anything ~elf’s life~

むひ

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裏の事情

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 エルヒムは大会運営の控え室をノックした。
「すいません。お願いがあって参りました」
皺がれた老人五名椅子に座っている。いかにもこの街を牛耳っていそうな面子だった。
「ファノの親友が捕えられ、今助けに行きました。大会は棄権するそうです。そしてマビル、ピッツオも共に。そして私も行こうかと思っています。なのでどうか一時中断という訳にはいきませんか?」
五老人はヒソヒソと話し合い。一番中央の老人が口を開く。
「確かにファノ、マビル、ピッツオは大会の目玉。そしてエルヒムも突如現れたルーキーとして盛り上がっておる。しかしだな。大会を止める訳にはかんのじゃ」
「なぜですか?」エルヒムは老人の目に光が灯っていないのを見た。
「ワシらだけではどうしようもできん事情というものがある」
はっきりしないその態度にイライラする。
「なんなんですか、その事情って」
老人の目がエルヒムの目を捕らえる。
「お主に言う義務はない!」

 その後も押したり引いたりしたが埒が明かないようだ。
外に出た時にはもう空が暗かった。
とりあえずファノを追わなければとカラバートを出た。しかしながら行先を聞いていないので何処へ言って良いものか。可能性を見ればダッタン国だがそんな正々堂々正面からぶつかりはしないだろう。
「それはないか」
ひとまずダッタン国の方角に向かった。

 夜も更けたせいか方角が分からない。今日は新月なので月明かりも頼りにならなかった。
ひとまず夜を明かそう。それが答えだった。ずっと晴れが続いていたので簡単なものでいいだろう。ポンチョを斜めに張り夜露避けを作った。
今から薪を集めるとなると時間がかかる。エルヒムはバックパックから5セルチ程の円筒型の缶を出した。そこにはアルコールが入っており、簡単なバーナーとなる。飯盒に水を入れ、干し肉、そこに生えていたタンポップの葉を入れ煮込んだ。
湯気が立ち、煮えたようだ。バーナーから降ろし汁をすする。タンポップの苦味がアクセントとなる。干し肉の塩気が程よく溶け込み体を暖めた。
ブランケットで体を包み眠りに落ちそうな時、草むらから音がした。「誰だ?」
頭に花を咲かせた少女がじっとこっちを見ていた。
「なんだ、プルリか」
プルリは自然の妖精の総称でどこにでもいる。
「食べ物はもう無いよ、あっちへお行き」
プルリは悲しげな目をして去っていった。
プルリが出る森はエーテルで満ちた森であることが多い。旅人を見つけては遊んで欲しいのか寄ってくる。
ちょっと邪気にされて拗ねただろうな。
「また今度遊んでやるからな」
プルリはサラサラと光の粉と共に消えていった。
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