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第1章 努力は一瞬の苦しみ、後悔は一生の苦しみ
商売仲間!
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応接室にアレクと1人の小柄で少し太った男が対面していた。
男の後ろにはスマートで知的な女が1人立っている。
「アレク様。こちらをお納めくださいませ」
「おお! よきにはからえ!」
男は女から木箱に詰められたお菓子を受け取りアレクに渡した。
アレクはニコニコした顔をして中を確認する。
箱の中には洋菓子、和菓子の詰め合わせが入っており、少し寄せるとーー奥には輝かしい黄金の小判の詰め合わせ。
「素晴らしい! さすが腹黒い奴タンタラ商会よ」
「いえいえ、これくらいなら全然ですよ。それと、何度も申しておりますがタンタラではなく【ダルシー】商会です」
ウェルロッド家の御用商人をしているダルシー商会、その会長をしている【フレディー・ダルシー】はもう何度もアレクの元を訪ねいていた。
元々、商売範囲を拡張するためにアレクの元を訪ねたフレディーだったが、アレクの政策手腕と、お互いウィンウィンの関係で、フレディー自身ももうけてアレク自身も儲けるようにという言葉を聞いてからフレディーはアレクのことを素晴らしい人だと思った。
それから、数年の時を経てウェルロッド家の所有する領地が急速な勢いで発展していく姿を見ているため、アレクのことを領主として、商売相手として、人として信頼していた。
今となってはウェルロッド家専門の御用商人にまでなっていた。
「それで、今回はどんな要件で来たんだフレディー?」
ダルシーの秘書【リサ・ダルシー】が資料をアレクとフレディーに見えるように映し出す。
フレディーが資料について説明する。
「この度、お願いがあり参りました。今回扱う商品がこちらになっておりましてーー」
そして、簡潔にわかりやすい説明が始まった。
アレクは紅茶を飲みながらそれを聞く。
正直、それがどんな役割を担っているのかわからにが、フレディーの表情から大事な商談になることはわかる。
「ーーという大事な商談になると思っております」
「で、俺に何をして欲しいんだ」
「はい。ここからこの惑星まで行くのに少々距離がありまして、道中の安全を確保したいのでアレク様の所有している艦隊を貸していただきたいのです。こちらとしては100隻ほどお借りしたいです」
アレクは紅茶をテーブルに置いた。
なるほどなるほど、つまり、俺の軍事力が欲しいのだな。
俺としては、全く問題ない話だ。
「そんなに危ないものなのか?」
「はい。元々、宇宙海賊や野良の犯罪者が多くおりまして、今回の経路は数ヶ月前にも同業の者が3回ほど襲われたらしくてですね。安全に航海するためにも5カ月間お借りしたいのです」
宇宙海賊は宇宙用戦闘艦を保有したれっきとした犯罪集団だ。
ただの犯罪集団なら簡単に滅ぼして仕舞えばいいのだが、こいつらは意外と力を持っている。
下手な軍隊よりも数が多かったり、貴族とのつながりを持っていたりもする。
この国では意外と根深い問題になっている。
アレクはそんな奴らが気に入らない。
正義心とかそういうのがあるわけではない。
自分以外の悪が許せないだけなのだ。
アレクはフレディーのそれを聞いて指を鳴らす。
「アイ。100隻なら直ぐ用意できるか?」
『はい、5カ月ほどであればすぐにでもご用意できます。1年以上であれば少々準備が必要になります』
俺はそれを聞いてニヤリと口角を上げる。
「いいだろう。100隻の艦隊を貸してやろう。。ただしーー」
フレディーが少し困惑した顔をする。
「それはお互いに儲けられる話なんだろうな?」
「はい! 儲けられる話でございます」
フレディーが自信満々に言った。
アレクはアイに言った。
「ならすぐに用意してやれ」
『はい、かしこまりました』
アレクは満足そうに紅茶を飲み干した。
