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八話
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船は待つ必要が無くなった。
イールビはムヒコーウェルの屋敷を出てすぐに覚醒した力でカラスに変身し、谷を登り海を渡った。
ロッロもそれに続いた。
今までは未熟だったロッロの魔力もムヒコーウェルに分け与えられた力が有り余り、闇の魔法だけは存分に発動させる事ができた。
あっという間にイヤザザ地区付近の森まで来ると、イールビは小さな祠の前で黒い霧に包まれ、人の姿に戻った。ロッロも犬の姿に戻るが、力をうまく制御できずにいつもの優しげな犬ではなく、牙を剥き毛の逆立った恐ろしい犬の姿にしか戻れなかった。
「グルル…」
いつものように喋ろうとしてもうまく行かなかった。そして、人の姿には何故だかなれなかった。
「ふう。ロッロ。おつかれ。もういいぞ」
祠の石段にドカッと腰掛けたイールビは今までの暗い表情を嘘のようにニッと笑って崩した。
おつかれ?どういうことです?と言いかけたがまた声にならず、唸り声にしか出なかった。
「あー。お前は当てられすぎ。コントロールできてねーのか。待ってろ」
頭に手を置かれ、ポンポンっと軽く叩かれると溢れんばかりに身体を纏っていた闇の魔力が吸い取られる感じがあった。逆立っていた毛が落ち着き、牙や爪も収まる。
《あ……》
「大丈夫か?」
気がつけば元の姿に戻っていた。
ホッとした瞬間に腰が抜けて、ロッロはその場にズシャッと尻餅をついてしまった。
「なんだよ?…あ。俺がなんか操られてるとか、変わっちまったって思ったんか?バカだなー。演技だろ演技」
《大丈夫か?はこっちのセリフですよ…!!!ムヒコーウェル…魔女にあれだけ色々とされて、瘴気を浴びて、まともでいられるなんて、一体どうなってるんですか》
飄々とした様子のイールビを見てロッロは体勢を立て直し、早口でまくし立てる。
「まぁ。おかげで魔力は覚醒したな。昔からなんか変だとは思ってたんだ。人には見えないモノが見えたり聞こえない声が聞こえたり。お前の声もそうだろ。魔法に関する知識もあるにはあったが、特別試そうとは思わなかっただけだ。キッカケが人を憎む心だったというのは自分でも驚きだが」
《憎む心……。その、先程の…は…》
「ん?あー……。そうだな。姐さんの言ってた事…な。聞いてたか。情けねぇ昔の話だ」
イールビはゴソゴソと懐を探ってタバコを取り出すと指を弾いて火をつけた。
ふうっと紫煙が立ち上る間にボソボソとロッロが続けた。
《それもですが…。新しい人を作る…というのは…》
「あぁ。それね。あの魔女ならそれくらいできるかなと思って言ってみただけだ。気にすんな。本気じゃねぇ」
《そうですか…。何はともあれ、イールビ様が無事で良かったです。…その、ツノも、カッコいいですよ》
ふ、とイールビは笑って、
「ツノね。余計な物がついたな。まぁいい。俺は何がついてよーが、カッコいいんだよ。てかお前、俺の心配より自分の心配してろよ。簡単に当てられやがって。それでも魔族かよ」
と、後半からやや口調を荒らげた。
申し訳なさそうにロッロは俯く。
《す、すみません…》
「言ったろ。俺の心配なんて100年はえーってな。今はちゃんとコントロールできるのか?人間になってみろよ」
《あ、はい…》
ロッロは身体に力を込めて魔法を使う。
いつも通りにしようとするが、力が膨れ上がるのがわかる。
なんとか押し込めて、人の姿へと変化する。
「うっ…大きな力の制御に苦労します。
できたと思いますが、どうですか」
いつもより時間がかかってしまったが、なんとか人の姿に戻れた、とロッロは思った。
「お前…いつもそうだといいのにな」
「へっ?!どこかおかしいですか」
「おかしくは、ない」
不思議に思って祠の隅にあった水たまりで確認すると、いつもよりも大人びた姿が映った。髪もいつもは肩までのセミロングだが、腰まで長い。
「…いつもは魔力不足だったんでしょうか」
「そーかもな。年相応感でいいんじゃね」
「…私をいくつだと」
「しらね。興味もねぇ。ババアなのは知ってる。が、なんでそこは中途半端なんだ?」
「そこ?」
顔や身体をペタペタと触って確認していくロッロは指摘した場所になかなかたどり着かない。
「耳だ耳。頭から生えてんぞ」
「え、あっ…。これは、なぜか収まりませんね」
「はぁー。大雑把すぎだわ」
イールビはため息をついたが、ロッロと目が合うとまた口の端がニッと上がるのがわかった。無事でよかった。と、お互いが心で呟いていた。
イールビはムヒコーウェルの屋敷を出てすぐに覚醒した力でカラスに変身し、谷を登り海を渡った。
ロッロもそれに続いた。
今までは未熟だったロッロの魔力もムヒコーウェルに分け与えられた力が有り余り、闇の魔法だけは存分に発動させる事ができた。
あっという間にイヤザザ地区付近の森まで来ると、イールビは小さな祠の前で黒い霧に包まれ、人の姿に戻った。ロッロも犬の姿に戻るが、力をうまく制御できずにいつもの優しげな犬ではなく、牙を剥き毛の逆立った恐ろしい犬の姿にしか戻れなかった。
「グルル…」
いつものように喋ろうとしてもうまく行かなかった。そして、人の姿には何故だかなれなかった。
「ふう。ロッロ。おつかれ。もういいぞ」
祠の石段にドカッと腰掛けたイールビは今までの暗い表情を嘘のようにニッと笑って崩した。
おつかれ?どういうことです?と言いかけたがまた声にならず、唸り声にしか出なかった。
「あー。お前は当てられすぎ。コントロールできてねーのか。待ってろ」
頭に手を置かれ、ポンポンっと軽く叩かれると溢れんばかりに身体を纏っていた闇の魔力が吸い取られる感じがあった。逆立っていた毛が落ち着き、牙や爪も収まる。
《あ……》
「大丈夫か?」
気がつけば元の姿に戻っていた。
ホッとした瞬間に腰が抜けて、ロッロはその場にズシャッと尻餅をついてしまった。
「なんだよ?…あ。俺がなんか操られてるとか、変わっちまったって思ったんか?バカだなー。演技だろ演技」
《大丈夫か?はこっちのセリフですよ…!!!ムヒコーウェル…魔女にあれだけ色々とされて、瘴気を浴びて、まともでいられるなんて、一体どうなってるんですか》
飄々とした様子のイールビを見てロッロは体勢を立て直し、早口でまくし立てる。
「まぁ。おかげで魔力は覚醒したな。昔からなんか変だとは思ってたんだ。人には見えないモノが見えたり聞こえない声が聞こえたり。お前の声もそうだろ。魔法に関する知識もあるにはあったが、特別試そうとは思わなかっただけだ。キッカケが人を憎む心だったというのは自分でも驚きだが」
《憎む心……。その、先程の…は…》
「ん?あー……。そうだな。姐さんの言ってた事…な。聞いてたか。情けねぇ昔の話だ」
イールビはゴソゴソと懐を探ってタバコを取り出すと指を弾いて火をつけた。
ふうっと紫煙が立ち上る間にボソボソとロッロが続けた。
《それもですが…。新しい人を作る…というのは…》
「あぁ。それね。あの魔女ならそれくらいできるかなと思って言ってみただけだ。気にすんな。本気じゃねぇ」
《そうですか…。何はともあれ、イールビ様が無事で良かったです。…その、ツノも、カッコいいですよ》
ふ、とイールビは笑って、
「ツノね。余計な物がついたな。まぁいい。俺は何がついてよーが、カッコいいんだよ。てかお前、俺の心配より自分の心配してろよ。簡単に当てられやがって。それでも魔族かよ」
と、後半からやや口調を荒らげた。
申し訳なさそうにロッロは俯く。
《す、すみません…》
「言ったろ。俺の心配なんて100年はえーってな。今はちゃんとコントロールできるのか?人間になってみろよ」
《あ、はい…》
ロッロは身体に力を込めて魔法を使う。
いつも通りにしようとするが、力が膨れ上がるのがわかる。
なんとか押し込めて、人の姿へと変化する。
「うっ…大きな力の制御に苦労します。
できたと思いますが、どうですか」
いつもより時間がかかってしまったが、なんとか人の姿に戻れた、とロッロは思った。
「お前…いつもそうだといいのにな」
「へっ?!どこかおかしいですか」
「おかしくは、ない」
不思議に思って祠の隅にあった水たまりで確認すると、いつもよりも大人びた姿が映った。髪もいつもは肩までのセミロングだが、腰まで長い。
「…いつもは魔力不足だったんでしょうか」
「そーかもな。年相応感でいいんじゃね」
「…私をいくつだと」
「しらね。興味もねぇ。ババアなのは知ってる。が、なんでそこは中途半端なんだ?」
「そこ?」
顔や身体をペタペタと触って確認していくロッロは指摘した場所になかなかたどり着かない。
「耳だ耳。頭から生えてんぞ」
「え、あっ…。これは、なぜか収まりませんね」
「はぁー。大雑把すぎだわ」
イールビはため息をついたが、ロッロと目が合うとまた口の端がニッと上がるのがわかった。無事でよかった。と、お互いが心で呟いていた。
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