていけない。
それなのに、領主をやめるとか意味がわからない。
「何言ってんだ? やめるつもりなんてさらさらない」
「じゃあ、どうするんだよ」
「美味しくなるまで寝かしておくんだよ」
アレクは余裕そうにお茶を飲み干した。
「勝つことしかできないわ」
◆
部屋の中の片付けをしていた。
機械類が散乱していたから、そろそろ片付けないといけないと思っていたところだった。
アレクが店から出て行って、ロンは一息ついた。
「ウェルロッド家の領主様はおかしな人だ」
Aがお茶を運んでくれた。
「なんで俺なんかを救ってくれたんだろうか」
ロンは正直、どうやってこの恩を領主様に返せばいいか悩んでいた。
本当なら死んでいてもおかしくない。
全てを失ったロンは死のうと思ってスクラップ工場に行ったのだから。
それなのに、あの領主様ときたら。
「領主様のために働けってか・・・全然働くけど、ここまで用意するとはな・・・あれで20歳か」
20歳なんてまだ親の愛情を受けて遊んで暮らしている年だろう。
まだまだ子供のはずなのに、あんな感じになってしまった。
ロンはどこかアレクのことをかわいそうな子供のように見ていた。
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