16 / 22
新たな一歩
しおりを挟む
エルヒムは立ち上がった。
「俺は…行かせてもらう」
「何処へだ」
「分からない。分からないが俺のいるべき場所はここでは無いと思う。だから行かせてもらう」
「そうか、好きにしたまえ。我々の仲間の要請を断った以上なんの助力もせんぞ。まもなく追っ手が来るだろう。我々も逃げたと報告するしかない。それでも良いなら行け。見つけてみよ己の居場所とやらを」
誰も止めるものはいなかった。ただ外へ出る僕に向けられた目は決意を感じさせるものがあった。
アーダンに目をやるとアーダンは小さく会釈をした。
自分たちの信じた道を一心に見つめる瞳。その瞳が怖かった。
屋敷を出たはいいがほんとにどうすればいいのか分からない。とりあえず村も心配だったので村の方に歩いた。
「追っ手ってそんな俺は大層なもんじゃないぞ…ん?」
バサァっと空から音がしたので上を向くと巨大な鳥がエルヒムに向けて急降下していた。
「え?え?鳥?しかもデカ!おわ!」
間一髪横に飛び退いた。怪鳥は尚も攻撃を続ける。回転しながらくちばしがドリルのように襲いかかる。エルヒムは重心を低くし半身でかわし当て身を当てたがそこは体重差が大きすぎる。自分が弾き飛ばされた。倒れた所へ爪が襲う。避けきれない。
目を瞑った。
「大丈夫ですかぁ?」
ん?声?
目を開けると、これもバカでかい犬が怪鳥に噛み付いていた。
犬は怪鳥を咥え首を振ってトドメをさした。
「たまたま通りかかったんですけど、そしたらコカトリスに襲われている方がいましたので」
犬が喋ってる…まだ夢を見ているようだ。
ぼーっとしたエルヒムに首を傾げる。「あのー?聞こえてます?」
「あ、ああ、聞こえてます。ありがとう。あなたも魔物なのですか?」
「え、あ、はい、多分そうだと思います。ケルベロスとかいう種族だと聞かされていますから」
授業で聞いたことがある。まさかこの目で見ることができるとは。今日はなんて日だ。ケルベロスは「はっ」と思い出したように。「あ、私ご主人様に呼ばれているのでこれで失礼しますね、お気をつけて!」
行ってしまった。残されたコカトリス。追っ手?まさか。魔物が追っ手なんてそんなの映画じゃあるまいし。悪魔がどうのこうのとか言ってたけどそんなの例えだろうに。
辺りが暗くなってきた。道端で夜を明かすのもあれなので森に入った。森に入ったはいいが道具が何も無いことに気がついた。
「とりあえずシェルターを作らないと」
長い枝を拾い立っている樫の木に立てかけた。立てかけた枝に枝を縦に組み合わせる。葉のついた枝を乗せれば簡易的なシェルターができあがった。
ひと仕事した所でお腹が鳴る。もちろん食べる物は持っていない。エルヒムは辺りを散策する。キノコ。草。ドングリ。意外と食べる物はある。常日頃野営をしていたので森の食べられる物は何となく分かっていた。白樺の樹皮を剥いで器を作る。
「あ、火がない…」
思考を巡らし、はたと思いつく。ベルトのバックルは鋼でできている。これを石に打ち付ければ火花が散る。硬そうな石を拾いバックルを打ち付ける。火花が散った。
「よし」
燃えやすそうな枯葉を見つけ着火する。小さな火花がポウっと大きくなりやがて炎となる。
焚き火でキノコとタンポップを煮た。水が入っていれば樹皮でも燃えることなく器となる。味付けはできないが今はそんなことを言ってられない。煮えたところで胃に流し込む。温かい。活力が流れ込んでくるようだった。キノコの出汁が細胞を活性化させる。
体も暖まったところでシェルターに潜り込んだ。酷い悪夢のような現実の中で、また森に包まれる事ができた。きっとこれが幸せと言うやつなんだろう。漠然とした思いの中で眠りについた。
「俺は…行かせてもらう」
