〜close friend〜 《mamaによるanythingスピンオフ作品》

むひ

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十二話

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 「う、わっ…ぶっ!」

僅かに地面から浮いた場所に放られてよろけてしまい、見事に顔からの着地を決めたロッロだった。
それを横目にイールビは多少イラついた様子で封印の巻貝を見つめていた。

「だせぇ」

「うー。いたた。まさかこんな魔法まで使われるようになるなんて…。何が起きたのかわからないままでしたよ…!」

「はー。だせぇ」

「そ、そんなダサいダサい言わないでくださいぃ…」

ぶつけて赤くなった鼻を擦りながら涙目で訴えるロッロの方をようやくチラッと見たイールビは、ああ、というように納得してまた視線を巻貝に戻す。

「お前じゃねぇ。いや、お前もだけどな。俺の事だ。大人気ねぇ」

「イールビ様…」

「んーまぁ。時が来ればまた戻るわけだし。
いいか。テストにはなったな。切り替えだな。切り替え」

よし!と巻貝を首にまたかけ直すイールビを不安そうに見つめるロッロだったが、そういえばここはどこだろう、と辺りを見回すと見慣れた修道院の庭に来ていた事に気がついた。

「イールビ様、こ、ここは…」

「おう。女子供だらけの修道院だ。俺がやる気のうちにやっていくぞ。いいな」

「は、はい…」

「今はまだ人目につく。適当にメシでも食って夜決行だ」

「かしこまりました」

修道院の側には小さな湖がある。
その側の木陰でイールビは休むといって横になってしまった。その間にロッロは修道院の厨房にこっそり忍び込んだ。食事の支度時ではあったが、幸いまだ誰もおらず、棚にあった食材の中からパムといくつか残っていた野菜を少しとパム、チースを拝借してサンデイッチを作り包んだ。
何か寂しくて少し悩んだが、お湯を沸かして紅茶を入れたポットとマグカップを2つ、手近にあったバスケットに入れてそっと厨房をを後にした。

人目につかないように移動し、もう少しで修道院の敷地を出る、という所で「見慣れん顔やな」と声をかけられてドキッとする。
振り向くと、ポッツがいた。

ポッツは昔、イヤザザ地区の森で1人迷っていたのをロッロが修道院まで送り届けた子供の1人だ。今はもう立派な青年となり、修道院にいつもいるわけではないが、暇さえあればこうして顔を出しては妹達をとても可愛がっているようだった。

「ポッツ…」

「ん?なんや?わしの事知ってるん?」

「あ…、な、なんでもないです、ではこれで」

ポッツに人の姿を見られたのは初めてだった。いつも犬の姿でいたロッロだとわからなかったのだ。ましてや、今の姿は普段とは少し大人びていて違う。それにポッツは剣士で魔法を使わないので、犬の姿の時の声も聞こえない。
今はあまり人に会いたくなくてロッロは他人のふりをして足早に立ち去った。

「…なんや?こんな時間に」

不思議がるポッツにごめんね、と心で謝って、修道院を出た。

夕日が傾いてもうすぐ夜、という時刻になっていた。
湖のほとりまで来ると揺らめく灯りが見えた。
イールビが焚き火をしているのだろうか。
だんだん明るくなる方へと向かって行く。
それにしては明るいな、と思いながら進むとイールビの背中が見えたので、戻りました、と口を開こうとした瞬間に話し声が聞こえて慌てて言葉を飲み込んだ。

「………ですね…。……、…は、ここに…。
いつでも……」

「わかりました姫様。また参ります。ありがとうございます」

相手の声はよく聞こえなかったが、女性のようだった。神力の高い気配が消えたのが辺りの明るさでわかったので、ロッロはイールビ一人である事をよく確認してから「戻りました」と木陰から出た。

「おう。遅かったな」

先程の方は、と聞きたい気持ちを抑えて
「食事を用意してきました」
と、何も知らないフリで続けた。

「マジか。ありがとう」

「え…?!…あ、いえ、当然です」

「何に驚いてんだ」

「その、ありがとうって、久々に聞いたので、つい…」

「は?何かしてもらってありがとうなんて当たり前だろ」

「そ、そう、ですよ、ね…」

包みを広げて、サンデイッチを手渡し、少しぬるくなった紅茶をカップに分けて入れる。

「俺キュリ嫌い」

「す、好き嫌いはよくありませんよ…」

サンデイッチの中身からひょいっとキュリをつまんでヒラヒラとさせる姿が年不相応でやけに可愛らしく見えたロッロはふふっと笑って一応勧めてはみたが、

「人の食べ物じゃねぇ。ムシの食い物だろ」

と言ってロッロに向かって突き出すので、

「もぅ…。私がもらいます」

と、つまんで食べた。

「おう。ムシはムシの食べ物食っとけ」

イールビはニカっと笑ってからサンデイッチを食べ始めた。
それを見て安心してロッロも食べ始める。

「紅茶か。いい選択だな」

「お好きでしたか」

「まあね。良く飲む方だな」

「それは…良かったです」

自然と笑みがこぼれて、幸せな時間だな、とロッロは感じていた。
「ありがとう」か…。
普段は犬の姿でいて、こっそり人の姿になっては子供のお世話や修道院の家事をするのが日課だった日々の中でお礼を言われた事なんてあっただろうか、と思い出していた。
すっかりそれらが当たり前になってしまって、お礼を言われた事がなかった。
そんな時に久々のお礼を聞けてとても幸せな気持ちだった。

「食べたら出撃するぞ」

そんな気持ちも一言で吹き飛んだ。

「…はい。かしこまりました」

ロッロは、ふっと笑みを消し、と淡々と答えた。
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