ーーしっかり儲けてこいよフレディー。いや、ダルシー商会。
◆
大型の輸送船が、宇宙港からちょうど出航した。
地上から宇宙エレベーターでつながっているその港は、擬似重力場により惑星内にいるのと同じような感じで歩くことができる。
船に乗り込むための連絡橋は無重力空間となっていて、そこから船に乗り込むことができる。
フレディー・ダルシーは連絡橋を渡り、自身の輸送船に乗り船の中にあるラウンジでお茶を飲んで一息ついていた。
「あの没落貴族と言われていたウェルロッド家をあそこまで立派にするとは、あの若様ーーいえ、伯爵様はとても優秀なお方なのでしょう」
フレディーの正面に座ったリサがアレクの資料を見てそう言った。
ウェルロッド家は商人の中ではマイナーもマイナーな貴族。
国に借金して、もう搾り取れるだけの金も何もない存在と認識されている。
しかし、アレクに当主が交代してから速やかな改善政策に取り掛かられた。
フレディーはそこに目を付けた。
ーー幼いにも関わらず当主になってから1年と経たずに新しい政策に乗り出す人とは一体どんな子供なのだろうか。
初めて会った時のことを今でもよく覚えている。
応接室に通された私はその子供をなんと行儀の悪い子供なのだろうと思った。
足をテーブルの上で組んで、腕も組んで座っていた。
ーーああ、ウェルロッド家は子育てを間違えたな。
当時はそう思った。
しかし、それは私の浅はかな考えだったと思い知らされた。
その子供、いやーー伯爵様は私が出した資料をしっかりと目を通して、私の話をしっかりと最後まで聞いた。
そして、初めてその口を開いた。
「・・・それで、お前はどうしたいんだ?」
私はその意味が初めは分からなかった。
「で、ですので、この商品は伯爵様のところで必要になるものかと」
「それはわかる。確かに俺のところにはないものだ。どこから入手するべきか少し悩んでいたところでもある」
「でしたら」
「俺が言いたいのはそこじゃない」
伯爵様は机に置いていた足を床に下ろした。
そして、真っ直ぐと私の目を見た。
「これを俺に売って、お前は金を得てーーそれで何をしたいんだ?」
ーー驚いた。
私はただ、驚いた。
そして、一瞬でこの若すぎる当主がーー伯爵様が恐ろしい人だと理解した。
「私は・・・私は、別に特別なにかしたいというわけではありません」
この目の前にいる子供は人の根本を見抜こうとしているのだ。
私が信頼できる人間なのかどうかを。
商売人の多くは悪事を働いて大儲けしてやろうという人間は多くいる。
それに知ってか知らずかは人によるが加担する貴族も多くいる。
それは王国では犯罪に値する。
しかし、王国自体が現状目を瞑っている状態だ。
それなのに、ここにいる伯爵様はしっかりと相手を選んでいる。
商談相手のことを知ろうとしている。
このようなことをする貴族を私は会ったことがなかった。
「ただ、何においてもそうですが、自分の好きなことをするにしても、相手を幸せにしたいにしてもお金は必要だと私は考えております。つまり、お金が全てであると考えています。まあ、個人的にもお金が好きなのですがね」
私の前でニヤリと伯爵様は笑った。
「いいだろう。これは買おう」
「あ、ありがとうございます!」
これまで色々な商談をしていたがこんなにヒヤリとしたのは久しぶりだった。
そして、こうも思った。
ーーこの伯爵様は何か不思議なものを持っている気がする。
初めて会った時の太々しさも、今思い返すとカリスマ性の現れのように見える。
相手の目をずっと見て人の値踏みをするところも普通の人にはできない行動だ。
私はこの時、この伯爵様の御用商人になりたいと思ったのだ。
それから御用商人になりたいことを伝えると伯爵様はその場でそれを許可した。
その時にも伯爵様は私にこう言った。
「いいか。俺だけが儲けても仕方がない。お前だけが儲けても仕方がない。お互いに儲けれる話を持ってこい」
私はこの時に確信したのだ。
ーーこの人は間違いなく名君だ!
