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むひ

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旅立ちとは何か

西へ

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 霧のかかった森にいた。
「ほう、こいつか」
目の前に切れ長の目、尻尾が沢山生えた女性が立っていた。
「久しぶりじゃのう。忘れたか?無理もない。またわらわは見ておるぞ。楽しませておくれ」
なぜか名前は知っていた。インイン。
霧が晴れる。
 
 目が覚めた。傷もそこまで痛まなかった。上半身起き上がり、伸びをした。
「さっきの夢は何だったんだ…」
何やら美味しそうな匂いがする。全身が匂いを求めるようにお腹が鳴った。
「起きたようね。おはよう。貴方一週間も寝てたのよ。介抱が大変だったわ」
ムシャが微笑む横で犬が走り回る。
「こら、ケリー。大人しくして」
ケリーがしゅんとしたのが微笑ましい。
「あぁ、ごめんなさい。そんなに寝て…」
「いいのよ。それより薬剤師のアチンに薬草スープを作ってもらってたのよ。今、持ってくるわ」
言いかけると、奥から夫人が皿を持って出てきた。
「あっ、アチンありがとう、用意していてくれたのね」
「いいのよ、ムシャの頼みですもの。さあ、お飲みなさい。特製スープよ」
スープを受け取るとスプーンに口を付けた。いい香りとは裏腹に苦かった。
アチンは笑いながら。
「苦いわよね。でも、よく効くんですから、ちゃんとお飲みなさい」
お腹が空いているのもあり、一気に胃に流し込んだ。体が温まる。
遠くから赤ちゃんの鳴き声がした。
「あら、ユスキが泣いてるわ。それじゃムシャ、後は頼むわね」
「分かったわ、いってらっしゃい」
アチンを見送るとムシャがテーブルに何やらカードを並べた。
「さて、貴方何も分からないんでしょ。私が占ってあげるわ」
ムシャはカードを混ぜ一枚づつ並べ怪訝けげんな顔をした。
「こ、これは…貴方…まさかね。そんなわけ」
「何なんですか」
「んー、そうね、なんて言ったらいいのか。まあいいわ。西ね。西に答えがあると出てる。それに貴方名前も忘れているのよね。これからはエニスと名乗るがいいわ。うん、そうね、ぴったり」
何がぴったりなのか分からないがムシャは一人で腑に落ちているようだ。
エニス。妙にしっくりくる。
ムシャはそうだ、と膝を打つ。
「私の後輩にモチャって言うのがいるのよ。連れていくといいわ。紹介状書いておくからお行きなさい」
紹介状が手渡され、三軒向こうの小屋だと言われた。
ムシャに礼をいい家を出た。

 街の騒めきは何故か心を落ち着かせてくれる。色とりどりの果物、綺麗な服。平和だ。
「ここ、かな。すいません」
錆びた建付けの悪いドアを叩くと、はぁい、と女性が出てきた。
「あの、ムシャさんから紹介を受けたんですけど」
紹介状を渡たした。女性は一瞥いちべつすると。
「ふぅん、わかったわ。入ってちょうだい」
家に入るとリビングに一人の背の高い男と三人の女が座っていた。
入れてくれた女性が背の高い男に手紙を渡す。
「私はアンジー。ここのギルドの世話役。そして、この長身イケメンがモチャよ」
モチャが恥ずかしそうに。
「イケメンはやめてよアンジーさん」
他の三人はクスクス笑った。
「僕はモチャ、よろしく」
握手を交わす。
「そして、左から、ピヨーン、ストール、ハーチ。僕らはハビモズというギルドなんだ。結成してまだ一年なんだけど、幼い頃からの友達なんだ。ムシャさんから頼まれたら断れないよなぁ。西に何しに行くの?」
「それが、分からないんだ。西に答えがあると」
モチャは困った顔をしながら呟く。
「ほんとムシャさんは無茶振りするんだから。宛もなく西に行けって」
ピヨーンがミックスジュースを飲みながら喋る。
「あー!にひっへはーはふはが」
「何言ってるか分からんわ!」
ハーチの絶妙の突っ込みが入り、ストールが後を取る。
「ナーナ国ね。噂を聞いたことがあるわ。何やら事件が起きてるみたいなの。行ってみる価値はありそうね、モチャ」
「そうだね。何か手がかりがあるかもしれないね。そうと決まれば、アンジーさん、出発の準備をお願いします」
アンジーは腕まくりをした。
「任せなさい!あんた達のお守りは心得てますからね」
このやり取りで思わず笑ってしまった。こんな楽しい旅立ちがあるのか。頼まれた側なのにこんなに楽しそうに計画を立てるハビモズに心強さを覚えた。
「よろしくお願いします」
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