anything ~elf’s life~

むひ

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新たな一歩

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 エルヒムは立ち上がった。
「俺は…行かせてもらう」
「何処へだ」
「分からない。分からないが俺のいるべき場所はここでは無いと思う。だから行かせてもらう」
「そうか、好きにしたまえ。我々の仲間の要請を断った以上なんの助力もせんぞ。まもなく追っ手が来るだろう。我々も逃げたと報告するしかない。それでも良いなら行け。見つけてみよ己の居場所とやらを」
誰も止めるものはいなかった。ただ外へ出る僕に向けられた目は決意を感じさせるものがあった。
アーダンに目をやるとアーダンは小さく会釈をした。
自分たちの信じた道を一心に見つめる瞳。その瞳が怖かった。

 屋敷を出たはいいがほんとにどうすればいいのか分からない。とりあえず村も心配だったので村の方に歩いた。
「追っ手ってそんな俺は大層なもんじゃないぞ…ん?」
バサァっと空から音がしたので上を向くと巨大な鳥がエルヒムに向けて急降下していた。
「え?え?鳥?しかもデカ!おわ!」
間一髪横に飛び退いた。怪鳥は尚も攻撃を続ける。回転しながらくちばしがドリルのように襲いかかる。エルヒムは重心を低くし半身でかわし当て身を当てたがそこは体重差が大きすぎる。自分が弾き飛ばされた。倒れた所へ爪が襲う。避けきれない。
目を瞑った。
「大丈夫ですかぁ?」
ん?声?
目を開けると、これもバカでかい犬が怪鳥に噛み付いていた。
犬は怪鳥を咥え首を振ってトドメをさした。
「たまたま通りかかったんですけど、そしたらコカトリスに襲われている方がいましたので」
犬が喋ってる…まだ夢を見ているようだ。
ぼーっとしたエルヒムに首をかしげる。「あのー?聞こえてます?」
「あ、ああ、聞こえてます。ありがとう。あなたも魔物なのですか?」
「え、あ、はい、多分そうだと思います。ケルベロスとかいう種族だと聞かされていますから」
授業で聞いたことがある。まさかこの目で見ることができるとは。今日はなんて日だ。ケルベロスは「はっ」と思い出したように。「あ、私ご主人様に呼ばれているのでこれで失礼しますね、お気をつけて!」
行ってしまった。残されたコカトリス。追っ手?まさか。魔物が追っ手なんてそんなの映画じゃあるまいし。悪魔がどうのこうのとか言ってたけどそんなの例えだろうに。

 辺りが暗くなってきた。道端で夜を明かすのもあれなので森に入った。森に入ったはいいが道具が何も無いことに気がついた。
「とりあえずシェルターを作らないと」
長い枝を拾い立っている樫の木に立てかけた。立てかけた枝に枝を縦に組み合わせる。葉のついた枝を乗せれば簡易的なシェルターができあがった。
ひと仕事した所でお腹が鳴る。もちろん食べる物は持っていない。エルヒムは辺りを散策する。キノコ。草。ドングリ。意外と食べる物はある。常日頃野営をしていたので森の食べられる物は何となく分かっていた。白樺の樹皮を剥いで器を作る。
「あ、火がない…」
思考を巡らし、はたと思いつく。ベルトのバックルは鋼でできている。これを石に打ち付ければ火花が散る。硬そうな石を拾いバックルを打ち付ける。火花が散った。
「よし」
燃えやすそうな枯葉を見つけ着火する。小さな火花がポウっと大きくなりやがて炎となる。
焚き火でキノコとタンポップを煮た。水が入っていれば樹皮でも燃えることなく器となる。味付けはできないが今はそんなことを言ってられない。煮えたところで胃に流し込む。温かい。活力が流れ込んでくるようだった。キノコの出汁が細胞を活性化させる。
体も暖まったところでシェルターに潜り込んだ。酷い悪夢のような現実の中で、また森に包まれる事ができた。きっとこれが幸せと言うやつなんだろう。漠然とした思いの中で眠りについた。
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