普通の貴族なら御用商人に対して自分が儲けれるようにしろというだろう。
私たち町人はそれをうまく利用して商売をするものなのだが、この伯爵様は違った。
まさか、お互いに儲けれるように話てくれるとは思わなかった。
それ以降、ウェルロッド家の御用商人として働いている。
フレディーは少し過去のことを思い出してほっこりしていた。
「リサ、今のうちに伯爵様としっかりと面識を持って信頼を得るようにしておくんだよ」
リサは少しフレディーを疑うような目で見た。
「お父様がそこまで肩入れするのには訳があるのでしょうが。私にはそれほどの人には見えないのです。あんなものでよろこぶような人は本当にそれほどすごい人なのでしょうか」
黄金はそれほど珍しいものではない。
黄金という資源は他の惑星でも取れるそれほど希少価値のあるものではない資源だ。
精製方法も確立しており、天然のものと人工のもので多少の価値は変わるものの、そこまで違いはない。
日本で生きていた頃の価値観がまだ抜けていないアレクは黄金がとても価値のあるものに見えているだけなのだ。
「私もなぜ黄金が好きなのかは分からないが、それだけを見て決めるのではまだまだだねーーそれにしても、本当になんで黄金がいいんだろうね」
そう言ってフレディーは一口お茶を飲む。
「あの伯爵様は、態度や表情ではその本質を見ることはできないが、時たま発する言葉は真意をついているものだ」
フレディーは振り返って宇宙船の中からウェロッド寮の惑星を見る。
「それに私はウェルロッド領出身だったからよくわかるんだ。前当主と違い、得られた税のほとんどを領内の投資に当てて、民の生活のために使っていると。これは普通なら当たり前のことで、どんな人でも考えることだろう。しかし、その当たり前のことを当たり前のようにするのは思いのほか難しい。まして、あの年でそれができてしまうのだから、伯爵様はとんでもないお人なのだろう」
「そうなのですか。私にはまだそういうふうには見えませんでした・・・私もまだまだです」
リサは少し落ち込んだ。
しかし、リサの目にはアレクという伯爵がそれほどの人には見えなかった。
面会中だというのに他の貴族よりも太々しい態度、終始ニヤリと少し不気味に笑うその姿。
そして、ほとんど話を聞かず、一言「儲けられるのか?」だけで商談のほとんどの内容を終わらせる姿は、リサからみればただただめんどくさいから全てお父様に任せているようにしか見えなかった。
これはリサという人間の経験によるもので、実際にアレクの心情的に当たらずとも遠からずといったところだった。
「本当に名君なのでしょうか?」
リサは少し疑問に持ちながら、この先も商人の娘として精進していこうと心で誓ったのだった。
◆
アレクはこの商談の話を聞いた後、執務室に戻って黄金の小判を眺めていた。
「ああ、やっぱり黄金は美しい! フレディーはやっぱりいいやつだな!」
やっぱりお金持ちに感を出していくには黄金を集めるに限ると思う。
かの有名な豊臣秀吉は自身の力を皆に知らしめるために黄金の茶室を作ったと言われているーーまあ、ただ自身の趣味だとも言われているが。
俺も、黄金の茶室とかそういうのが欲しいと思った。
「ふふふっ! いい! めちゃくちゃいいッ!」
アイが俺の前で浮かんでいる。
『旦那様。少々趣味が悪いかと思いますよ』
「いいだろ。俺はこの色が好きなの。あと紫が好きかなー」
アイが呆れているかのようにレンズを横にフルフルと振った。
最近のアイは感情表現が豊かになってきた気がする。
AIもそういう感情が豊かになるのか。
そう思ったアレクは少し不貞腐れた感じで小判を箱にしまう。
「にしてもフレディーは本当にいいやつだな。俺は何もしてないのにお金を運んでくれるんだぜ」
俺がフレディーを御用商人にしたのは、実際はたまたまの産物だった。
よく分からないまま、ただただいいよって許可を出してしまい、引くに引けなくなったからとりあえず釘を打つ感じでwin-winの関係でということで落とし所を作ったのだ。
そしたら、どんどんこっちに有益な話を持ち込んでくるわ、俺のところの商品を売りに出て言ってくれるわ、行商人のようなことをしてくれるわ、そしたらこっちにお金を落として言ってくれるわで、入ってくる金額がおかしなことになっていったのだ。
正直、何にもわかんないのにこんなことになっているのが怖い。
けど、まあ、いいようにいっているのならいいのかなと思っている。
『それはしっかりとwin-winな取引をしているからですよ。そして、それダルシー商会が旦那様を信頼しているということですよ。信頼、信用を失うのは一瞬なのですから大切にしないといけませんよ』
「はいはい。それ、何回も聞いたから。アイは俺のオカンか!」
『お母様ではありませんよ。ただの統治サポートAIです』
「そうだったな。まあ、そんなことはどうでもいいんだよ」
アレクは机の上にある万年筆でペン回しを始める。
「あれだな、信頼してくれるのはいいが、俺はそこまでしてないぞ」
『旦那様はそうかもしれませんね。旦那様も、そろそろ人としっかりとお話しされてはいかがですか?』
アイはアレクから満ん縁ひつを取り上げて、元の位置に戻す。
「ちゃんと話してるだろ」
『まともに会話したのはクロード様とロン様くらいです』
「2人もいるじゃないか! それにフレディーはどうなんだ! ほらさっきだって話してたし」
『フレディー様がずっと話してただけですよね。旦那様は少し質問してそれで終わりです』
「だ、だって、なんか怖くて」
アイがダメな子を見るような目で俺を見た。
『今度はフレディー様とも少しはお話しなされてください。そうして少しづつでいいので他の人ともお話しすれば、不自由なくコミュニケーションができるようになりますから』
「・・・はいはい、わかったよ・・・なんか、病人みたいじゃないか」
『人間不信という病気でございます』
こうやって今日も今日とて1人と一機だけで会話が進んでいった。
男の後ろにはスマートで知的な女が1人立っている。
「アレク様。こちらをお納めくださいませ」
「おお! よきにはからえ!」
男は女から木箱に詰められたお菓子を受け取りアレクに渡した。
アレクはニコニコした顔をして中を確認する。
箱の中には洋菓子、和菓子の詰め合わせが入っており、少し寄せるとーー奥には輝かしい黄金の小判の詰め合わせ。
「素晴らしい! さすが腹黒い奴タンタラ商会よ」
「いえいえ、これくらいなら全然ですよ。それと、何度も申しておりますがタンタラではなく【ダルシー】商会です」
ウェルロッド家の御用商人をしているダルシー商会、その会長をしている【フレディー・ダルシー】はもう何度もアレクの元を訪ねいていた。
元々、商売範囲を拡張するためにアレクの元を訪ねたフレディーだったが、アレクの政策手腕と、お互いウィンウィンの関係で、フレディー自身ももうけてアレク自身も儲けるようにという言葉を聞いてからフレディーはアレクのことを素晴らしい人だと思った。
それから、数年の時を経てウェルロッド家の所有する領地が急速な勢いで発展していく姿を見ているため、アレクのことを領主として、商売相手として、人として信頼していた。
今となってはウェルロッド家専門の御用商人にまでなっていた。
「それで、今回はどんな要件で来たんだフレディー?」
ダルシーの秘書【リサ・ダルシー】が資料をアレクとフレディーに見えるように映し出す。
フレディーが資料について説明する。
「この度、お願いがあり参りました。今回扱う商品がこちらになっておりましてーー」
そして、簡潔にわかりやすい説明が始まった。
アレクは紅茶を飲みながらそれを聞く。
正直、それがどんな役割を担っているのかわからにが、フレディーの表情から大事な商談になることはわかる。
「ーーという大事な商談になると思っております」
「で、俺に何をして欲しいんだ」
「はい。ここからこの惑星まで行くのに少々距離がありまして、道中の安全を確保したいのでアレク様の所有している艦隊を貸していただきたいのです。こちらとしては100隻ほどお借りしたいです」
アレクは紅茶をテーブルに置いた。
なるほどなるほど、つまり、俺の軍事力が欲しいのだな。
俺としては、全く問題ない話だ。
「そんなに危ないものなのか?」
「はい。元々、宇宙海賊や野良の犯罪者が多くおりまして、今回の経路は数ヶ月前にも同業の者が3回ほど襲われたらしくてですね。安全に航海するためにも5カ月間お借りしたいのです」
宇宙海賊は宇宙用戦闘艦を保有したれっきとした犯罪集団だ。
ただの犯罪集団なら簡単に滅ぼして仕舞えばいいのだが、こいつらは意外と力を持っている。
下手な軍隊よりも数が多かったり、貴族とのつながりを持っていたりもする。
この国では意外と根深い問題になっている。
アレクはそんな奴らが気に入らない。
正義心とかそういうのがあるわけではない。
自分以外の悪が許せないだけなのだ。
アレクはフレディーのそれを聞いて指を鳴らす。
「アイ。100隻なら直ぐ用意できるか?」
『はい、5カ月ほどであればすぐにでもご用意できます。1年以上であれば少々準備が必要になります』
俺はそれを聞いてニヤリと口角を上げる。
「いいだろう。100隻の艦隊を貸してやろう。。ただしーー」
フレディーが少し困惑した顔をする。
「それはお互いに儲けられる話なんだろうな?」
「はい! 儲けられる話でございます」
フレディーが自信満々に言った。
アレクはアイに言った。
「ならすぐに用意してやれ」
『はい、かしこまりました』
アレクは満足そうに紅茶を飲み干した。
ーーしっかり儲けてこいよフレディー。いや、ダルシー商会。
◆
大型の輸送船が、宇宙港からちょうど出航した。
地上から宇宙エレベーターでつながっているその港は、擬似重力場により惑星内にいるのと同じような感じで歩くことができる。
船に乗り込むための連絡橋は無重力空間となっていて、そこから船に乗り込むことができる。
フレディー・ダルシーは連絡橋を渡り、自身の輸送船に乗り船の中にあるラウンジでお茶を飲んで一息ついていた。
「あの没落貴族と言われていたウェルロッド家をあそこまで立派にするとは、あの若様ーーいえ、伯爵様はとても優秀なお方なのでしょう」
フレディーの正面に座ったリサがアレクの資料を見てそう言った。
ウェルロッド家は商人の中ではマイナーもマイナーな貴族。
国に借金して、もう搾り取れるだけの金も何もない存在と認識されている。
しかし、アレクに当主が交代してから速やかな改善政策に取り掛かられた。
フレディーはそこに目を付けた。
ーー幼いにも関わらず当主になってから1年と経たずに新しい政策に乗り出す人とは一体どんな子供なのだろうか。
初めて会った時のことを今でもよく覚えている。
応接室に通された私はその子供をなんと行儀の悪い子供なのだろうと思った。
足をテーブルの上で組んで、腕も組んで座っていた。
ーーああ、ウェルロッド家は子育てを間違えたな。
当時はそう思った。
しかし、それは私の浅はかな考えだったと思い知らされた。
その子供、いやーー伯爵様は私が出した資料をしっかりと目を通して、私の話をしっかりと最後まで聞いた。
そして、初めてその口を開いた。
「・・・それで、お前はどうしたいんだ?」
私はその意味が初めは分からなかった。
「で、ですので、この商品は伯爵様のところで必要になるものかと」
「それはわかる。確かに俺のところにはないものだ。どこから入手するべきか少し悩んでいたところでもある」
「でしたら」
「俺が言いたいのはそこじゃない」
伯爵様は机に置いていた足を床に下ろした。
そして、真っ直ぐと私の目を見た。