「何処へだ」
「分からない。分からないが俺のいるべき場所はここでは無いと思う。だから行かせてもらう」
「そうか、好きにしたまえ。我々の仲間の要請を断った以上なんの助力もせんぞ。まもなく追っ手が来るだろう。我々も逃げたと報告するしかない。それでも良いなら行け。見つけてみよ己の居場所とやらを」
誰も止めるものはいなかった。ただ外へ出る僕に向けられた目は決意を感じさせるものがあった。
アーダンに目をやるとアーダンは小さく会釈をした。
自分たちの信じた道を一心に見つめる瞳。その瞳が怖かった。
屋敷を出たはいいがほんとにどうすればいいのか分からない。とりあえず村も心配だったので村の方に歩いた。
「追っ手ってそんな俺は大層なもんじゃないぞ…ん?」
バサァっと空から音がしたので上を向くと巨大な鳥がエルヒムに向けて急降下していた。
「え?え?鳥?しかもデカ!おわ!」
間一髪横に飛び退いた。怪鳥は尚も攻撃を続ける。回転しながらくちばしがドリルのように襲いかかる。エルヒムは重心を低くし半身でかわし当て身を当てたがそこは体重差が大きすぎる。自分が弾き飛ばされた。倒れた所へ爪が襲う。避けきれない。
目を瞑った。
「大丈夫ですかぁ?」
ん?声?
目を開けると、これもバカでかい犬が怪鳥に噛み付いていた。
犬は怪鳥を咥え首を振ってトドメをさした。
「たまたま通りかかったんですけど、そしたらコカトリスに襲われている方がいましたので」
犬が喋ってる…まだ夢を見ているようだ。
ぼーっとしたエルヒムに首を傾げる。「あのー?聞こえてます?」
「あ、ああ、聞こえてます。ありがとう。あなたも魔物なのですか?」
「え、あ、はい、多分そうだと思います。ケルベロスとかいう種族だと聞かされていますから」
授業で聞いたことがある。まさかこの目で見ることができるとは。今日はなんて日だ。ケルベロスは「はっ」と思い出したように。「あ、私ご主人様に呼ばれているのでこれで失礼しますね、お気をつけて!」
行ってしまった。残されたコカトリス。追っ手?まさか。魔物が追っ手なんてそんなの映画じゃあるまいし。悪魔がどうのこうのとか言ってたけどそんなの例えだろうに。
辺りが暗くなってきた。道端で夜を明かすのもあれなので森に入った。森に入ったはいいが道具が何も無いことに気がついた。
「とりあえずシェルターを作らないと」
長い枝を拾い立っている樫の木に立てかけた。立てかけた枝に枝を縦に組み合わせる。葉のついた枝を乗せれば簡易的なシェルターができあがった。
ひと仕事した所でお腹が鳴る。もちろん食べる物は持っていない。エルヒムは辺りを散策する。キノコ。草。ドングリ。意外と食べる物はある。常日頃野営をしていたので森の食べられる物は何となく分かっていた。白樺の樹皮を剥いで器を作る。
「あ、火がない…」
思考を巡らし、はたと思いつく。ベルトのバックルは鋼でできている。これを石に打ち付ければ火花が散る。硬そうな石を拾いバックルを打ち付ける。火花が散った。
「よし」
燃えやすそうな枯葉を見つけ着火する。小さな火花がポウっと大きくなりやがて炎となる。
焚き火でキノコとタンポップを煮た。水が入っていれば樹皮でも燃えることなく器となる。味付けはできないが今はそんなことを言ってられない。煮えたところで胃に流し込む。温かい。活力が流れ込んでくるようだった。キノコの出汁が細胞を活性化させる。
体も暖まったところでシェルターに潜り込んだ。酷い悪夢のような現実の中で、また森に包まれる事ができた。きっとこれが幸せと言うやつなんだろう。漠然とした思いの中で眠りについた。
0
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる