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二話
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「おう。来たか。早いな」
《はい。イールビ様、こんばんは》
森の奥にひっそりとそびえる屋敷。
いつからそこにあったのか、いつの間にできたのか、昼間は覆い茂った木々で隠れてしまっているが、夜になると数ある窓のひとつから微かに灯りが漏れる。
ジャイマーはいつものように器用に鍵を使ってそっと中に入ったのだった。
屋敷の主は屋敷が身体の一部であるかのように訪問者にすぐに気がついて「待っていたぞ」とばかりに迎え入れる。
漆黒の髪、衣装も全て黒ずくめだが、肌は白くエメラルドグリーンの瞳を持つ男がこの屋敷の主イールビだった。
イールビは暖炉のある部屋のソファに腰掛けた。
「今日はお前の修行してやる気分じゃねぇ。
のんびり音楽でも聴いて呑むかな。姿変えろよ」
《かしこまりました》
イールビが蓄音機を操作している間にジャイマーは背中の紋様を光らせて身体に力を込め、魔法を使う。全身が光に包まれ人の女性の姿へと変化した。
髪は犬の姿の時と同じオレンジ、瞳も同様にチョコレートのような色だ。
「なんでいつもそこ中途半端なんだ?」
「えっ、あ…。耳だけはなぜかおさまらなくて」
心に直接響くような声から、人らしく喉から声を発する。
人の姿は先程までの大きな犬の姿からは想像できないほど小さく幼い印象で、犬の耳だけが頭から生えている。
「そーゆー所が昔から大雑把なんだっつの。あと、もう少しセクシーになれねぇのか。なんでいつもそんなクソガキみたいなんだよ」
「魔力の問題です…。維持するにはコレが楽なんですよぅ!」
「その喋り方も。声も。ほんと素が出るとガキっぽいよな」
「うぅ…。で、でも、こっちの方がお好きでしょ…?」
「は?生意気言うな!死なすぞ!!」
「わー!ごめんなさいー!」
時折きつい言葉が出るものの、蓄音機から流れるゆったりした異国の音楽と、談笑の声が屋敷に響く。
夜が更けて、月の位置が低くなった頃、イールビはソファーに腰掛けていたジャイマーの膝に頭を乗せる形でゴロンと横になった。
「ひぇっ、あ、あの……?!」
「たまにはいいだろ」
ジャイマーは真っ赤になって顔を両手で覆う。
「ちょっと…その、恥ずかしいです…」
「はぁ~。ガキンチョだねぇ。乳揉んでるわけでもねーのに」
「ちょ、ちょっと…!」
「これならいいだろ」
黒い霧がイールビの身体を包むと黒猫に変化した。
ジャイマーの膝の上には黒猫がちょこんと丸くなっているだけだ。
「あら…」
《ふん。バカめ》
声も喉からではなく、心に直接響くように話しかけてくる。
《この姿なら…。って、おい。撫でるな。寝ちまいそーだ》
「ふふふ…。かわいいです」
先程まで真っ赤になって硬直していたジャイマーだが、今は膝にいる黒猫の背を撫で、喉を撫で、つやつやの黒い毛並みを堪能していた。
《姿ひとつでえらい違いだな…。ま、俺もこの姿になると多少気持ちも変わるけどな》
《こういうのが平和っていうのか…ふん。悪くはないな。》
「…そうですね。…でも、あの計画は…?」
《今は気分じゃねーって言ってるだろ。ムヒコーウェルがいなくなったんだ。力も足りねぇ…。俺がその気になった時、お前がすぐ動けるように鍛えてやってんだろ。今は…それでいいんだよ。ごちゃごちゃ言わずについてこんかい》
「…はい。どこまでもついて行きます」
《それでいいんだよ》
ふ、とイールビは眼を閉じた。
膝から伝わる温もりが心地よくて、眠ってしまうのに時間はかからなかった。
《はい。イールビ様、こんばんは》
森の奥にひっそりとそびえる屋敷。
いつからそこにあったのか、いつの間にできたのか、昼間は覆い茂った木々で隠れてしまっているが、夜になると数ある窓のひとつから微かに灯りが漏れる。
ジャイマーはいつものように器用に鍵を使ってそっと中に入ったのだった。
屋敷の主は屋敷が身体の一部であるかのように訪問者にすぐに気がついて「待っていたぞ」とばかりに迎え入れる。
漆黒の髪、衣装も全て黒ずくめだが、肌は白くエメラルドグリーンの瞳を持つ男がこの屋敷の主イールビだった。
イールビは暖炉のある部屋のソファに腰掛けた。
「今日はお前の修行してやる気分じゃねぇ。
のんびり音楽でも聴いて呑むかな。姿変えろよ」
《かしこまりました》
イールビが蓄音機を操作している間にジャイマーは背中の紋様を光らせて身体に力を込め、魔法を使う。全身が光に包まれ人の女性の姿へと変化した。
髪は犬の姿の時と同じオレンジ、瞳も同様にチョコレートのような色だ。
「なんでいつもそこ中途半端なんだ?」
「えっ、あ…。耳だけはなぜかおさまらなくて」
心に直接響くような声から、人らしく喉から声を発する。
人の姿は先程までの大きな犬の姿からは想像できないほど小さく幼い印象で、犬の耳だけが頭から生えている。
「そーゆー所が昔から大雑把なんだっつの。あと、もう少しセクシーになれねぇのか。なんでいつもそんなクソガキみたいなんだよ」
「魔力の問題です…。維持するにはコレが楽なんですよぅ!」
「その喋り方も。声も。ほんと素が出るとガキっぽいよな」
「うぅ…。で、でも、こっちの方がお好きでしょ…?」
「は?生意気言うな!死なすぞ!!」
「わー!ごめんなさいー!」
時折きつい言葉が出るものの、蓄音機から流れるゆったりした異国の音楽と、談笑の声が屋敷に響く。
夜が更けて、月の位置が低くなった頃、イールビはソファーに腰掛けていたジャイマーの膝に頭を乗せる形でゴロンと横になった。
「ひぇっ、あ、あの……?!」
「たまにはいいだろ」
ジャイマーは真っ赤になって顔を両手で覆う。
「ちょっと…その、恥ずかしいです…」
「はぁ~。ガキンチョだねぇ。乳揉んでるわけでもねーのに」
「ちょ、ちょっと…!」
「これならいいだろ」
黒い霧がイールビの身体を包むと黒猫に変化した。
ジャイマーの膝の上には黒猫がちょこんと丸くなっているだけだ。
「あら…」
《ふん。バカめ》
声も喉からではなく、心に直接響くように話しかけてくる。
《この姿なら…。って、おい。撫でるな。寝ちまいそーだ》
「ふふふ…。かわいいです」
先程まで真っ赤になって硬直していたジャイマーだが、今は膝にいる黒猫の背を撫で、喉を撫で、つやつやの黒い毛並みを堪能していた。
《姿ひとつでえらい違いだな…。ま、俺もこの姿になると多少気持ちも変わるけどな》
《こういうのが平和っていうのか…ふん。悪くはないな。》
「…そうですね。…でも、あの計画は…?」
《今は気分じゃねーって言ってるだろ。ムヒコーウェルがいなくなったんだ。力も足りねぇ…。俺がその気になった時、お前がすぐ動けるように鍛えてやってんだろ。今は…それでいいんだよ。ごちゃごちゃ言わずについてこんかい》
「…はい。どこまでもついて行きます」
《それでいいんだよ》
ふ、とイールビは眼を閉じた。
膝から伝わる温もりが心地よくて、眠ってしまうのに時間はかからなかった。
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