「これを俺に売って、お前は金を得てーーそれで何をしたいんだ?」
ーー驚いた。
私はただ、驚いた。
そして、一瞬でこの若すぎる当主がーー伯爵様が恐ろしい人だと理解した。
「私は・・・私は、別に特別なにかしたいというわけではありません」
この目の前にいる子供は人の根本を見抜こうとしているのだ。
私が信頼できる人間なのかどうかを。
商売人の多くは悪事を働いて大儲けしてやろうという人間は多くいる。
それに知ってか知らずかは人によるが加担する貴族も多くいる。
それは王国では犯罪に値する。
しかし、王国自体が現状目を瞑っている状態だ。
それなのに、ここにいる伯爵様はしっかりと相手を選んでいる。
商談相手のことを知ろうとしている。
このようなことをする貴族を私は会ったことがなかった。
「ただ、何においてもそうですが、自分の好きなことをするにしても、相手を幸せにしたいにしてもお金は必要だと私は考えております。つまり、お金が全てであると考えています。まあ、個人的にもお金が好きなのですがね」
私の前でニヤリと伯爵様は笑った。
「いいだろう。これは買おう」
「あ、ありがとうございます!」
これまで色々な商談をしていたがこんなにヒヤリとしたのは久しぶりだった。
そして、こうも思った。
ーーこの伯爵様は何か不思議なものを持っている気がする。
初めて会った時の太々しさも、今思い返すとカリスマ性の現れのように見える。
相手の目をずっと見て人の値踏みをするところも普通の人にはできない行動だ。
私はこの時、この伯爵様の御用商人になりたいと思ったのだ。
それから御用商人になりたいことを伝えると伯爵様はその場でそれを許可した。
その時にも伯爵様は私にこう言った。
「いいか。俺だけが儲けても仕方がない。お前だけが儲けても仕方がない。お互いに儲けれる話を持ってこい」
私はこの時に確信したのだ。
ーーこの人は間違いなく名君だ!
普通の貴族なら御用商人に対して自分が儲けれるようにしろというだろう。
私たち町人はそれをうまく利用して商売をするものなのだが、この伯爵様は違った。
まさか、お互いに儲けれるように話てくれるとは思わなかった。
それ以降、ウェルロッド家の御用商人として働いている。
フレディーは少し過去のことを思い出してほっこりしていた。
「リサ、今のうちに伯爵様としっかりと面識を持って信頼を得るようにしておくんだよ」
リサは少しフレディーを疑うような目で見た。
「お父様がそこまで肩入れするのには訳があるのでしょうが。私にはそれほどの人には見えないのです。あんなものでよろこぶような人は本当にそれほどすごい人なのでしょうか」
黄金はそれほど珍しいものではない。
黄金という資源は他の惑星でも取れるそれほど希少価値のあるものではない資源だ。
精製方法も確立しており、天然のものと人工のもので多少の価値は変わるものの、そこまで違いはない。
日本で生きていた頃の価値観がまだ抜けていないアレクは黄金がとても価値のあるものに見えているだけなのだ。
「私もなぜ黄金が好きなのかは分からないが、それだけを見て決めるのではまだまだだねーーそれにしても、本当になんで黄金がいいんだろうね」
そう言ってフレディーは一口お茶を飲む。
「あの伯爵様は、態度や表情ではその本質を見ることはできないが、時たま発する言葉は真意をついているものだ」
フレディーは振り返って宇宙船の中からウェロッド寮の惑星を見る。
「それに私はウェルロッド領出身だったからよくわかるんだ。前当主と違い、得られた税のほとんどを領内の投資に当てて、民の生活のために使っていると。これは普通なら当たり前のことで、どんな人でも考えることだろう。しかし、その当たり前のことを当たり前のようにするのは思いのほか難しい。まして、あの年でそれができてしまうのだから、伯爵様はとんでもないお人なのだろう」
「そうなのですか。私にはまだそういうふうには見えませんでした・・・私もまだまだです」
リサは少し落ち込んだ。
しかし、リサの目にはアレクという伯爵がそれほどの人には見えなかった。
面会中だというのに他の貴族よりも太々しい態度、終始ニヤリと少し不気味に笑うその姿。
そして、ほとんど話を聞かず、一言「儲けられるのか?」だけで商談のほとんどの内容を終わらせる姿は、リサからみればただただめんどくさいから全てお父様に任せているようにしか見えなかった。
これはリサという人間の経験によるもので、実際にアレクの心情的に当たらずとも遠からずといったところだった。
「本当に名君なのでしょうか?」
リサは少し疑問に持ちながら、この先も商人の娘として精進していこうと心で誓ったのだった。
◆
アレクはこの商談の話を聞いた後、執務室に戻って黄金の小判を眺めていた。
「ああ、やっぱり黄金は美しい! フレディーはやっぱりいいやつだな!」
やっぱりお金持ちに感を出していくには黄金を集めるに限ると思う。
かの有名な豊臣秀吉は自身の力を皆に知らしめるために黄金の茶室を作ったと言われているーーまあ、ただ自身の趣味だとも言われているが。
俺も、黄金の茶室とかそういうのが欲しいと思った。
「ふふふっ! いい! めちゃくちゃいいッ!」
アイが俺の前で浮かんでいる。
『旦那様。少々趣味が悪いかと思いますよ』
「いいだろ。俺はこの色が好きなの。あと紫が好きかなー」
アイが呆れているかのようにレンズを横にフルフルと振った。
最近のアイは感情表現が豊かになってきた気がする。
AIもそういう感情が豊かになるのか。
そう思ったアレクは少し不貞腐れた感じで小判を箱にしまう。
「にしてもフレディーは本当にいいやつだな。俺は何もしてないのにお金を運んでくれるんだぜ」
俺がフレディーを御用商人にしたのは、実際はたまたまの産物だった。
よく分からないまま、ただただいいよって許可を出してしまい、引くに引けなくなったからとりあえず釘を打つ感じでwin-winの関係でということで落とし所を作ったのだ。
そしたら、どんどんこっちに有益な話を持ち込んでくるわ、俺のところの商品を売りに出て言ってくれるわ、行商人のようなことをしてくれるわ、そしたらこっちにお金を落として言ってくれるわで、入ってくる金額がおかしなことになっていったのだ。
正直、何にもわかんないのにこんなことになっているのが怖い。
けど、まあ、いいようにいっているのならいいのかなと思っている。
『それはしっかりとwin-winな取引をしているからですよ。そして、それダルシー商会が旦那様を信頼しているということですよ。信頼、信用を失うのは一瞬なのですから大切にしないといけませんよ』
「はいはい。それ、何回も聞いたから。アイは俺のオカンか!」
『お母様ではありませんよ。ただの統治サポートAIです』
「そうだったな。まあ、そんなことはどうでもいいんだよ」
アレクは机の上にある万年筆でペン回しを始める。
「あれだな、信頼してくれるのはいいが、俺はそこまでしてないぞ」
『旦那様はそうかもしれませんね。旦那様も、そろそろ人としっかりとお話しされてはいかがですか?』
アイはアレクから満ん縁ひつを取り上げて、元の位置に戻す。
「ちゃんと話してるだろ」
『まともに会話したのはクロード様とロン様くらいです』
「2人もいるじゃないか! それにフレディーはどうなんだ! ほらさっきだって話してたし」
『フレディー様がずっと話してただけですよね。旦那様は少し質問してそれで終わりです』
「だ、だって、なんか怖くて」
アイがダメな子を見るような目で俺を見た。
『今度はフレディー様とも少しはお話しなされてください。そうして少しづつでいいので他の人ともお話しすれば、不自由なくコミュニケーションができるようになりますから』
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